鼻の奥がカユクなるバツイチへの道


終章 一人の部屋で
 第2話 
「ありがとう…」




 何度かK子の実家に電話した。

 お母さんとも泣きながら話をした。

 お父さんとも泣きながら話をした。

 僕とあんなに仲の悪かった彼女の妹が一番真剣に話を聞いてくれた。


 いまさらながら後悔した。

 愛すべきは彼女一人ではなかったのだ。

 彼女の大切なひとすべてを愛すべきだった。

 頭では解っていたのに。

 向こうは愛そうとしていてくれたのに。

 そう気づいたって。

 いまさら…遅すぎる…


 それから一年をかけて何度かK子とも話す機会を持ったが

 結局諦めざるをえなかった。

 彼女の決心は岩のように固かった。


 僕ができるのはもう、これしかなかった。

 目の前で彼女の届けてくれた離婚届に判を押した。

 「…ありがとう」

 K子のそのときの安堵の表情が忘れられない。

 この顔をどうして二人で暮らすうちに作ってあげられなかったんだろう。

 どうして…

 どうして…



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