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6 正当防衛の正当性はどこで決まるのか

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今から書く内容は純然たるシミュレーションで、実在の事件についての考察ではないことを始めにお断りしておきます。
「ふたりの男が争っている」という通報を受けて警官が出動しました。
現場に到着してみると、似たような背格好の成人男性がふたり、取っ組み合いのけんかをしていました。
もし、片方が防御一方で逃げ回っていたり、片方だけが刃物を振り回していたりしたら、警官はためらいなく逃げている人を守り、刃物を持った人を取り押さえていたでしょう。
ところが、ふたりともが素手でつかみあい、殴り合っていたとしたらどうでしょう。
あいだに割って入るだけでは両者の興奮は収まりそうにありません。
ならば、目の前で拳をふりあげたほうをとりあえず押さえることしかできないのではないでしょうか。
ふたりのうちどちらかが先に攻撃をしかけた、というのは過去の状況です。
片方を取り押さえた結果、自由なほうが相手を一発ぶんなぐって気持ちをおさめるか、かたわらのカッターナイフをつかんで突き刺しにかかるか、というのは未来のことなので、現時点では予測不可能です。
現在進行形の争いでは、それぞれに「暴漢」「正当防衛」とラベルがはってあるわけではありません。前後の文脈を切り離せば、やってることはまったく同じ、暴力の行使でしかありません。
正当防衛の名の下に拳を振り上げる人は、その行為自体は純然たる暴力であること、その正当性を判断するのは自分ではないことくらいは理解しておいたほうがよいでしょう。

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