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■■■■■>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>◆ 2003.03.01 ■
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◆■■ ---------- ■ 歌謡(うた)つれづれ ■◇
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■□ 「だいのさか」が見つかったこと □■
───────────────────────> 今号の担当 <
宮崎 隆
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わたしは、秋田県仙北郡で現在も行われています「掛唄」を研究し
ているのですが、同じ秋田県の鹿角地方では、昔「大の坂」という
唄で「掛唄」が行われていたことがわかってきて、調査をしていま
す。『日本民謡大観』の詞型は、
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ここは大の坂七曲中の曲がりで日を暮らす
ゆんべ音頭あぎゃ何処誰だ大坂坂の上どや娘
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というものですが、なんとこの唄は、新潟県北魚沼郡堀之内町にも
あるのです。盆踊り唄「大の阪」がそれで、
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大の阪七曲駒をよく召せ旦那様
天満町の橋に寝て笠をとられた川風に
お寺町後生願うおらも数珠買うて後生願う<以下略>
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という詞型が残っているのです。この「大の坂」について、町田嘉
声さんが「大の坂の唄を探し出すの記」という一文を『民謡大観』
に掲げておられて、堀之内の「大の阪」が「堀之内囃子」といっし
ょに、元禄時代に京都から伝えられたと同様、鹿角の「大の阪」も
、その「囃子」といっしょに、二百年前に京都から伝えられたもの
であろう、という推論をされています。
ところが、わたしが、現地等を訪れて調査したところ、この二つの
「だいのさか」の周辺に、いくつもの「だいのさか」があることが
わかったのです。煩雑ですから詳しいことは避けますが、秋田県北
秋田郡比内町の「ダイノサカ」(デノサカ)、同郡田代町の「大の
坂音頭」等、そして、新潟県十日町市の「大の坂」などです。さら
に、「ここは大の坂」と歌いだす唄が鳥取県や島根県で多数見つけ
ることが出来たのです。この「だいのさか」という民謡の発祥地が
知りたくなります。そして、何よりいったい「だいのさか」とは、
どこのことだったのでしょうか。
この地名については、先の町田嘉声さんも、「南魚沼郡伊米七村大
の坂にある寺か」としか書いておられず、小寺融吉さんは「岩手県
の名だたる峠でもあろう」などと記すばかりです。堀之内町の識者
に尋ねても、郡内にそういう地名も寺も見当たらない、ということ
でした。だから、わたしは、もしかしたら青森県南津軽郡浪岡町大
釈迦の地がそこではないかという推論を立ててみたりしたのです。
しかるに、このほど新潟県北魚沼郡小出町虫野に「台の坂」という
ところがあるとわかったのです。
それで先月26日、現地を訪ねて、そこの桑野なおさん(80歳)
に話を聞いてきました。彼女の幼年時代の遊び場だったというその
場所は、通称「やくさま」と呼ばれる小高い台地でした。虫野の識
者が書いた『虫野のいろいろ』という郷土誌には、「台の坂」とし
て、
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桑原弥治右衛門は、楡井修理亮親忠の移封と共に越後に渡り、上田
庄(現在の六日町)坂戸城の出城板木城の砦、台の坂の陣屋に入っ
た。昔の薬師山の道は台の坂と呼ばれていた。念仏踊りとして堀之
内町に残っている「大の阪」は、ここ虫野が発祥地であるという。
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と明記されています。
虫野と堀之内は、すぐ近くなのです。それなのに何故今までこんな
ことが分からなかったのでしょうか。もしかしたら、町田嘉声さん
は、だれからか聞いていたのかもしれません。虫野は、前は南魚沼
郡で伊米ケ崎村だったのですから。ここの夢ケ崎山に桑原城があり
、そこの狼煙台のあった場所だというのです。江戸時代になって、
その台地に薬師堂が建立され、「ヤクヤマ」として村民に慕われ現
