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■■■■■>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>◆ 2002.05.09 ■
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◆■■ ---------- ■ 歌謡(うた)つれづれ ■◇
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■>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>◆ 0053 ■
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■□■ 歌謡、わたしのベスト3 ■□■
───────────────────────> 今号の担当 <
佐々木 聖佳
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□◆□ 声に出して歌いたい(唱えたい)日本歌謡 □◆□
何かに強く心を動かされた時、ふと口からでる歌謡があります。単
に好きな歌というだけではないような気がします。古典歌謡の多く
はメロディが知られていません。それで、歌謡集、例えば、『閑吟
集』や『梁塵秘抄』を繙く時も、「読んで」、いいなあと思ったり
おもしろいと思ったり、技巧に感心したりします。読んでいいなあ
と思う歌謡は、その時の心の状態によって左右されますし、細やか
な心の襞にしみいるものが多くて内緒にしておきたい気分になりま
す。声に出して歌いたい(でもメロディはわからないからせいぜい
唱えるしかない)歌には、声と日本語の韻律の力によって、もっと
大きな力があるような気がします。
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大和は国のまほろば、たたなづく
青垣山籠れる 大和しうるはし
(『古事記』『日本書紀』歌謡)
(大和は高くひいでたところ、重なりあった山々が垣をなす、
大和の国は本当に美しい)
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私が学生だった頃、家から一番近いところにある大きい図書館が天
理図書館だったものですから、週に一回は名阪国道をつかって、天
理まで通っていました。名阪国道の五ヶ谷―福住インター間は、カ
ーブが多く、トラックが多く、事故の頻発する危険地帯で、新米ド
ライバーにとっては緊張の続く国道です。その上り道の急カーブの
続く福住インターを越えたところに、ふっと急に視界がひらける箇
所があります。そこからは、きれいに大和盆地が見渡せるのです。
ここにさしかかると、思わず「大和は国のまほろば」の歌を、きっ
ちり最後までくちずさんでしまうのです。
今思えば、峠を越える旅人が峠の神様に歌を手向けるようなものだ
ったのでしょうか。私のささやかな通過儀礼でした。
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見わたせば柳桜をこきまぜて都ぞ春のにしきなりける
(見渡すと柳や桜が咲きそろって、今、都は色なす春の
錦である)
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『古今和歌集』巻一春上、素性の歌です。あまりにも有名で、
人口に膾炙した歌です。『和漢朗詠集』巻下、眺望には同じ歌がみ
られますし、謡曲の「西行桜」「盛久」「右近」「雲林院」「遊行
柳」「賀茂物狂」にも浄瑠璃「国性爺合戦」「出世景清」「一谷嫩
軍記」にもこの歌をふまえた表現があって、和歌ではあるけれど、
実際に声にだして歌われてきた歌ですので、あげてみました。
家の近所の公園には、真ん前にスーパーがあってバス停があって、
子供やお母さんやつながれた犬がいつもいます。バスを待ちながら
ボーッとベンチに座って子供たちの元気な声を聞くともなしに聞い
ていることが多いのですが、春の桜の花ふぶき、柳の光が透けてみ
えるような新緑のころは、うっとりと見ほれてしまいます。そして
、「みわたせばやなぎさくらをこきまぜて」という句を思い出すの
です。
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アー月に叢雲花に風、散りてはかなき世の習い、
咲き出でにける山桜
コラ ヨイトヨーヤマカ ドッコイサノセ
(月に叢雲花に風のように、咲いてもすぐ散るはかない
世の定め、その中で咲き出した山桜よ)
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奈良市田原に祭文踊りが伝承されています。かつては7つのレパー
トリーがありましたが、今はもっぱら「苅萱と石童丸和讃」が歌わ
れます。ここにあげたのは、その「苅萱と石童丸和讃」のでだしの
部分です。田原では毎年8月16日の夕刻から深夜にかけて、田原
小学校のグラウンドの真ん中に櫓をくみ、音頭取りがその上で音頭
をとって盆踊りを踊ります。盆踊りは、土山音頭や木曽節や茶摘み
音頭や鈴木主水白糸口説、田原節といったものが踊られますが、盆
踊りが一通り終わると、音頭取りが交代して、祭文音頭になります
。祭文音頭には貝と呼ばれる独特の口唱歌がつくのが特徴です。こ
れは、法螺貝を口にあてて「でろれん、でろれん」などと声に出し
て唱えるのです。貝が始まると、「さあ、祭文踊りだ」という気分
になります。
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外題は何かと調べたなれば、私のよむのはただ一つ、石童
丸の苅萱口説き、どうせうまくはよめないけれど、ぼつら
やわらと ひきずりまして、踊りてくださることなれ
ば、コラ ヨイトヨ ーヤマカ ドッコイサノセ
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その後に、先に挙げた詞章が歌われます。「月に叢雲花に風」は、
広く知られた句です。『うすゆき物語』に「世の中は月にむらくも
花に風思ふに別れ思はぬに添ふ」と見えるほか、謡曲「重盛」や『
歌舞伎草子』や古浄瑠璃、浄瑠璃などにもみえます。この句の美意
識はわかりやすくて、現在でもどこかのコピーなどに使われていそ
うです。
読んだだけでは、特に深い感銘を与えるという句ではないでしょう
。それが、真夏の夜、月を背にして音頭取りさんが櫓の上で、独特
のリズムで歌われるのを聞きますと、素直にいい歌だなと思い、少
し悲しいような気持ちになります。
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>>>>>>>> 前号配信数 / 247 <<<<<<<<<
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▼ ひ と こ と ▼
気付くと、ゴールデンウィークは過ぎ去っていました。休み明けの
ちょっとつらい日々、お好きなウタを口ずさみながら、出勤されて
みては、どうでしょう。
今回は、大ベストセラー『声に出して読みたい日本語』にひっかけ
た、ベスト3です。でも、あの本のように、ベストを決めてしまう
のではなく、執筆担当の佐々木氏が「その時の心の状態によって左
右されます」と書かれているように、一人のなかでも、その時々に
より、心を動かされるウタは変化していきます。
このような捉え方からは、このマガジンの「ベスト3」という企画
自体を問われてもいるような気がします。あるテレビ番組で、三輪
明宏氏が、グルメブームについて、その人の状態で、一つのおむす
びが最高に美味しいときがあるのに……、と批判していたのを思い
出しました。まさにその通りですね。
誰にとっても良いもの、言い換えれば規範を求める傾向が世の中に
あるとすれば、それはやはり不安定だからなのでしょう。でも、こ
ういうときこそ、自分の心の状態をしっかり見つめて、そこに基礎
を築くといった生き方が求められているような気がします。そうい
う意味で、どのようなウタに惹かれるかについて自省すれば、自己
のこころの状態を少しは知ることができるかも知れません。佐々木
氏の文章にも、そういった問いがあるように思います。
編集子が目下口ずんでしまうのは、恥ずかしながら、バカ殿とミニ
モニ娘。の「アイ〜ン!ダンスの唄」です(^_^;)。これ、いったい
どういう心境なのでしょう?(編)
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