耳の穴がカユクなる恋愛絵巻
「アウトドアな恋」その2 |
「い、いや…」 渇きでひりつきそうなのどから、絞り出すようにやっとの事で声を出す。 「好きな人は…いるの?」 「い、いるっちゃぁ、いるかな。あはあはあは」 いや、それはキミや、俺が好きなんは、キミなんやで!…とは言えなかった。 彼女は仲間だったし、実際恋愛感情は持っていないと思っていた。また当時の己のモテなさぶりを省みて、そんなにウマいこといくわけあらへんと、思いこんでいた。 そう。その言葉を聞くまでは…そう、だった。 いや。高ぶりがそう思いこもうとしているのか? 違う違う。この気持ちは真実だ。真実のはずだ。 しかし。しかし一歩が踏み出せない。 「さ、もう遅いし、寝よか」 耐えきれず、無理にはぐらかすようにそう言って立ち上がってしまってから、激しく後悔したがもうあとの祭り。 二人の顔を赤く照らしていた炎を消し、あたりは再び闇に包まれた。煙が目にしみる…少し星がにじんだようだ。 懐中電灯の灯りが心のどこかを冷ます。 その灯りに救われたような安堵感と、それでいて心残りのようなもやもやを背負ったまま、それぞれの宿舎へ向かおう、とすると。 「待って」 うしろからTシャツの裾を引っ張って止められた。 「一緒に、寝て」 そう言って後ろからそっと抱きついてくる彼女。 うひょぉ。これはこれはこれはこれはこれは! 今ならさしずめ心の中は 「キタ━(゚∀゚)━( ゚∀)━( ゚)━( )━( )━(゚ )━(∀゚ )━(゚∀゚)━!!!!」 でいっぱいになるか、思わず周りをきょろきょろして隠しカメラを探してしまいそうになるところだが、さすがに純情かつさわやかなアウトドア青年(当時)。金縛りにあったように、そこから一歩も動けなくなってしまった。もちろん「あ、胸が当たるんですけど、あ。あ」などと思う余裕もない。 心臓はまさに早鐘のよう、手の中の懐中電灯が心なしかふるえている。虫の声も聞こえなくなった。 「テントで、寝ぇへん?」 そう言って彼女は僕の手をテント村の方へ引っ張る。 (好きやったんや、こいつのこと………ずっと前から) 彼女の手のぬくもりがそのおぼろな想いを、迷いから確信に変えた。 |