在に至っているということです。
ところが、現地の「台の坂」を見ても、わたしには、どうもここが
発祥地とも思えないのです。一つには、あまりにも小高くて、とて
も「大の坂」と思えないことです。「七曲」など及びもつかないの
です。つぎに、やはり「大」と「台」の違いが気になります。さら
に、発祥地としては、この地名は人口に膾炙していないことです。
地元の人は、あくまで「ヤクサマ」と呼んでいて、あまり「だいの
さか」とは言わないとのことです。もう一つ、虫野のでは、盆踊り
でも何でもこの「大の阪踊り」が全く行われていないことです。な
おさんの子どもの頃から、「よいやさ踊り」ばかりだというのです
。やはりこれは少し考えなくてはならないでしょう。
軽い失望を感じていると、なおさんが気になることを語るのです。
薬師信仰は今でも生きており、祭りのとき、女たちは、「夜篭もり
」に、みんな布団を持って出かけたものだというのです。大正11
年生まれの彼女は参加してことはないとのことでしたが、その風習
があったら、ここで掛け合いが出ても不思議でないのですから気に
なります。さらに、さっきの『虫野のいろいろ』の著者の桑原克司
氏のご教示によると、「新編会津風土記」(文化6年)の記事に、
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昔は村民最首を賀するとて山上に登り酒を飲み、躍舞して山下に転
び落ちしとぞ、今猶上元に村民此山に集まり躍舞をなすことあり、
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とあるのです。堀之内の「大の阪」も、明治年間に廃れてしまい、
日露戦争勝利を喜ぶ気風の中「よいやさ」一色なってしまったのを
嘆いた伝承者によって、昭和初期に復活せしめたのだと聞いていま
すので、虫野で根絶していても不思議ではないのです。「大」と「
台」の違いも、たとえば、北秋田郡鷹巣町では「台の坂」なのです
から、問題ではなくなります。
さあこうなるとまったく分からなくなります。いま少し、地元の伝
承を探ってみようと思っています。実際の地形からは、「七曲」の
句をどう解釈するかが問題ですが、つぎのような事例も考慮しなけ
ればなりません。岩手県岩手郡葛巻町江刈の「山唄」に、
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大の坂同じ目元もとろとろと酒瓶(すず)から移してよい酒を
◆ ────────────────────────── ◆
とあるのです。
今回、地名としての「だいのさか」が見つかったことだけは、間違
いありませんが、まだまだ「だいのさか」探しを続けねばなりませ
ん。読者のみなさんの参加を待っています。
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>>>>>>>> 前号配信数 / 248 <<<<<<<<<
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▼ ひ と こ と ▼
読者のみなさん、お久しぶりです。今年の初めに前号を配信して、
ほぼ2ヶ月が過ぎました。相変わらず、マイペースの本マガジンで
すが、今の世の中少し早すぎるように、すべてにスローな編集子な
どには思われますので、ウタが歌い継がれるごとく、みなさんにゆ
っくりと受け止めていただければ、幸いです。m(_ _)m
さて、今回は、宮崎氏がほんとうに地道に追い求めている掛歌、そ
の一つである「大の坂」のルーツ探しです。現在広い地域でうたわ
れるウタでも、最初からそうであったはずはなく、どこかで誰かが
歌い始め、それが広まったと考えるのが、やはり自然でしょう。。
歌謡研究の一つの目的に、このウタのルーツ探しがあります。その
ウタが発生した「場」(人々や地域)を特定することで、これをより
深く理解できるようになるからです。
その方法一つが、今回のようなウタの呼称を目安にする方法です。
「大の坂(だいのさか)」というウタの呼称は、地名だと考えられる
ことから、その地域でうたわれていたと考えるのは、わかりやすい
話です。
宮崎氏は、ねばり強い調査の結果、ウタにかかわる「大の坂」とい
う場所を特定したのですが、それがウタの内容との関わりなどによ
り、さらなる謎を呼ぶことになります。こんなこと書くと、宮崎氏
に怒られそうですが、なかなか結論が見えないところが、そのウタ
に惹かれる理由であるような気もします。
あらたに見えたことが、次の謎を呼ぶ。ある意味で、永遠に続くか
も知れない、謎解きの楽しみに、ウタという視点から皆さんもチャ
レンジされてみてはいかがでしょうか。(編)
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