鼻の奥がカユクなるバツイチへの道


第5章 キス
第2話 めばちこ




 日曜日の朝…

 K子とのデートの日

 少し心に期する下心を持ち、さあ、目が覚めた…

 目が開かない…

 まぶたが異様に重い…

 なんだ?

 薄めにしか開かない目をこじ開けこじ開け鏡の前に…

 「ぐわっ…なんでまた…」

 そこには思いっきり腫れあがった両まぶたを抱えて

 そのあまりの容貌の変わりように笑い転げている男の顔があった

 「これは…いかんなぁ…(苦笑)」

 まるで試合の次の日のボクサーのような両まぶた

 これは間違いなく「めばちこ(=ものもらい)」だ

 いくらなんでもこの顔では人様の前に出るわけにはいかないなぁ…

 両目を氷で冷やしながら、K子に電話を入れる

 「おお、僕だけど、今日はちょっと、取りやめに…」

 「ええ〜っ!なんでー?お化粧までしてもうバッチリやのにぃ!」

 「いや、実は…」

 「ああ、そうなんやぁ…じゃ、そっちへ行っていい?」

 「…え? 今なんと…?」

 「だから、今から行くから、寝て待っといて。じゃーね!」

 そう言って電話を切ったK子

 おいおい、マジかいな…薄目をあけて部屋を見回す

 この惨状では寝て待つわけにも行くまい

 とにかく部屋を片付けなければ…

 汗だくになって掃除を始めた

 アッチのもんをコッチへ、コッチのもんをソッチへと、

 としているうちにあっという間に時間は過ぎてしまう

 玄関の薄いベニヤ板の扉が鳴った

 「はい?」

 「あーワタシワタシ。来たよーっ」

 「あ、あ、ちょ、ちょっと待って」

 扉を開ける、と同時に、5月のさわやかな空気を引き連れて

 K子が颯爽と部屋の中へ上がってきた…



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