鼻の奥がカユクなるバツイチへの道


終章 一人の部屋で
 最終話 
「五月の風」




 いつの間にか…

 もうあれから5年が経とうとしている。

 僕は新しい恋を見つけた。

 こんどこそ、幸せにしなければいけない人を見つけた。

 こんどこそ、一生かけて守らなければいけない人を見つけたのだ。


 K子の置いていったままの家具が残っている。

 K子との思い出を断ち切るために。

 自分の新しい幸せを確かなものにするためにも。

 思い切ってメールを送った。


  「お元気ですか?

  あなたからお預かりしている家具を

  そろそろお返ししなければならない時が来たようです。

  都合のいい日を知らせてください。

  家にいるようにしておきます。

  あなたはこなくても運送屋さんに任せてくれてるだけで結構です。

  返事を待っています」


 素っ気ない事務的なメールに、これもまた素っ気ない返事が帰ってくる。。


  「メールありがとう。

  元気にやっています。
 
  今月の○日に運送屋さんに行ってもらいます。

  私は申し訳ないけど行きません。

  今まで預かっててもらってありがとう」


 その朝。

 タンスの周りを片付ける。

 一番上の引出しからコロン、と出てきたリングケース。

 中を開くとK子に贈ったエンゲージリングが出てきた。

 開け放したケースにしばらく目が吸い寄せられる。


 リングにはまった石だけが、

 あのときの二人の輝きをそのまま保ち続けていた。

 リングを持ったまま僕は身動きが取れないでいた。

 ダイヤの輝きがほんの少しにじんだような気がした…


 ため息とともに、そのままそっと元の引出しの中にしまいこむ。

 ドアチャイムが鳴った。

 運送業者がやってきたんだ。

 タンスから離れ、ドアを開けた。

 …あの時と同じ初夏の空気が、部屋に流れ込む。


 やっとこれで終わった。

 すべて終わった。

 長い長い恋だった。

 長い長い旅だった。

 一気にがらんとした部屋で、

 さっき見つけたダイヤの輝きを目の裏に思い起こす。


 キミのおかげで僕はやっと大人になれた。

 キミのおかげで僕はやっと幸せになれそうだ。

 …ありがとう。

 そして、ごめん。


 どうか、キミも幸せに。

 心から…



バツイチ道indexへ   ひとつ前へ   あとがき