鼻の奥がカユクなるバツイチへの道


第12章 君が…見えない…
 第4話 
宣告




 「どうしたん、食べへんの?」

 夕食の箸が進まないK子。

 彼女自身の作ったもので、手前味噌だが味はなかなかだった。

 「うん…食欲なくって」

 「また?医者に診てもらったら?」

 抱えている仕事が山場を迎えているらしく、

 あいかわらず帰りの遅い日の多いK子。

 原因はそこにあるんだろう、とタカをくくっていた僕。


 「う…ごめん」

 トイレに駆け込むK子。

 水の音で消してはいるが食べたものを吐いているのは気配でわかる。

 普通なら、オメデタか!と喜ぶところだろうが

 この数ヶ月、あれ以外、見事なまでに交渉はない。

 それもたった1週間前だ。

 「なんやねんな…いったい…」

 なんともやるせない気持ちになって僕も箸を進ませることが出来ない。


 トイレから出てくるK子。

 「おいおい。顔が真っ青やで…頼むから医者に行ってくれ」

 「そんなんとちゃうねん………」

 「ん?神経科のほうがええんかな?」

 「まだ…わからへんの?」


 言いようのない不安感だったものが今、
 
 目の前でみるみる実体化しようとしている。

 K子が何を言おうとしているか、それは手に取るようにわかっていた。

 それだけにできることならK子の口を塞いでしまいたかった。

 でも…できなかった。

 体はぴくりとも動けない。

 まばたきすら止まってしまった。

 息が詰まるような沈黙の後、

 K子は大きな吐息とともに、ついにこう言った。


 「アタシと…別れて。」




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