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■ 歌謡(うた)つれづれ−038 2001/10/11
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□□■ 祭りのうた(3)― 北淡町室津のだんじり唄 ― ■□□
福原佐知子<fukuhara@sea.sannet.ne.jp>
兵庫県淡路島の北淡町では、秋になると、赤い大布団を五段重ねた
布団だんじりの祭りが盛んです。祭りは2日間に渡って行われ、1日
目は夕方から宵宮が、2日目は本宮が行われます。
今回私は、北淡町の中で最もだんじり祭りが盛んな、室津八幡神社
の祭りを見学しました。私は地元の淡路島に住みながら、噂にきい
ていただけで、室津の祭りを見たことがありませんでした。9/29(土
)の宵宮の夜8時過ぎ、神社に問い合わせると、「まだ練りをやって
いる最中です」と言われたので、行ってみることにしました。神社
の前の広場では、3台のだんじりがたくさんの電球をともして、1台
ずつ練っていました。夜10時頃になると、3台のだんじりが同時に練
り回ります。そして、最後に、拝殿前で各だんじりが練りを奉納し
、各地区がだんじり唄を奉納します。
室津では、だんじり唄のことを「ケヤリ唄」と言います。昔は5つの
地区のだんじりがあって、今は3つの地区しかだんじりを持っていま
せんが、ケヤリ唄だけは5つの地区とも持っています。
室津の祭りを見学していて思ったことは、このケヤリ唄が何度もう
たわれることでした。だんじりを担ぎ上げている人々が、重いだん
じりを必死で担ぎ続けながら、誰からともなくケヤリ唄をうたい始
めます。宵宮の日には、拝殿前で5つの地区が順番に、ケヤリ太鼓を
打ちながら、中心となってうたう唄い手1人とそれを囃す10数人で、
約10分づつうたいます。本宮の日には、宵宮のときと同様に拝殿前
でケヤリ唄を奉納します。それから、小高い山の上にあるお旅所ま
で登り、そこでもケヤリ唄が奉納されます。それではケヤリ唄を紹
介します。
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◎大坪地区のケヤリ唄
○さればネ-ヤ- これから 氏神様へ
ヨイヨイ ア-ソリヤセ-ヤ-リセ
ヤレ宮の祭礼 大坪ねり
ア-ソレハネ ※ア-リャ ヤ-トコセ-ヨ-イヤナ
アリャリャ-エ-サ-ヨイ イトセ
○めでためでたの三つ重なりて 鶴はご門で巣をかける※
○鶴はご門で巣をかけりゃこそ 亀はお庭で舞を舞う※
○亀はお庭で何と言うて舞うた お家ご繁盛と言うて舞うた※
○松の名所は播州でござる 尾上高砂曽根の松※
○尾上高砂曽根とは言うが 今はからさき一つ松※
○めでためでたの若松様よ 枝も栄えて葉も繁る※
○松が繁りてお庭が暗い おるぜ小松の一の枝※
○ここは明石の人丸さんよ 梅の八房帆掛け舟※
○明石チョイと出りゃ舞子の浜よ 向うに見えるは淡路島※
○淡路島から沼島を見れば 沼島かわいや離れ島※
○さても見事な岩屋の絵島 根から生えた浮島か※
○浮いた島なら流れもするが 根から生え流れやせぬ※
○東に傾く姫路の城よ 花のお江戸恋しさに※
○今年豊年穂に穂が咲いて 道の小草に米がなる※
○安芸の宮島廻りは七里 裏は七重七えびす※
○恋し須磨寺若木の桜 いつも十八花が咲く※
○めでためでたで始めた唄は めでためでたでおさめましょ※
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上の歌詞は、大坪地区がケヤリ唄の台本として使っているものを引
用させていただいたものです。唄は、全体がひと続きになっている
わけではなく、七七七五音から成るいくつかの唄からなっています
。祭りでは、全部をうたう時間がないので、台本の中からいくつか
選んでうたうそうです。※「アーリャ ヤートコセーヨーイヤナ ア
リャリャー エーサーヨイ イトセ」という囃子詞(はやしことば)
も、すべての唄の最後にうたわれます。また、「ヨイヨイ」「アー
ソリヤセーヤーリセ」「アーソレハネ」などの囃子詞も全ての唄に
入っています。
このようなケヤリ唄を5つの地区(田尻、大坪、室里、宮田、西浜
)が、それぞれの歌詞でうたいます。歌詞は少しづつ違い、囃子詞
も微妙に違っています。次に、宮田地区のケヤリ唄も挙げてみます
。
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◎宮田地区のケヤリ唄
○めでたネ-エ-ヤ- めでたで 三つかさなりて
ア、ヨイヨイ ア-ソリセエ-ヤリセ
ヤレつるはナ 御門 アすをかける※
イイエ-ソ-デ-サス
○つるはネ-ヤ- 御門で すをかけしもて
ア、ヨイヨイ ア-ソリセエ-ヤリセ
ヤレかめはナ お庭で ア舞をまう※
イイエ-ソ-デ-サマ
○ここはネ-ヤ- 室津の 氏神様よ
ア、ヨイヨイ ア-ソリセエ-ヤリセ
ヤレ宮のナ さいでん ア宮のねり※
イイエ-ソ-デ-サミ
○祭り 祭りと 待つこと祭り 祭り すんだら なにを待つ※
○さても 見事な 岩屋の江島 根から はえたか うき島※
○浮いた 島なら 流れもするが 根から はえたか 流れせぬ※
○ここは 明石の 舞子が浜よ 向うに 見えるは 淡路島※
○淡路 島から 向い見れば 沼島 かわいや はなれ島※
○ここは 明石の 人丸様よ 梅の 八ふさ ほかけ船※
○こいし 須磨寺 若きの桜 いつも 十八で 花が咲く※
