耳の穴がカユクなる恋愛絵巻

「アウトドアな恋」その5

キャンプからも離れ、逢う機会も必然的に減って行く。山で燃え上がった恋は、街の中ではその熱を奪われていくのか。それは、少しずつ明るさと暖かさを失い、いつの間にか「逢ってする」だけの関係が色濃くなっていく。

そしてある晩、彼女から電話が入った。

予想はしていたが、やはり突然だった。

「もう、終わりにしたいねん…」

その声は初めて二人で火を囲んだときの彼女の口ぶりにあまりにも似ていた。

「やっぱり…理由は?」
「他に好きな人ができた。ホンマに」
「…やっぱり、としか言えん…」

就職活動の中で出会った人だと言う。彼女の熱はすでに冷め、その熱を補うかのように、きっとどこかで僕の知らない誰かと別の炎を囲んだのだろう。

もう少し夏が長かったら。
もう少しあの時の炎が強かったら。
二人で感じた炎の熱は、冷めずにいたのかもしれない。



そして今は彼女も3人の子の母。
結婚相手には、結局紆余曲折の末、僕らとは違うチームの同じボランティアスタッフだった男を選んだらしい。

あれからもう、12年…彼女とはそれなりに話をしても、彼とは全く話をしない。互いに顔を知ってはいるモノの、やっぱり「穴兄弟」というものはどこか居心地の悪さを感じさせるモノだ。
そして僕も、この冬に2度目の(笑)結婚をする。

現在は職場としてこのキャンプ場に通っているが、ふとした弾みで彼女のことを思い出すときがある。

今日のキャンプファイヤーの炎の向こうに見えた夏の夜空に。
星がひとつ流れたような気がした。

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