耳の穴がカユクなる恋愛絵巻   

第六夜 幼稚園年少組
 3太郎、白雪姫の王子様になる 

いきなり時をさかのぼり、3太郎の幼稚園年少組時代のお話です

初恋、ともいえない、なんだか切ない思い出での物語をば…

幼稚園のお遊戯会

出し物は白雪姫でした

そう、7人のコビトが毒リンゴで白雪姫に魔女の王子様とキスをハイホー♪というお噺ですね

配役を決める時点で先生が

「はい、じゃぁ、王子様やりたい人ぉ?」その声に

「ハイッ!」真っ先に、そしてまっすぐに手を上げ、見事王子様役をゲットした幼き日の3太郎

もう一生王子様になんかにはなれない…

とすでにそのときこの機会こそがラストチャンスであることを悟っていたのかもしれません

王子様です王子様!

男なら誰もが一度はあこがれる、もっこりの白いタイツ

まだナニブン5歳児ですから、モッコリまでは至らないもっこりの、白タイツ…

ブルーを基調にしたキンキラ衣装に王冠をつけ、

銀紙巻きの剣を腰に佩き、白いタイツにもっこりも勇ましく

いざ行かん!白雪姫を救いだせ!


記憶は定かではありませんがラストシーンでは殺陣もあったようです

銀紙の剣を振りかざし、魔女をバックから一突きに…

んで、白雪姫にキスし、そのままベッドへ…

もとい、白雪姫は永い眠りから目覚めて大団円のはずだったんですが…


本番直前、すっかり衣装に着替えて舞台袖で出番待ちの3太郎

王子様の出番はクライマックスまでありません

たしか冬だったように思います

寒いです

特に舞台袖は寒いのです

それが宿命であるかのようにトイレに行きたくなりました

「せんせぇ〜おしっこぉ」

「え?もうすぐだよ、早く済まして帰ってらっしゃい」

「うん」

王子様の姿のまま、剣を振りかざしてトイレへ駆け込みます


お便器の前に立ち、さあ致そう、ともっこりをもぞもぞ…取り出…せない!

あ、あ、穴がない!タイツに穴がないよぉ! 僕ちゃんの豆鉄砲が出てこないよぉ!

あ、だめ、あかん、漏れる漏れる、漏れちゃうよぉぉぉぉぉぉ・・・・・・・・・・・・・・・

じわわわわぁと股間から生暖かい感触が足をつたい広がっていくのを感じたそのとき

なんとか豆鉄砲セットアップ完了!

しかし時すでに遅く、弾は半ば出尽くして、徒に滴を散らすのみ…

もう替えの衣装などありません

おもらしッ子特有のガニマタ歩きで半べそかきながら舞台袖へ…

「あ、帰ってきた、間に合った!ほら、すぐ出番よ!がんばって!」

先生演出に夢中で、もう子どもの様子が見えてません

何か言いかけるのを押し出されるように舞台中央へ…

舞台ではクライマックスに近づき、魔女との対決シーンでしたでしょうか

日ごろ鍛え上げた銀紙殺法もすっ飛んで、

「ガニマタ剣術で実にかっこ悪く魔女を倒した」と客席にいた母は当時を振り返ってこう言います


さあ、感動のクライマックス!

お姫様とのキスシーン!

もちろん演出では手を取って起こすだけ、という感じにされてしまいましたが…

当然といえば当然のようにお姫様は、「あじさい組」さん一番の可愛い子の役です

もう、半べそ状態もクライマックスの3太郎、おずおずと手を差し出します

そして・・・・・
…客席からは万来の拍手

一見すれば無事にラストシーンを迎えたかのように見える「白雪姫」

しかし、僕の手を取るお姫様は小声でこうつぶやきました

「…くっさぁ」


以来お姫様はあからさまに僕ちゃんを避けるようになったの…

僕ちゃん、なんだか寂しかったのね…

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