夏の燈火
Circle Mebius
2004年初夏発売(同人の為正式発売日なし)
森羅万象の命の尊さを問う伝奇作品
同人作品はあまり買わない私ですが、
「真の感動を求める人に」のキャッチコピーだけで購入した作品です(笑
我が家(と言うか私だけ!?)では「泣き作品」にスポットを当てているので、
「これは買わない訳にはいかんでしょう!」
と意気込んでプレイしました(^^;

EDの最後に私の名前を入れて頂いているなど、
個人的な思い入れもありますが(←ワイロに弱い奴)
出来る限り公平な眼で率直にレビューしたいと思います。
・・・・・
・・・

この作品の発売を知ってから、私は幾つかの「過去の作品」をプレイしました。
そこで感じた感想は「求心力に乏しいシナリオだな・・・」でした。
伝えたい事は十分に伝わってくるのですが、
一言で言うと「だからどうした。」と言う気持ちになるんです。
今一つ感情に訴える部分に欠けるんです・・・。
ただその理由が掴めていなかったんですが、この作品で分かりました。
それは「ストーリーのテーマと軸が逆転している」為でした。
この「テーマと軸の関係」は「贖罪の教室」で書きましたが、
感動系作品においては「ヒロインとの相思相愛」を軸にして、
それぞれの作品のテーマを描かなければならないのに、
「江本あやえもん様」の作風はその反対になっていたのです。

この「事件」の方に重きをおく(軸)手法は主に「探偵モノ」などの
所謂「燃え作品」で用いられますが、その場合は作り手も
「燃える作品を作るゾ〜!」とやっている訳ですから問題ありません。
しかしこれら「Circle Mebius」作品では感動を狙っているので、
この手法ではどっちつかずになってしまうのです。
その為に今一つ感動出来なかった訳ですね。

これに気付いたのは、今回から参加の「るーすぼーい様」のシナリオのお陰です。
彼のシナリオは正に「ヒロインへの想い、ヒロインからの想い」を軸にしているので、
とても素直に感動出来た後に「あやえもん様」のシナリオをプレイして
その違いがやっと理解出来たのです。
「どちらのシナリオが正解」と言う性質の問題ではありませんが、
少なくとも「感動系」としては「るーすぼーい様」が似合っていると思います。
これを期に「あやえもん様」は「燃え作品」を書いてみられたら
面白いだろうナ〜なんて思っています(^^;



それではストーリーを順に見ていきます。
まず初期設定ですが、
舞台は現代日本の山奥の小さな山村。
主人公は子供の頃に遠縁の家を頼ってこの村を妹「湶」と共に訪れる。
そんな彼らを暖かく迎えてくれた同い年の「佳葉」と家長の「オトメ」
やっと安らげる「家」を得た主人公だったが、
この村は魑魅魍魎が封印された場所だった・・・。
と言うあらすじです。

これは「伝奇モノ」ですから、この「魑魅魍魎」と人間の関係が重要になっています。
この辺りも「よくある設定」になっていますが、
ココは却ってシンプルで良い設定だと思います。
ただ、登場キャラの設定までシンプルにしているのはど〜かと・・・(^^;
今一つキャラが生かしきれていない部分が見受けられます。
主人公よりも「オトメ」や「玲司」と言う脇役の方が目立っているのは、
子供の頃にこの村に来た設定の為に
「主人公」と「湶」の設定の練りこみが足らなかった為だと思われます。

ココでは「るーすぼーい様」が同じ境遇(子供時代から登場する)の
「佳葉シナリオ」で強引ながら「意外な展開」で新解釈を与えていたのが秀逸でした。
なるほど、こう言う手法もあるんですネ〜・・・。

次にシナリオですが、
ヒロインごとにライターの方が代わります。
前述しましたが、「佳葉シナリオ」を「るーすぼーい様」が、
子供時代と「湶シナリオ」を「江本あやえもん様」がそれぞれ担当しています。
その性質の違いは冒頭で書いた通りです。
テキストはとても丁寧で、好感が持てます。
冗長にならない様に場面転換をうまく利用したシナリオで、
「そう言えば・・・」と言う感じの自然な流れで構成されています。

2人に共通して言える事は悪戯に舞台を増やしていない所です。
あくまでも「閉鎖的な小さな山村」でシナリオは展開します。
舞台をどんどん拡大してゆく事でストーリーを盛り上げた「EVE」の様な作品もありますが、
概ねプレイヤーの感情移入が誘いやすいのは今回の様な作品です。
それだけに「キャラやストーリー」に集中出来る分、更に
高みを目指すには「練りこみ」が重要になるでしょう・・・。
その点で2人のシナリオの性質の違いが強調される訳です。

最後にストーリー展開ですが、
これも重要な事はあらかた前述してしまいましたが、
ココでは「佳葉シナリオ」をメインに見ていきます。
以下には所々「ネタバレ」を含みますので、その部分は伏せますので反転して下さい。

まず一番驚いたのが、子供時代が終わる直前です。
(ボソっと)主人公いきなり死んでますヨ!奥さん!(笑(ボソっと終わり)
最初は「ムチャするナ〜・・・」と思っていましたが、
これも前述した「新解釈&新展開」の為には必然だった訳です。
あのままで子供時代が終わってしまっては、何も進展が無いので
そのストーリーに華を添える意味だったのです。
これと同じ様な展開は「君が望む永遠」で見られます。
・・・って書いちゃったら、伏せた意味が無いじゃん!!(笑

気にせずに、どんどん行きましょう!(爆
こう言ったアクセントは「あやえもん様シナリオ」にはありません。
その為序盤から「事件」の方と向き合う事になるのですが、
この段階で既に感情に訴えるのを否定して事実のみで展開してゆくのが見えています。
ココで重要なのは「アクセント」では無く「キャラの成長」です。
もしこの作品がメジャー作品ならば「共通の大事件」でも起こして
それぞれに成長した各キャラが描けるのでしょうが、
生憎、そんな予算も時間もありません!
そこで「るーすぼーい様」は独自にアクセントを設けた訳ですネ。
その狙いは的中していて「必然として」成長した(変わってしまった)キャラが描ける様になります。
この手法は何度も使えませんが(あきるから)、今回は成功でしょう!

そして(ボソっと)幽霊として過ごした(ボソっと終わり)8年後から
ストーリー後半が始まります。
それぞれ成長して子供の頃は分からなかった各キャラの魅力が
見事に爆発してゆきます!
多少強引な展開ではありますが、久しぶりに還ってくる主人公と
佳葉の心の交流を描く準備は既に万全です!
さぁ!思い存分泣いて下さい!!
と言わんばかりに感動シナリオを畳み掛けてきます。
この見事な展開に私は正直に泣いてしまいました♪(笑

これには私も参りました。
とても読めなかった展開に完全にノックアウトです。
るーすぼーい様お見事ですm(_ _)m
流石に本職の方は一味違います。
私は今後も応援してゆきます、いやさせて下さい!
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これ以上はネタバレが過ぎるのでこの辺りでレビューを締めますが、
良い意味での「同人らしさ」が発揮されている作品だと思います。
これからも頑張って下さい!