こなたより かなたまで
F&C FC01

’03/12/12 発売

「生と死」そしてその尊厳の有り方を問う秀作

これは「ノベル」を得意とするFC01の本領発揮と言える作品です。
いや〜、久しぶりにこう言うテーマの作品で秀作に会えましたヨ(^^)
そう言えばこれの前に出会った作品もFC01の
「木漏れ日の並木道」だったナ〜・・・。
こっちのレビューは「ティターンズの作戦会議室」に掲載していますので、
宜しければご覧下さいm(_ _)m

実際「生死」をテーマにした作品って「現実離れ」した物が多いんですよ。
「いやっ!あなたと離れるなんていやっ!」
「僕だっていやさ!だけど・・・」
「何も言わないで!私を見て!」
「○○ちゃん!!」
(ヒシッと抱き合う2人、そしてHシーンに)

・・・君達世の中なめてます?
そしてこう言うシナリオを書くライターの方は
本当にこれで良いと思ってます?
こんな「現実を見てないシナリオ」じゃ感情移入出来ないって・・・(泣
私は「ファンタジーの世界」に生きているんじゃなく、
「現実」の中で生きてるんですヨ・・・。
「今まさに死を迎えようとしている人間」なら、
他にもっとやる事も感じる事もあるでしょうに・・・。

そこに登場するのがこの作品です。
F&Cで初めて「I’ve」を音楽に起用した作品と言う事で少し話題になりましたが、
「DOORS MUSIC ENTERTAINMENT」の大ファンである私は
全く興味は無く、当初は完全に回避していた作品でした。
ところが「これは泣ける!」との噂を耳にして、
「今年は1本も泣きゲーに会えなかったから、最後に行ってみるか」
と半ば投げやりな気持ちでプレイしました。
それ程に2003年は個人的には「アタリ」の無い年だったんです。



この作品の成功の鍵は「プロモーション戦略」でしょう。
OHPでの紹介でもあまり多くは語らずに、
つまり「肝心な所」は伏せたまま発売した所です。
「購入者」は何の予備知識も(結果的に)無いままプレイする事になり、
その「真意」を知った時に衝撃を受ける事になる訳です。
この手法は私の殿堂入り作品「家族計画」でも使われましたが、
購入した人にはとても効果的です。
・・・そう、購入した人には・・・。

危ない橋を渡りますね、F&Cさん。
私みたいに興味を惹かれなかった人がずっと回避してたら、
一体どうするつもりだったんですか・・・(^^;
あっ!だから「I’ve」なのか!
「I’ve」と言うだけで購入する人がいるから、後は口コミでと・・・。
そう言えば「家族計画」も「I’ve」だったな・・・(笑
だとすれば、私はそのパターンに綺麗に嵌った事になりそうです(^^;

どうせ嵌ったんなら、徹底的に嵌りましょう!
私はこの作品を応援しますよ!
・・・・・
・・・

と言う事でこの作品のレビューに入る訳ですが、
まずスタッフ紹介から・・・
プロデューサーは「源之助」様
ディレクターは「弥七」様
原画は「しゃあ」様
皆様最近のF&Cの屋台骨を支える方々です。
(正確には「Tacet」の方も混じってますが(^^;)
逆に言えば、「F&Cなんて大嫌い」と言う方は、
ある意味この方々のゲームが嫌いと言う事です。
でもご安心下さい!
シナリオの「健速」様がいます!
「甘ったるいシナリオなんか書けね〜ゼ!」
とばかりに、いつも「スパイス」を利かせた内容で攻める方です。
今回はほとんど「立ち絵」と「背景」で進んでいく内容で、
イベント絵が少ないのでこの作品の魅力は、
ほとんどシナリオによるものです。

「I’ve」の曲はいつも通り「OPとEDに全てを賭ける!」と言う感じで
ゲーム中のBGMは正直な所印象に残りませんでした。
ただその「OPとEDの曲」は素晴らしい出来栄えで、
久しぶりに「I’ve」の実力を見せられた気分です。
詳しくは「おまけコーナー」で書きたいと思います。

