首! ?
ホーム 上へ その品性たるや…

 

 もう20年以上も前のことになるが、M社を退職した後、ある方のお世話で自宅から徒歩でいける近さのところにある会計事務所に勤めたことがある。大手の企業の雰囲気しか知らなかった私にとって、従業員20人程度のその会計事務所の勤務実態には正直言って戸惑いが大きかった。ある日、別の部署の人から 、自分の上司を飛び越えて「今度の日曜日出社して手伝ってくれないか」という依頼というか命令というか何だか理解できない声がかけられた。要するに組織はかたちだけ、それが実態であり、会計事務所というのはこんなものなのかと少しがっかりした。

 考えていたイメージと違うことや資格試験へのあせりも高じて、入所4ヵ月後に、とうとう所長に電話した。「休職させてくれませんか」と願い出ると(まあこれも乱暴な話ではある)、翌日紹介者 も呼び出されて、「けしからん」という話の展開となり、「君、もう帰れ」が最後の言葉であった。翌日から出所しないでいると、数日後に内容証明郵便で解雇通知が送られてきた。「無断欠勤、勤務態度不良」と解雇理由が書かれてあった。要するに首になったのである。まあめったにできない貴重な体験をさせて頂いたものである。千里山の凡人さん!ちゃんと仕事してる?

 今の仕事は私ひとりでやっているので、首にすることも、首にされることも無いだろうと思っていたが、違った。面白いことに社員でもない私に「あんたを首にします」と言った2代目社長さんがいた。私の仕事が気に入らなかったようである。 あのことやなと、すぐにピンときたが、私も意固地なところがあるので、説明をしなおすようなことはしなかった。「お前んとこの社員やない」と 、ひとこと言うべきなのに、後で気づいて悔しい思いをした。

 人を雇っていないので「首」という言葉は言わずにすんでいるが、私の仕事上の信念から何件かのお客さんには「申し訳ないが、もう御社の仕事は辞退させて頂きます」と言ったことはある。当然その日から収入が減少することになるのだが、「自分のスタンス」をしっかりと保持し続けるために、そうすることに決めている。それが「自由業」の権利であり、義務であるような気がする。そんな感じで仕事をしていることもあってか、経済的にはいつまでたってもパッとせず、それも「自分のスタンス」と心の中でうそぶいているが、「首!」と言いたそうな女性が一人、私を監視しているように思えるのは気のせいか。

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