鼻の奥がカユクなるバツイチへの道


第10章 束の間の幸せ
 第3話 
ジレンマ




 その不安が徐々に大きくなっていく。

 式まであと1ヶ月。

 それは大きなストレスとなって二人を蝕みはじめていた。


 僕にとってはあれほど温かだったK子の家族が、

 徐々に重荷になっていく。

 見知らぬ他人と暮らす、ということも

 ストレスの一因であったかもしれない。

 温かくされればされるほど、互いに気を遣い

 身の置き所がなくなっていくような。

 彼女にとってはびくびくと萎縮してしまっているかのように見える

 僕と、家族たちの関係を見るのも辛かったに違いない。


 早く二人きりになりたい。

 でも、二人になるのが怖い。

 わずかひと月ふた月で相反する二つの感情を抱え込んでしまう。


 彼女の母親や妹と小さな衝突を繰り返す日々。

 K子の家では当たり前なことも、

 僕にとっては我慢できない。

 僕にとっては当然なことも、

 K子の家族には受け入れられるものではない。

 落ち着かない日々のジレンマがじわじわと首を締めはじめた頃。

 結婚式の日がやって来る。

 なぜこの時点で足を止めて振り返ることが出来なかったのか…


 …今でも悔やまれる。

 しかしその時は、こうするしか手がない、と思い極めていた。

 例え不幸になろうとも、結婚でもしなければこの恋は終わらなかった。

 そして、その日がやってきた。



戻る   前へ   次へ