『歌謡(うた)つれづれ』028
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■    歌謡(うた)つれづれ−028 2001/07/25 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■    ★ まぐまぐで読者登録された方へ送信しています。★ ************************************************************ □□■ 私の歌修行記 (3) ■□□            手塚恵子 <tezuka@kyotogakuen.ac.jp> 読者のみなさま、こんにちは。「私の歌修行記(3)」ということで 、前回に引き続いて、中国の少数民族、壮族の歌について、取り上 げたいと思います。つい先頃大暑を迎え、暑さもここ一番という今 日この頃ですが、旧暦では今日(7月25日)は、まだ6月5日で す。今年は閏の4月があったので、新暦とずいぶん差が開いてしま いました。 壮族の秋の歌の掛け合い祭は旧暦10月ですから、今年の歌掛け祭 は例年より遅くなってしまいます。暑い夏も(大阪と同じくらい蒸 し暑いです)忙しい取り入れの季節も、これが終われば祭りだと思 えばこそ耐えられるのに、なんともはやというところではないでし ょうか。 ************************************************************ ▼△▼ 苦瓜 ▼△▼  あなたは牛肉を買いました  だから私は苦瓜を売りに来たよ  炒めるといい匂いがする  よだれがでそうだ ************************************************************  あなたは掛け歌がとても上手だ  それを知っているからこそ、私はやって来たのだ  ふたりで掛け合うといい感じになるよ  期待に胸がふくらむね この歌は、苦瓜をモチーフにしています。私も夏になると時々ゴー ヤチャンプルーを作りますが、壮族の人たちは、苦瓜といえば牛肉 と炒めるのが◎だと思っています。この料理は、盛りつけられたも のよりも、炒めている最中の方が、何倍もおいしそうに思えます。 すごく香ばしい匂いがするのです。村の人にとって、牛肉は毎日食 べられるものではありません。 肉は村には売っていませんから、三日に一度市場町で開かれる定期 市に、買いに行かねばなりません。豚肉はどの定期市でも売ってい ますが、牛肉は売っていないことも多いのです。牛肉は豚肉より、 「えんこらしょ」と食べるものなのです。そういう牛肉が手に入っ た時は、苦瓜の出番です。いつもの苦瓜がおいしく食べられる。想 像するだけで、よだれがでそうというところでしょうか。 このような言い回しは、歌上手と評判の人が、自分の目の前に現れ たときに、うたいます。もちろん、この歌い手も多少腕に覚えがあ るわけです、苦瓜ほどには。違った個性を持った者同士が、歌を掛 け合うことで、すばらしい掛け歌を生み出すことができる。大切な のは組み合わせなのだということなのだと、教えてもらいました。 ************************************************************ ▼△▼ 乞食 ▼△▼  乞食はスックボンすら腰掛けに座ってむさぼり食べる  腰帯がポンとはじけて切れてしまった  それでも、芋を見つけて、まだ食べたがっている ************************************************************  私はどんな歌でも うたい足りたということはない  すでに幾晩もうたっていても  他の人がうたっているのを見れば、またうたいたくなる この歌は、乞食をモチーフにしています。スックボンは、お粥でも ご飯でもない、その間ぐらいの状態のものをいいます。壮族の人た ちは、夏は好んでサラサラのお粥を食べます。暑いので水分をたく さんとる必要があるからです。そのほかの季節は、ご飯を食べます 。でも、スックボンは食べません。 いつもお腹をすかしている乞食にとっては、スックボンすらごちそ うなのでしょう。芋は米飯より、ランクがさがる食べ物です。現在 では、ふかした芋はおいしいおやつですが、かつては、米飯の代わ りだったこともあったのです。なんだかすごい意気込みを感じる歌 ですね。 歌掛け祭は約一月半の間、場所と時間を替えて行われるのですが、 こういう人は確かにいます。それも結構な数です。家に帰らず、歌 掛け祭について歩く人、昼間は野良仕事に家に帰り、夜になると祭 に現れる人。歌掛け祭は徹夜ですから、何日も続けていると、ナチ ュラル・ハイ状態になってしまいます。 