■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■
■ 歌謡(うた)つれづれ−013 2001/04/05
■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
★ まぐまぐで読者登録された方へ送信しています。★
*******************************************************
□□■ 初恋の歌謡史(1) ■□□
小野 恭靖(ono@cc.osaka-kyoiku.ac.jp)
今、巷でヒットしている流行歌にaikoの『初恋』があります。
*******************************************************
▼△▼aiko『初恋』 ▼△▼
◇「まばたきするのが惜しいな」
今日もあなたを見つめるのに忙しい
悩んでるあたしはだらしないな...
頭ん中妄想は思ったより大きい
不都合なことばかりが続く訳じゃない
明日はきっとあなたに言えるだろう
胸をつく想いは絶えず絶えず絶えず
あたしはこれからもきっとあなたに焦がれる
それはささいな出来事指が触れた時
小さな仕草にいつもまどわされて...
(以下、省略)
(作詞・作曲/aiko、 編曲/島田昌典)
*******************************************************
この歌は主人公の少女の、初々しく切ない恋心を歌っています。冒
頭の「「まばたきするのが惜しいな」今日もあなたを見つめるのに
忙しい」というフレーズは、初恋に胸躍らせる少女のまなざしその
ものを歌っています。
しかし、そのまなざしの源である瞳は、昔から言われる「恋は盲目
」そのままに、恋しい相手の一部分しか見えていません。そしてそ
れは「小さな仕草」や「ささいな出来事」によって、すぐにも「妄
想」に結びつくのです。
「妄想」は再び「胸をつく想い」となり、「焦がれる」原因になっ
ていきます。こうなると、恋したことのある人なら誰でも味わった
経験のあるあの辛い悪循環(?)の始まりです。もちろんそれは客
観的に外から見ている人にしか認識できない悪循環に他なりません
。恋する本人は、まさに痩せるような想いで恋い続けるのです。
aikoの歌詞ではその悪循環につかまって抜け出すことのできない精
神的な辛さを、「絶えず絶えず絶えず」の繰り返しのフレーズで描
いています。
しかし、また一方では、そんな辛さも恋しい相手がいてくれればこ
そと思えるのが初恋でしょう。初恋とは不思議なものです。このよ
うな初恋の感情は人間においては普遍的なものです。昔から多くの
恋歌が歌われ、詠まれてきました。そのなかから『万葉集』の歌二
首を紹介します。
*******************************************************
▼△▼『万葉集』巻第11・2394番歌・よみ人知らず▼△▼
△朝影に我が身はなりぬ玉かきる
ほのかに見えて去(い)にし児(こ)故に
○朝影のようにわたしは細った。
ほのかに見えて消えてしまったあの娘のせいで。
△朝影に我が身はなりぬ韓衣(からころも)
裾のあはずて久しくなれば
○朝影のようにわたしは痩せた。
韓衣の裾が合わないように、逢わないで久しくなったので。
(小島憲之・木下正俊・佐竹昭広『万葉集四〔完訳日本の古典5〕』
小学館 1983)
*******************************************************
これらの万葉歌は紛れもなく、恋する人が作って歌い、共感した人
によってさらに歌い広められた歌謡です。初恋とは明示されていま
せんが、第一首目の「ほのかに見えて」という表現は、明らかに初
恋をイメージさせます。わが国の初恋の歌はこれらの万葉歌を嚆矢
として、次々と登場してきます。
次号からは、わが国古今の初恋の歌謡について述べさせていただき
ます。
*******************************************************
▼ ひ と こ と ▼[前号配信数/183]
恋する人は、うたの世界に近付きます。初恋なら、なおさらです。
aikoと万葉集、時代を飛び越えて通じあう切ない想いは、聴く人達
の心をとらえ続けてきたのですね。次回以降を読ませていただくの
が、ほんとうに楽しみです。(編)
*******************************************************
■■□ 次回の歌謡研究会 □■■
▽第87回 歌謡研究会例会
[日時] 2001年4月14日(土) 午後2時〜
[会場] ならまちセンター 会議室(電話) 0742-27-1151
[輪読] 菅江真澄 「鄙廼一曲」
淡海の国杵唄 臼曳歌にも諷ふ唄
51 とんと戸扣き現にあけて…
52 ねたか寝ぬのは枕が証拠…
木葉 海月氏
[研究発表]
白い砂の正月 末次 智氏
*******************************************************
▼ ご 注 意 ▼
このメールマガジンは、歌謡研究会のメンバーが交替で執筆してい
ます。よって、できる限り学問的な厳密さを前提として記している
つもりですが、メールマガジンという媒体の性質上、かなり端折っ
て記さざるを得ません。ここでの記述に興味をお持ちになり、さら
に深く追求なさりたい場合は、その方面の学術書などに直接当たっ
ていただくようお願いいたします。
各号の執筆は、各担当者の責任においてなされます。よって、筆者
のオリジナルな考えが記されていることもありますので、ここから
引用される場合はその旨お記しください。
また、内容についてのお問い合わせは、最後に記される執筆担当の
アドレスにお願いいたします。アドレスが記されていない場合は、
このマガジンに返信すれば編集係にまず届き、次に執筆担当者に伝
えられます。それへの返答は逆の経路をたどりますので、ご返事す
るまでに若干時間がかかります。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
□電子メールマガジン:「歌謡(うた)つれづれ」
□まぐまぐID:0000054703
□発行人:歌謡研究会
□E-Mail:suesato@mbox.kyoto-inet.or.jp(末次 智、編集係)
□Home Page:
■ http://web.kyoto-inet.or.jp/people/
■ suesato/kayouken_hp/kayoukenhp.htm
■ ※購読の中止、配信先の変更は上記Webから可能です
■ ※また、歌謡研究会の例会案内・消息、会誌『歌謡 ― 研究と
■ 資料 ― 』バックナンバーの目次も、ここで見ることができ
■ ます。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
|