地酒の常識
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 妻が肴の用意をする台所の横で、春の宵の酒を楽しむ。菜の花、蕗の煮物、筍、蛍烏賊等々に春を思いながら「ぬる燗」で飲む。私の唯一の贅沢である。そして私は酒は必ず「ぬる燗」で飲む。冷酒がもてはやされる風潮があるが、それぞれが好みの飲み方で飲めるのが日本酒の特長でもある。大吟醸であろうが、燗して飲んでも構わないと思う。

 要するに飲み方は自分が決めればいいのであり、勝手に決めてほしくはないのであるが、自由に飲ましてくれない店が殆どである。 一ヶ月程前に最寄駅近くの寿司屋さんに入った時はあきれてしまった。地酒のメニューがあるので「少し温めてもらえますか」と遠慮がちに問いかけると、即座に「それはご勘弁ください」との返事。「地酒の常識も知らない」とでも言いたそうな顔つきだった。仕方なく「普通の」酒を燗でたのむと、今度は熱くて持てないほどのものが平気で出てきた。

 ちなみにこの店、北新地近くにも出店しているがそれ程歴史のある店ではない。それにひきかえ数日前に息子の卒業祝と就職祝を兼ねて食事をした梅田のある店には感心させられた。地酒のメニューがあるのだが、それぞれの銘柄別に酒の種類(銘柄ではなく製法)と適温が表示されていて、この酒をこの温度でといった注文ができるのである。出てきた「土佐鶴のぬる燗」はちょうど良い温度だった。

 この違いは大きいが、そんな店は知るかぎり少ない。もっとも私のような呑み助にはそれでいいのである。もっぱら新梅田食堂街の「●●●」と「台所の横」が行きつけの店ということになる。 H15/4

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