転居先不明
ホーム 上へ 冬の陽射し

 

 「何でえ〜、どうしてえ〜」いつもの素っ頓狂な奇声で夢子さんが騒いでいる。先日投函した郵便物が(転居先不明)で戻ってきたという。ともかくも急ぐからということで、またしても運転手役を拝命して隣町のその方の郵便ポストに投函した。「何でやろ、合おてるのに」「そんなおかしなことあるかいな。いっぺん郵便局に聞いて見」

 夢子さんがいうには「その方」は何年か前にA地から現在の住所(仮にB地とする)に転居してきたという。とするならばA地管轄の郵便局に転送を依頼する届けを出しているはずである。その場合一年を過ぎるとA地への郵便物が出されても投函した方に差し戻される。しかし夢子さんが出した宛先はB地である。「?」宛先、宛名は正しく書きましょう!

 夕方その話になって、「うちの場合と同じやないか。いや考えてみたら、みんなそうやないか?そんなアホなことないで。いっぺん聞いてみたるわ」。つまり転居先に出した郵便物が配達されないならば、日本の郵便物はすべて届かないことになる。先祖代々住み続けていない限り、人はみな転居先に住んでいる。「何でですか?」「はい分かりました」恐縮そうに局の方が仰る。回答の電話がかかってきた。「やっぱり、このケースは配達はできません」「納得できません」局の方も、今度は紋きり調である。腹がたったし、こんな奴と話しても話にならないと思って、「分かりました。しかし上の方に確認しますから」と言って電話を置いた。

 せっかく美味しいお酒をと思っていたのに、お酒がまずくなった。そう思いながらも少し考えた。「あっ、分かった」。私の推理はこうである。@「その方」はA地からB地に転居したのではなく、元々B地に住んでいた。A何年か前にB地からA地に転居してB地管轄の郵便局(今回の郵便局)に転居の届けを出した。Bその後、またA地からB地に転居したが、その際にA地管轄の郵便局に転居の届けを出していない。したがってB地管轄の郵便局では出て行った部分だけが届けとして残っているので、A地に住んでいるとして取り扱わざるをえない。1年を過ぎた現在では差出人に返却するしかない。多分そうなのだろうと思う。

 「それにしても」とつぎに思った。「その方」のおかげで随分振り回された。ふつうの人ならば、まあ仕方ないかとも思うのだが、夢子さんに聞く限りはご立派な経歴の持ち主だという。へそ曲がりの私としては、そういうアンバランスには少々つむじを曲げてしまいたくなる。そういえば偶然だが、私が先日出した郵便物も一通「宛て所に尋ね当たりません」というゴム印がおされて返ってきていた。こちらは私が部屋番号を書き間違えていた。

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