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■ 歌謡(うた)つれづれ−019 2001/05/17
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□□■ 私の歌修行記 (2) ■□□
手塚恵子 <tezuka@kyotogakuen.ac.jp>
読者のみなさま、こんにちは。「私の歌修行記(2)」ということで、
前回に引き続いて、中国の少数民族、壮族の歌について、取り上げ
たいと思います。今日(5月17日)は、旧暦の4月24日です。
壮族は春と秋に歌の掛け合い祭(歌垣)を開きますが、私の調査地
では、春のシーズンは、旧暦の3月3日に始まって、4月8日にお
わります。これはほぼ、田植えと連動しているので、今の時期は、
楽しくも忙しくもあった、労働と娯楽の日々が過ぎ去って、一段落
というところでしょうか。
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▼△▼ 油絞り ▼△▼
あなたの木槌は軽すぎる
どうやっても、油はでてこない
親方さんよ、力持ちだというのなら
どうして、大槌を振り上げない
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あなたの歌はあまりよくありません
いろいろうたうけれど、いまひとつです
歌の匠さんよ、もしも強い歌を持っているのなら
ここ一番の歌を、繰り出してくださいな
この歌は、油絞りをモチーフにしています。このあたりでは、木の
実や菜種を木槌で打って、油を取り出します。力持ちの人は、大き
な重い槌を、数回振り下ろしただけで、かなりの量の油を取り出し
ます。力のない人は、軽い槌を、振り回しますが、それでは油は満
足に取り出せません。
このような言い回しは、相手が、歌を作るペースは速いけれど、的
はずれの比喩を連発している場合に、うたいます。相手の歌を否定
する一方ではなく、相手のプライドに訴えているところからみると
、歌い手は、まだこの相手と、歌の掛け合いを続けようとしている
ようですね。
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▼△▼ 雄鶏 ▼△▼
雄鶏を放して
闘わせどちらの鶏冠が傷ついたのかを見る
どちらかか、動き出せないというのなら
からっぽの正月を過ごす羽目になる
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私たちは皆やってきて、歌の掛け合いをする
(そして)だれのうたいぶりがよいかを見る
あなたが うたい出さないというのなら
落胆して、家に帰ることになる
この歌は、闘鶏をモチーフにしています。二羽の雄鶏を闘わせ、そ
の勝敗を競うのが、闘鶏です。節日に、しばしば行われます。勝っ
た方は、負けた方の鶏を持ち帰って、食べます。ちなみに、このあ
たりの一番のごちそうは、淡水魚の刺身で、二番目は、蒸し鶏です
。雄鶏の中には、やる気のないものがいて、放されても、動こうと
しないことがあります。それでは勝負になりません。せっかくのお
祭りムードに、水を差され、一同がっかりします。
このような言い回しは、人が集まってきて、うたが始まりそうでは
じまらないとき、例えば男の側がうたいかけているのに、女の側が
お互いに譲り合って、うたいだそうとしない、あるいはもじもじと
して、すこしうたってはやめる、といった状態のときに、うたわれ
ます。
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▼△▼ 娘 ▼△▼
18歳の娘です
どこかで夫を見つけたい
齢を重ねていくのが こわい
嫁に行くとき、どの家からも断られるのではと
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私は歌い手です
相手を見つけて、歌の掛け合いをしたいのです
待てども相手が現れないのではと、おそれます
うたうすべがないことを
この歌は、乙女心をモチーフにしています。現在では、以前ほどで
はありませんが、農村部では二十歳そこそこで結婚します。この歌
は、上の歌と違って、泣きが入っています。同じような状況でも、
こういう言い回しで、うたうこともできるのです。
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▼ ひ と こ と ▼[前号配信数/212]
「言い回し」、つまり比喩の多様さには驚かされます。ところで、
本号担当の手塚さんは、ワープロを触ってはいけないという医者の
忠告にもかかわらず、今号を執筆してくれました。感謝です。
日本歌謡学会の今年度春季大会の案内を下に記しておきます。近所
にお住まいで、発表内容にご関心のある読者の方はどうぞ聴講され
てください。研究発表会は原則として公開していませんが、聞きた
い方が居られれば、学会事務局の受付でその旨申し出てください。
(編)
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■■□ 日本歌謡学会平成13年度春季大会のご案内 □■■
[日時] 2001年5月26日(土)−27日(日)
[会場] 和洋女子大学(千葉県市川市国府台2-3-1)
■26日(土)
公開講演会(13:30-15:45)
歌謡と和歌の間 和洋女子大学教授 鈴木幸壽
お伽草紙絵巻に見る歌謡 和洋女子大学教授 緒方惟章
■27日(日)
研究発表会
(午前の部 10:00-12:00)
記四四・玖賀媛をめぐる歌謡 大阪桐蔭高校 内藤英人
音の潮流 ―厳島内侍考― 聖徳大学 清水真澄
白い砂の正月 ―琉球王府の民俗とうたを中心に―
四條畷学園短期大学 末次 智
(午後の部 13:00-14:30)
おもちゃ絵の歌謡 大阪教育大学 小野恭靖
南宮の今様圏 獨協大学 飯島一彦
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▼ ご 注 意 ▼
このメールマガジンは、歌謡研究会のメンバーが交替で執筆してい
ます。よって、できる限り学問的な厳密さを前提として記している
つもりですが、メールマガジンという媒体の性質上、かなり端折っ
て記さざるを得ません。ここでの記述に興味をお持ちになり、さら
に深く追求なさりたい場合は、その方面の学術書などに直接当たっ
ていただくようお願いいたします。
各号の執筆は、各担当者の責任においてなされます。よって、筆者
のオリジナルな考えが記されていることもありますので、ここから
引用される場合はその旨お記しください。
また、内容についてのお問い合わせは、執筆担当のアドレスにお願
いいたします。アドレスが記されていない場合は、このマガジンに
返信すれば編集係にまず届き、次に執筆担当者に伝えられます。そ
れへの返答は逆の経路をたどりますので、ご返事するまでに若干時
間がかかります。
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□電子メールマガジン:「歌謡(うた)つれづれ」
□まぐまぐID:0000054703
□発行人:歌謡研究会
□E-Mail:suesato@mbox.kyoto-inet.or.jp(末次 智、編集係)
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