○梅は 岡本 桜は吉野 みかん 紀ノ国 くり丹波※
○松の 名所は 播州にござる おのへ 高砂 そねの松※
○東 かたむく 姫路の城よ 花の お江戸が 恋しさに※
○わたしゃ 備前の 岡山育ち 米の なる木を まだしらぬ※
○みかん 紀ノ国 くりゃ丹波 柿は 大和の つるし柿※
○わしら 若い時 小田までかよた 小田の かわらで 夜が
明けた※
○めでた めでたで はじめた歌を もとの めでたで おさめ
ま しょ※
○おさめ ついでに もうひとつたのむ お江戸 もどりの まご
ぶしを※
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宮田のケヤリ唄の台本では、歌詞の間の細かい囃子詞「ア、ヨイヨ
イ」「アーソリセエーヤリセ」「イイエーソーデーサス」などが記
されています。(上3つの唄以下は、省略)。また、台本には記され
ていないのですが、大坪地区と同様に、「※アーリャ ヤートコセ
ー ヨーイヤナ アリャリャーエーサーヨイ イトセ」の囃子詞が唄の
最後に付きます。
ケヤリ唄の歌詞はそれぞれ、淡路島北淡町の室津を中心にして、近
隣地域を掛け歌のようにうたっています。岩屋の絵島は淡路島北部
の淡路町にあり、その前には明石海峡大橋が架かっている舞子があ
ります。明石には柿本人麿を祭る人麿神社もあります。小田という
のは、北淡町仁井にある地名です。また、唄には、「大坪ねり」「
宮のねり」などのように、それぞれの地区名がうたわれています。
ケヤリ唄がいつ頃からうたわれていたものか伝えられていません。
しかし、唄の形式は江戸時代後期に広まったと言われる俗曲、「都
都逸(どどいつ)」の七七七五型になっていることから、ケヤリ唄
は江戸時代からうたわれていたのではないかと思われます。
大坪、田尻地区には「五尺節」という祝い唄が伝えられています。
慶安四年(1651年)に、室津八幡神社の新築祝いで披露され、以後
、結婚式や初老、上棟式などにうたわれてきたそうです。ケヤリ唄
と似る唄がいくつかあり、同じように七七七五型の唄になっている
ようです。ケヤリ唄と五尺節の曲調は違うようですが、同じような
時期に、祝い唄として受け継がれてきたもののように思われます。
本宮の日には、厄年の男性が担ぐ神輿と、子供神輿4台が出され、だ
んじりとともに、お旅所のある山へ登ります。ただでさえ急なお旅
所までの坂道を、だんじりが登る様子は圧巻です。山の上のお旅所
は、海が見下ろせる芝生の広場で、そこでケヤリ唄が奉納され、周
囲では宴会が始まります。
本宮の夜、だんじり3台と厄年の男性が担ぐ神輿1台が、境内前の広
場で練り回ります。神輿が拝殿に入るのを、だんじりが通せんぼす
るのだと言います。だんじりは、「ひーふーの おしゃしゃのしゃ
んとこい」「そら しゃんとこい」という掛け声とともに前後に揺
らし、担ぎ上げて「ちょうやさ ちょうやさ」と囃します。太鼓の
リズムも囃子によって、速くなったり遅くなったりリズムを変えた
りします。だんじりが前後左右に揺れ、見ているほうがハラハラド
キドキします。厄年の人が担ぐ神輿は、だんじりとだんじりの間で
担ぎ続けます。だんじりと神輿の囃子が響き渡って、大変なにぎや
かさと活気です。
ケヤリ唄はこのような祭りの活気を示すごとく、唄い手が自慢のの
どを張りあげてうたい、節回しも軽妙で、忘れられない唄です。
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【引用・参考文献】
□ケヤリ唄台本(大坪、宮田、室里、田尻、西浜地区)
□『伝承文化北淡いろはかるた』解説、北淡町老人クラブ連合会、
2000
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▼ ひ と こ と ▼[前号配信数/229]
九州育ちの私にはどうも「だんじり」という語がしっくりときませ
ん。辞書によれば「だんじり」は「大阪府および兵庫県などで、太
鼓を載せて、祭礼に用いる屋台」のことを指します。わたしの田舎
、九州の豊前地方ではこれをヤマと言いました。だんじり祭で奉納
されるケヤリ唄(木遣り唄? )を拝見していると、古典歌謡にいく
らか接したことがある人なら、どこかで見たような歌が並んでいま
す。福原氏がいうように、都々逸といった古い歌が今でもこうして
歌い継がれているのですね。(編)
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このメールマガジンは、歌謡研究会のメンバーが交替で執筆してい
ます。よって、できる限り学問的な厳密さを前提として記している
つもりですが、メールマガジンという媒体の性質上、かなり端折っ
て記さざるを得ません。ここでの記述に興味をお持ちになり、さら
に深く追求なさりたい場合は、その方面の学術書などに直接当たっ
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各号の執筆は、各担当者の責任においてなされます。よって、筆者
のオリジナルな考えが記されていることもありますので、ここから
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いいたします。アドレスが記されていない場合は、このマガジンに
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