ホーム :


9 ケンカをふっかける人、受けて立つ人

前へ 次へ

ケンカが成立するためには始めにふっかける人(以下Aとします)と、それを受けて立つ人(以下Bとします)が必要です。

Aがなぜ先制攻撃をしかけるのか。
Bから敵対的な言葉や態度や行動をぶつけられた、というのが一番ありそうです。
ただし、この時、Aが「Bから圧力をかけられた、被害をこうむった」と感じるのは、もっぱらAの主観によります。

Bは本当にAを怒らせて暴力をひきだそうとしたのかもしれません。これは「挑発」です。
BはAに反対意見を述べたり、非難したり、困らせるような行動をとりつつ、まさかAが暴力をふるってくるとまでは予想していなかった、ということもあり得ます。
また、BにはまったくAを怒らせる意図はなく、たまたまAがBの言動を被害的に曲解した、ということもあるでしょう。
ひょっとしたら、BはAとはまったく無関係であったのに、Aが他の理由でいだいた怒りや不満を八つ当たりされただけかもしれません。

要は、Aが何らかのフラストレーションを溜め込みながら、それをうまく解決する手段を思いつかず、手近にいるBにぶつけたというのが共通点です。
遊び仲間が玩具を貸してくれないからといって相手をつきとばすことは2歳児でもできる行動です。
しかしながら、2歳児と同程度にしか問題解決の手段を持たない、あるいは2歳児が思いつく程度の解決手段が最良であると思い込んでいる大人はけっこう存在します。

ケンカをふっかけられたBの反応はもっと単純です。
攻撃を仕掛けられた時点で、予想していたと否とにかかわらず、Aに対する恐怖や怒りを感じるのが自然です。
BはAを自分に敵対する人間だと簡単に認識するでしょう。
もともと友好的な関係だと思っていたり、ほとんど無関係だとおもっていた間柄であっても、一発殴られれば「こいつ、やりやがって」と反発するのが自然な成り行きです。
ここでBが殴り返せば敵対関係は見事に固定します。
Aにしてみれば、Bが反撃してきたことで「やっぱりこいつは敵だった」という確信を持てるわけです。

つまり、AとBは敵対関係にあったことの結果として、けんかを始めたのではなく、けんかを始めることを合意した時点で敵対関係になったのです。

Aのように欲求不満をためていて、被害感情を持ちやすく、衝動的短絡的に行動を起こす人間はそう多くないかもしれません。
しかし、私たちはBの立場になれば、よほど冷静に事態に対処する気持ちがなければ容易に反撃をしてしまい、ケンカの成立に加担してしまうのではないでしょうか。

暴力の被害者は、とても簡単に加害者に転じます。
実は、もともとの加害者も被害感情に突き動かされて手をだすことが多いものです。
被害者意識を持ったものが加害者となり、被害を受けた者が加害を仕返す。
この関係がループしてしまえば益のない暴力の応酬が繰り返されるだけです。

暴力は際限なく敵を増やし、増殖します。

前へ 次へ
目次に戻る