耳の穴がカユクなる恋愛絵巻   

第七夜 大学5年生
 The Electric Love その2 

「…あ、あのね、私…」

どうしよう?このまま聞いてしまっていいのだろうか?

聞かなかったことには、今からでもできるかもしれない

どうする?聞いていていいのか?

「私…私ね…」

「いや、あの…」

「すごい、静電気体質やねん」

「…?は?今、何とおっしゃいました?」

「だから、すごい静電気体質やねんやんか…」

「じゃあ、キスできないのも…」

「そう、ビリビリッて来るねん。唇痛いねん」

「車のドアも…」

「車のドアは凄いよ、バチッて、火花が散るときがあるよ」

「それで…お姫様…」

「そうやねん。ごめんね。もう、ドア開けるのが怖くって怖くって…」



なるほど…確かに冬は静電気の季節です

空気が乾く、服も静電気を発生させやすいものを着ることが多くなる…

だからといって、何時までもお姫様のままではいけません

キスもできないお姫様では、ガラスケースに入っているのも同じです


そして何よりも…僕自身も静電気体質なのです

ますますこのままではいけません

立場は今、対等になったのです

同じ静電気体質者同士、同じ土俵に立ったのです

M美にも、僕が今まで彼女の分まで受けてきた

二人分の電撃を対等に受けてもらわねばなりません…


こう書くと「なんて優しさのない鬼、畜生、鬼畜!」と罵られるかもしれません

ですが、中途半端でないあの電撃のもたらす痛み、そしてストレス

静電気体質でない人にはなかなかわからないかもしれません

ほんとにこれだけは嫌なのです

今のように「静電気除去リング」のような素晴らしいものがなかったこの時代、

例えば暗い部屋でドアノブなどに触ろうとすると

小さなフラッシュが指先で灯り、同時に痺れるような激痛と衝撃

いくら彼女とはいえ、こんなものを二人分も背負わされるのはたまりません

それよりなによりキスだってしたいしぃ…

残酷といわれようと残忍といわれようと、

鬼畜! ケダモノ! 悪魔! ぬらりひょん! 油すまし!と言われようとも

これだけは譲れません

こうして僕とM美の、二人三脚の過酷でつらく果てしない

「静電気に慣れるトレーニング」の日々が始まったのです



……明日へ続きます

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