鼻の奥がカユクなるバツイチへの道
第10章 束の間の幸せ
第2話 転がる石
式までの間、それまで住んでいたアパートを引き払って
K子の家に文字通り転がり込んだ。
K子と初めて結ばれたボロアパート。
声の漏れるのを神経質なまでに気遣わなければならなかったボロアパート。
二人の原点であり、甘い想い出のつまったこの部屋を出て行くとき
「これでもう、帰るところがなくなったんだ…」と思った。
正直怖かった。
転がり込んだ先のK子の家は温かだった。
K子の家族がそれまでギスギスしがちだった
二人きりの関係に潤滑油となって沁み込んでいく。
婆さんが何くれとなく世話を焼いてくれ、
親父さんも温かく迎えてくれた。
女ばかりの家族で本当に息子が出来たみたいに喜んでくれたっけ。
家族の温かさから離れていた時間が長かった僕には温かな想い出だ。
しばらくは楽しい日々が続いた。
なんの不安もなかった。
二人で暮らし始める日。
唯一の不安はそれだった。
それが近づいてくるのが不安だった。
しかし…坂を転がり始めた石を止めることはできなかった
もう、引き返すことは出来ない…
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