ホーム :


16 加害親は特別な人間か?

前へ 次へ

「我が子を虐待するなんて一部のロクデナシ親がすること」
という感想もよく聞かれます。
暴力をふるうのはごく一部のどうしようもない人たちで、自分とは全然関係がない。そう考えてしまえば一方的に加害者を非難できます。
しかし、本当にそうでしょうか。

どこの親だって子供を虐待してしまうかもしれない。
私はそう思います。自分も危ない場面が何度もありましたし、次にふたつほどの例証をあげておきます。

ひとつ目は、最近報道もされていましたが、里親からの虐待の事件です。
里親さんというのは、事情があって実の親に育ててもらえない子供の養育を引き受け、自分の家で我が子同様に育ててくださっている人たちです。すすんで子育てをしたいと申し出て定められた研修を受け、公的な機関の審査を通った人たちなのですが、その里親さんですら預かった子供を虐待してしまうことがあるのです。
裁判になった事件を傍聴した他の里親さんたちが、
「気持ちは良くわかる。自分たちだってまかりまちがえば同じことをしてしまったかもしれない」という趣旨の感想を述べておられました。

もうひとつは、私がとある法医学の先生からうかがった話です。
「子供に暴力をふるって死亡させたと剖検で判断した加害親について、警察が捜査しても今までに何ら虐待や養育放棄の事実がなく、ごく普通に子育てしてきたごく普通の家族だったという例がある。これもやはり虐待と言うべきなのか?」
死んだ子供にしてみれば明らかに虐待なのですが、手をくだした親にしてみれば、よもや子供を死なせてしまうとは思っていなかったのでしょう。

自分に正直で率直な親御さんほど、
「虐待は他人事ではない。同じ立場だったら自分でも危ない」
と話されます。
「親が子供をたたくなんて信じられない」
と言い切れる人は、果たして、自分の心を正直に検証しているでしょうか。

前へ 次へ
目次に戻る