それではいよいよ具体的なレビューに入ります。
まずは初期設定からですが、
舞台は現代日本、主人公は(1点を除いては)普通の高校生。
彼には同級生の「幼なじみの男女」がいて、
両親が他界して一人っきりで生活している今の現状を
彼らに支えられて前向きに生きていると言う設定です。
そこに現れた「可愛い吸血鬼」のヒロイン。
(吸血鬼である必然性は後に分かる事になる)
彼女を受け入れた主人公は今までと少し違う日常を送る事になる・・・。

あの〜その唐突で脈略の無い(と思ってた)設定はなんですか?(^^;

当初私が「回避」したのは正にこの設定の所為です。
「君が望む永遠」のレビューで書いた通り、
私は「初期設定」をとても重要視しています。
その為この「脈絡の無い(様に見える)設定」を見て
すぐに「回避」を決定したのです。
だってイキナリ「吸血鬼」ですよ「吸血鬼」!(←2回言うな
私がそんな作品を買う訳ナイじゃないですか!?
・・・と、ここから「プロモーション戦略」に嵌った訳です(^^;

次にシナリオの検証ですが、
この辺りから「ネタバレ」をしない様に書くのが難しくなってきます。(汗
いっそ「ネタバレ」で書いてしまおうかとも・・・。
・・・いやいや、それは私のポリシーに反するのでやめておきましょう。
シナリオは主人公が抱える「とある事情」の為に、
終始一貫して「テーマ」を追いかけるので、とても素直です。
「起承転結」もしっかりしており、読んでいて不安なく引き込まれます。
ただ、「各キャラシナリオ」の内容が薄く、
メインヒロインを除くシナリオの大半が「共通パート」なのが
この作品を「名作」から遠ざけています。
この辺りが「いつものF&C」ですね(^^;
ホントに「もう一ひねり」があれば「名作、大作」になるのにナ〜。
それこそ、「手軽に遊べる作品を作る」と言うF&Cのポリシーかもしれません。
でもその所為で「次席作品」にせざるを得ないのも事実です。

それでは最後にストーリー展開を見ていきます。
途中まで「初期設定」で書きましたが、
「吸血鬼」であるヒロインを受け入れて一緒に住み始めた主人公でしたが、
今まで吸血鬼に対して持っていた「先入観」を覆されて、
例えば「吸血鬼は日光に弱い」と思っていたのに実は
「日中は普通の人間と変わらなくなるので、安全の為出歩かないだけ」
だと知って驚いたり(注:このゲームではそう言う設定になっている)
している内に、隣に誰かが居てくれる喜びを思い出して
次第に心惹かれていくのですが、
彼は「とある事情」を抱えている為に
周囲と距離を置こうとしていた所でした・・・。
と言う感じのストーリーです。

実はこの作品の大半の部分は、その「とある事情」からくる
主人公の心の葛藤を描いるので、「ネタバレ」なしで書ける事はほとんどありません。
ただ、その「心の葛藤」の内容や「物の感じ方」「考え方」などが
見事に描写されていて、とても共感出来ます。
そして「不幸な境遇」にあっても「自分を見失わずに生きていこう」
とする主人公の姿勢に胸打たれる訳です。

・・・だめだ、どうやってもこれ位までしか書けない・・・。
それでは最後に私が「ホロッ」ときたポイントを書いておきます。
それは主人公がヒロインにアクセサリーをプレゼントしようとして、
入った貴金属店のオーナーと主人公のやり取りです。
主人公の現在の境遇を見抜いたオーナーが勧めたのは
「一粒のダイヤが光るプラチナ台の指輪」
更には「この指輪には今の所半分の価値も無いから代金はいらない」
「次に来られた時にまとめて頂きます」
と付け加えてきます。
何の事か分からない主人公に対して、そのオーナーは
「今日は久しぶりに良い商売が出来ました」
と晴れやかに言います。

事の真意はぜひ皆様ご自身が確かめて下さい。




「思い通りに生きるのは難しいね」

作中でヒロインはそう言います

思い通りにならない他人

思い通りにならない人生

でも一番思い通りにならないのが

「自分自身の心」

その答えを彼の友人は知っています

「来年までは待てないぜ」