鼻の奥がカユクなるバツイチへの道


第6章 予感
第3話 闇と沈黙




 うすく明かりをつけただけの部屋の布団の上で

 二人は服を着たまま抱き合っていた

 お互いに異性の身体を知らぬわけではないのに

 なぜかそこから先に進むことができなかった

 「…ほんまに。ええの?」

 「うん…まだ彼氏には言ってへんけど…」

 「やっぱりだめだった、てことにはならへんよね?」

 「もう、もどられへんよ…いまさら」

 「判った。もう聞かへん…」

 もう一度キスをしてもう一度強く抱きしめる


 「あのちっさいのも消して…」

 「え?真っ暗になってまうで」

 K子は天井からぶら下がっている蛍光灯の傘の中の

 小さな豆電球をさして言った

 「うん…でも、ホンマに恥ずかしいから…お願い、今日は消して」

 「…わかった」

 K子の体が見たいという気持ちは、正直あったが

 僕は立ち上がって蛍光灯のヒモを引いた

 闇が部屋の中を覆い尽くす

 沈黙と一緒に部屋を塗りつぶしていく




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