鼻の奥がカユクなるバツイチへの道


第12章 君が…見えない…
 第1話 
新婚気分




 いよいよ待ちに待っていた、はずの、

 二人きりの生活が始まった。

 新築のマンションを親の援助もあって購入し

 遅まきながらこれ以上はないスタートだった。


 最初の夜は電灯を買い忘れ、

 窓からの明かりとろうそくだけで過ごす。

 ロマンチック、といえばそうかもしれないが

 間抜けだね、と二人で笑ったのも、

 今となっては、はかなくもほのあたたかい想い出…


 しかし実際には互いに仕事が忙しく、

 二人で暮らしている実感はなかなか沸かなかった。

 それでもたまに二人で摂る夕食の時間が楽しみで

 そういう日には早退しかねない勢いで会社を出た。

 出逢ったの頃のような新鮮な感情で、

 この頃の僕は彼女を再び愛し始めていた。

 家族が出来た。

 愛すべき家族が出来た。
 
 やっと守るべき家族が出来た。

 ささやかながらも喜びに満ち溢れた生活だった。

 そう、僕にとっては。


 しかし

 逃げるようにK子の実家を出て来たことが

 すでにもう、遅すぎたことを知るに

 それほど時間を要さなかった。



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