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■ 歌謡(うた)つれづれ−033 2001/09/06
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□□■ 天神林のこと(2) ■□□
宮崎 隆〈fwic7430@mb.infoweb.ne.jp〉
ところが、前号の配信の後、新潟から一葉の新聞記事の切り抜きが
送られてきて、この「天神林」が、まだ生きていることが分かった
のです。「天神ばやしを歌いませんか」という見出しで、
越後妻有地域で伝承され、各地で微妙に節回しや歌詞が異なる祝い
歌「天神ばやし」を一堂に集める「越後天神ばやし」ワ−ルドが八
月四日、中魚川西町のナカゴグリ−ンパ−クで開かれる。天神ばや
しは、室町時代の神事歌が江戸時代後期に、お座敷の祝い歌に変化
したものとされ、一般的な歌詞は「めでたいものは大根種 花咲き
実なりて俵重なる」とダイコンの一生を詠んでいる。(以下略)
【新潟日報7/7】
とあります。早速、川西町の保存会の鈴木義一さんに頼み、当日の
資料等送ってもらうことにしました。で、その話を先にします。
8月16日に送られてきたパンフレットを見て、わたしは、また驚
きました。なんと各地区16団体の応募があり、下記のような出演
者紹介があったからです。
川西町:芸能協会天神ばやし保存会 (昭和53〜、会員20名)
ダム竣工式典をきっかけに結成。
川西町:小白倉天神ばやし愛好会 (平成5〜、会員30名)
都会の人や外国人に興味を持たれて。
川西町:元町天神囃子の会 (平成7〜、会員20名)
お祝いの席で歌えるようにと勉強会。
川西町:仁田熊野会 (平成12〜、会員31名)
15年前の「仁田地踊会」をもとに。
川西町:沖立ち天神ばやし保存会 (平成13〜、会員20名)
天神ばやしワ−ルドをきっかけに
十日町市:新座マラソンクラブ (昭和46〜、会員30名)
公民館行事の一つとしてはじめたのがきっかけ。
十日町市:下条天神ばやし保存会 (昭和47〜、会員45名)
原部楽の天満宮で、信濃川を航行する船乗りによ
って、無事を祝って歌われたもの。
十日町市:水沢地区芸能保存会 (昭和55〜、会員71名)
21年前の「石場かち保存会」を継承して。
十日町市:中条大の坂保存会 (昭和56〜、会員28名)
「大の坂」「三階節」「甚句」を継承して。
十日町市:姿部落 (?〜、会員13名)
享保年間から歌いつがれ「大鳴り」と言う。また、
別に「田打ち唄」とも。人に聞かせるものでない。
中里村:芸能協会清津さざ波会 (昭和45〜、会員12名)
格調高い祝い唄天神ばやしの唄と踊りを継承。
中里村:天神ばやし保存会 (平成12〜、会員20名)
昔信濃川の船頭唄とも。貝野地区にも天神あり。
松代町:犬伏欅の会 (昭和52〜、会員22名)
伊沢地区周辺のみに伝わる歌。音頭取りとはやし
分かれて歌うのが特長。
小千谷市:民謡穂波会 (昭和45〜、会員36名)
郷土芸能保存会から正調民謡の普及のために。
小千谷市:真人里地振興会 (平成13〜、会員15名)
掛け合いの歌い方は、他を一歩リ−ドと自負。
小千谷市:岩沢浪慢「天神ばやしの里」(平成13〜、会員25名)
天神ばやしワ−ルドをきっかけに。
当日会場に500人以上の観衆が集い、大変な盛り上がりだった由
です。「こんなに集まってくれるとは思わなかった!」と鈴木さん
も驚いています。小白倉のように、各集落に各様の「天神林」があ
るようですから、ちゃんと掘り起こせば、まだまだ出てきそうで、
この唄は、消滅なんかしていないことが分かります。安心しました
。この唄の伝承者というか、唄に強い関心寄せている「会員」だけ
でも、440人ほどいることがわかります。しかも、新しく会を結
成して継承していこうという勢いがあるのですから。
さて、唄の内容ですが、地区によって、「天神林の梅の花」と歌い
出すところと、「目出度いものには大根種」と出すところがあり、
その歌詞しか歌わなかったり、二番でそれを歌うところもあるよう
です。そして、だれでも不思議に思うようですが、「天神林」とい
う題名なのに、多くの地区で「大根種」の歌詞しか歌わないことで
す。
この点について、当日、十日町市在住の大島伊一氏の講演もあり、
その内容は、『広報かわにし』(平成13年7月10日号)で知るこ
とができるのですが、氏は、この歌のル−ツを、千葉県佐原市の香
取神社の神事歌とし、信州から信濃川を下って伝わった、と考えて
おられるようです。そして、この歌の分布について、
十日町市:全域/川西町:全域/松代町:菅刈地区
津南町:卯の木、鹿渡地区/中里村:荒屋を除く全域
高柳町、小国町の一部/小千谷市:片貝を除く全域
長岡市蓬平/山古志村/堀之内町/小出町/大和町/
六日町/塩沢町
と指摘し、この内、十日町市下条、中条、小千谷市岩沢、真人、川
西町橘、白倉の当時の通婚圈だけが「天神林」の歌詞を持つのだと
語っておられます。
今この唄の分布を地図で確認していくと、一目瞭然、信濃川流域に
、そして、川口町で合流する魚野川流域に点在することが分かりま
す。しかるに、長岡市以北の信濃川下流地域には伝承されていない
ことも。そして、「天神林」の歌詞の「島崎」は、三島郡和島村島
崎船着場のことなら、ずっと下流地域に属することなど、まだまだ
埋めていかねばならない問題があるのですが、わたしは、どうやら
この「天神林」という唄は、船で運ばれたのではないかと思うので
す。
上掲の“天神ばやしワ−ルド”のパンフレットを見ても、下条地区
の伝承や、中里村のそれに注目してしまいます。秋田の唄も、雄物
川や米代川を遡行して入ってきた「海の唄」も多いようで、有名な
「生保内節」も、そう考えて納得できる歌詞などもあります。陸路
の伝播もさることながら、川による移動をもっと考えてもよさそう
です。
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▼ ひ と こ と ▼[前号配信数/226]
滅びたかも知れないと思われた歌が、こうして生きていることを知
ると、なにかホッとするものがあります。それにしても、「天神ば
やしワールド」とは……。沖縄のエイサーなど、一部ではあります
が、民俗芸能が再興され、地域を生きる人たちのエネルギーとなっ
ている例が増えているように思われます。(編)
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