いつまでかは…
ホーム 上へ オッサンも大変です

 

 母は最期の4年間をある介護型の施設で過ごした。私は忙しい時期は別として毎週土曜日に必ず面会に行き、たとえ30分でも母と過ごした。同居して介護という選択をしなかった子供の一人としては、それがせめてもの罪滅ぼしであった。母はその施設の入居一期生であったが、同じ一期生の方でアルツハイマー症を発症された奥様を介護する○○さんとはすぐに知り合いになり、よく話をさせて頂いた。

 いわゆる認知症 は脳血管障害型痴呆症とアルツハイマー型痴呆症に大別される。前者は脳に充分な血液が行き渡らないために発症するのに対し、後者は脳器質そのものが萎縮するのが原因である。比較的若い年代で も発症するらしく、○○さんの奥様の場合も多分70代の前半の入所ではなかったかと思われる。(年をお聞きしたことがないが)。 ご主人に手をひかれて所内をよく歩かれていたが、当時すでに言葉を失っていらっしゃった。その後食事の意志あるいは能力が衰えるなど徐々に進行して、先日○○さんから頂いた暑中見舞いのお葉書によれば、入所から7年経過した現在では寝たきりの状態であり、胃ろうの処置をして、流動食の直接摂取をなさっているとのことであった。喜怒哀楽の表情を失われた奥様に対して、穏やかな顔で献身的な介護をされる○○さんの責任感の強さと奥様に対する真の愛情には本当に頭が下がる。玄関脇、妻が育てる草花のひとつです。

 先日某テレビ局の「いい旅夢気分」という番組だったと思うが、俳優のNHMYご夫妻が出演されていた。お若い頃から、おしどり夫婦の定評のあるお二人であるが、容姿にはさすがに老いの影が伺える。 ときおり足元の覚束無そうな奥様をご主人が一生懸命気配りしながら旅をつづけておられた様子 には感動させられた。偉そうなことがいえる柄ではないが、浮ついた言葉のやりとりではなく、アメリカナイズされた振る舞いでもなく、ましてや高価な「モノ」のプレゼントではない、お互いの信頼と愛情、それに裏打ちされた落ち着いた時間がこれからの人生を醸成させてくれるということを教えていただいた気がした。外見の若さがなくなり、老いが忍び寄ってこようと気にすることはない。いつまでかは分からないが、夫婦そろって健康に過ごすことを念頭におき、天がそれを許してくれるのであれば、それに勝るものはない。

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