この歌は、相手に対して、まだうたい足りていないんだけど、とい っているわけですが。その背景として、歌掛け祭における「歌バカ 」を持ってきているわけですね。 ************************************************************ ▼△▼ 大樹 ▼△▼  あそこには大きな木が生えている  木地師を招いて、鋸を入れさせませんか  この土地のご主人たち  鋸を入れさせてくれますか ************************************************************  あそこに高名な歌い手がいる  わたしたちと歌の掛け合いをしてくれないかな  あなたたち、歌い手のみなさん  私たちと掛け歌をすることに賛成ですか 歌掛け祭では、歌のうまい人はモテモテです。そういう人たちに向 かって、だめかなあ、掛け歌してくれないかなという風に、問いか けてみているわけです。この歌は、そのノリで目の前の人に、私う たえる場を探しているんだけど、どうあなた、と問いかけているの です。 ************************************************************ ▼ ひ と こ と ▼[前号配信数/227] 今号に登場したゴーヤーチャンプルーについては、最近はよく知ら れるようになりましたが(例の「ちゅらさん」で、小浜島にやって きた上村兄弟が最初に口にするのがこれです)、沖縄の料理であり 、栄養価の高いゴーヤー(苦瓜)は、沖縄の長く暑い夏を乗り切る ための大切な食べ物です。害虫のウリミバエが完全に駆除されたこ とで、本州弧のスーパーにも並ぶようになりました。沖縄では、( 沖縄独特の硬い)豆腐や卵、それにコーンビーフハッシュ(手に入 りにくければツナ)などとチャンプルー(まぜる)して炒めるので すが、牛肉というのは、初めて聞きました。日差しを避けるために 軒先の棚に這わせたていたのを食べるようになったという説もあり ますが、このような中国の少数民族の例を考えると、最初から食べ 物として入ってきたとも考えられそうですね。ゴーヤーの牛肉炒め は美味しそうです。さっそく、試してみようっと。 僕の田舎の盆踊りでも、ずっと着いて廻る祭り好き、うた好きのな おじさんがいました。かくいう編集子も祭り好きで、盆踊りではは りっきって踊り、お菓子をたくさんもらうのが、小さい頃は楽しみ でした。 執筆者の順序にすこし移動があり、配信が一号分抜けました。毎週 の配信をこころがけますが、執筆者や編集子の事情で抜けることが あると思います。そのさいは、なにとぞご容赦下さい。(編) ************************************************************ ▼ ご 注 意 ▼ このメールマガジンは、歌謡研究会のメンバーが交替で執筆してい ます。よって、できる限り学問的な厳密さを前提として記している つもりですが、メールマガジンという媒体の性質上、かなり端折っ て記さざるを得ません。ここでの記述に興味をお持ちになり、さら に深く追求なさりたい場合は、その方面の学術書などに直接当たっ ていただくようお願いいたします。 各号の執筆は、各担当者の責任においてなされます。よって、筆者 のオリジナルな考えが記されていることもありますので、ここから 引用される場合はその旨お記しください。 また、内容についてのお問い合わせは、執筆担当のアドレスにお願 いいたします。アドレスが記されていない場合は、このマガジンに 返信すれば編集係にまず届き、次に執筆担当者に伝えられます。そ れへの返答は逆の経路をたどりますので、ご返事するまでに若干時 間がかかります。 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ □電子メールマガジン:「歌謡(うた)つれづれ」 □まぐまぐID:0000054703 □発行人:歌謡研究会 □E-Mail:suesato@mbox.kyoto-inet.or.jp(末次 智、編集係) □Home Page: http://web.kyoto-inet.or.jp/people/suesato/ ■ ※購読の中止、配信先の変更は上記Webから可能です ■ ※また、歌謡研究会の例会案内・消息、会誌『歌謡 ― 研究と ■ 資料 ― 』バックナンバーの目次も、ここで見ることができ ■ ます。 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■



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