鼻の奥がカユクなるバツイチへの道


第5章 キス
第4話 背中を…




 目が覚めるともう、日暮れ近い時刻だった

 目の上に乗っていたまだ幾分冷たさを残したタオルを取る

 西日が窓からうっすら射し込んでくる

 傍らにはこれもいつ眠ってしまったのか、K子が眠っていた

 横になったまま、K子の寝顔を見つめる

 視線に気がついたかのようにK子の目がうっすら開く

 「…彼のこと…まだ好きなんか?」

 幾分、いやかなり唐突ではあったが、僕の口をついて言葉が出て行った

 「…わからへん…」

 K子は困ったような声。視線はまっすぐこっちを見つめながら…

 「別れるっていう…きっかけが掴まれへんねん…なにかきっかけがないと…」

 「僕は、どうすればいい?」

 「…わかれへん…」

 今度は少しささやくような声で繰り返すK子…

 「誰かが、ドンッて背中を押してくれないと…アタシ、踏み切れない…」

 ほんの少し…だが、ずいぶん長く感じた静寂のあと、僕はK子にささやいた

 「…背中を、押すのは、僕でいいの?」

 いつの間にかK子に半ば覆いかぶさるように、上から彼女の目を見下ろしていた

 「背中…押して」

 小さくうなずきながら目を閉じるK子


 …キスをした

 最初は軽く。一度顔を離して、見交わしたあと、今度は長く…

 長い長いキスのあと、抱き合いながらK子が耳元でささやく

 「目、治ったね…」

 「…うん」



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