耳の穴がカユクなる恋愛絵巻

「アウトドアな恋」その4

その夏、二人は幾度となく広いキャンプ場の中で密会を繰り返し、キスを楽しんでは宿舎に戻る、と言うことを繰り返していた。しかし、そこまででありやはり他の仲間と一緒に寝泊まりしている環境では、それ以上には発展し得ない。

その進展のなさに我ながら焦りを感じ始めた頃…ついにその瞬間はやってくる。

長い泊まりのあるキャンプが終わり、二人そろっていったん山を降りる夏休みも半ばの日、彼女は帰りのバスの中でそっとこう言った。

「ワタシ、家にはもう一日泊るっていうことにしてるの」

大阪に着き、何人もの仲間たちをそれぞれにうまくふりほどき、再び落ち合うことのできた二人はそのまま食事にでかけた。道頓堀川にネオンが映る、明るくにぎやかな夏のミナミ。冷たいビールとともに熱いお好み焼きをほおばる。

まるで夫婦善哉の世界やなぁ、と自分たちの幸せにもすっかり酔って浮かれて、足をそのまま東へ向け、とある神社へ向かった。
(後から聞けばここは大阪市内名うての心霊スポットだったらしい)
神社の階段に腰掛け、キスを交わす。
しかし。
腰掛けたまま動けない。

彼女を傷つけたくない、自分も傷つきたくない。キスから先へ進めない。お互い初めて、ではなかったが、大事にしたいと思える人とは初めてだった。

「ワタシ…ええんよ」

彼女がそう言ってくれなかったら、そのまま心霊スポットで夜明かしをする羽目になっていたかもしれない。遠くに見えるやたら派手なネオンに手を握りながら近づく二人。ホテルのネオンのまぶしさが二人の顔を照らし出し、気恥ずかしさで躊躇すること数度。ようやく入ることのできた、何軒目かのホテルで、二人は心ゆくまでお互いを抱きしめあえた。

灯りを消すのも忘れ、二人は明るさに体をさらけ出して愛し合った。ずっと待ち望んできたこの瞬間…

少しずつ少しずつ体温が高くなっていく。
そして互いの熱さの中心に達したとき、それまで味わったことのない感動をはっきりと覚えた。

またしばらくして山に戻り、同じチームの彼女に惚れていた男には礼を通そうと正直に打ち明けた。彼とは一時ぎくしゃくしたが、その後は酔えば絡まれる程度であり、何事もなくすぎた、が。

その夏は山から下りては一泊余分に二人で愛し合うことを続けた。そうすることが楽しくて、また二人にとっては極々自然で当たり前だったのだ。

夏が過ぎ、秋が来て、冬になろうとしたとき。
永遠なモノは何一つないことを知る。

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