『歌謡(うた)つれづれ』011
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■ ■    歌謡(うた)つれづれ−011 2001/03/22 ■ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■    ★ まぐまぐで読者登録された方へ送信しています。★ ******************************************************* □□■ あなたも今様歌を作ってみませんか? ■□□                佐々木聖佳 今様は、平安時代に流行した歌謡です。今様というのは、今風のと いう意味で、歌の「今様」といえば、今風の歌という意味なのです 。TVの音楽番組でベスト10を発表する、という番組があります 。いろんなジャンルのいろんなメロディラインの歌がありますね。 演歌がはいってたり、ダンスミュージックがはいってたり、一頃は 「だんご三兄弟」がベスト3にはいったりしました。こういった歌 を一くくりにするとすれば、ヒット曲というしかありません。一見 バラバラにみえるけれど、どこかに共通点があって、その時代の人 達から求められるものがどこかにある、それが流行歌です。 今様も事情は同じことで、系統のちがう、神歌とか、法文歌、古柳 、只の今様といった様々な種類の歌がありましたが、それらを総称 して「今様」といっていました。何に対して今風なのかといいます と、平安時代前期に貴族が遊宴などで歌った催馬楽(さいばら)、 風俗(ふぞく)などの宮廷歌謡に対してです。今様は、こういった 歌謡と比べて、より新しく華やかで魅力的な歌詞と曲節をもった歌 謡だったのでしょう。 今様には、和歌や俳句のような厳密な形式がある訳ではありません 。比較的整っているのは、仏への信仰の思いを歌った「法文歌」で 、七五調や八五調の四句形式のものが多いです。例として、『梁塵 秘抄』の二六番歌をあげましょう。七音と五音の組み合わせが四句 で構成されています。 ************************************************************ ▼△▼ 典型的な今様歌の例 ▼△▼ ○ほとけはつねにいませども うつつならぬぞあはれなる  ひとのおとせぬあかつきに ほのかにゆめにみえたまふ                (『梁塵秘抄』26番歌) ◎み仏は常にいらっしゃるというが、目でみることはできない。そ れがしみじみと思われる。人が寝静まった夜に、かすかに夢の中に お見えになる ************************************************************ この形式は、現代の歌にも引き継がれています。「北の宿から」「 青春時代」「水戸黄門のテーマ曲」「まんが日本昔話のテーマ曲」 「お正月」など、七五調偶数句の歌は探してみると、結構あるもの です。 法文歌以外の歌の形式がどうかといいますと、だいたい七五調が基 本といえますが、八音になったり四音になったり、長かったり短か ったり、五七五七七の短歌体だったりと様々です。 今様の表現の特徴の一つに、「物は尽し」があります。「物は尽し 」というのは、最初に「−は」と主題をあらわして、あとにそれに 関連するものを並べる表現の型です。『枕草子』の「物は尽くし」 が有名ですが、今様は歌謡の表現において独自に「物は尽くし」を 展開させました。『梁塵秘抄』の歌謡には、「心の澄むものは」「 常に恋するは」「風になびくもの」「此の頃都に流行る物」「遊女 の好む物」「をかしく舞うもの」など多彩な主題がみられ、様々な 事物がとりあげられています。一見何気なく列挙しているように見 えますが、聞く人になるほどと思わせるひねりがどこかにあります 。例えば、『梁塵秘抄』の429番歌をあげてみましょう。 ************************************************************ ▼△▼ 「物は尽くし」の今様 ▼△▼ ○心凄きもの、夜道、船路、旅の空、木闇き山寺の経の声、  想ふや仲らひの飽かで退く                 (『梁塵秘抄』429番歌) ************************************************************ 「心凄き(心細い)もの」が主題の歌です。夜道、船路、旅の空ま では誰もが経験のあることでしょう。木立の茂った山寺から聞こえ るお経の声というのも、平安時代という時代の雰囲気を考えれば納 得することができます。最後に、恋人同士が思い合いながらこれと いう理由もないのに別れてしまうことをあげているのが、今様の独 自性を表していて、印象深い表現だと思います。 さて、今回は、今様の型を借りて現代版「今様」を作ってみません か、というのがテーマです。 次にあげるのは、とある大学の授業で大学生が作った現代版「今様 」です。始めは、「えー、できないー」と言っていた人も、やがて 夢中で考え始めていました。30分ぐらいで、こんなにおもしろい歌 が作られました。 ************************************************************ ▼△▼ 学生がつくった今様歌 ▼△▼ ○この頃ギャルに流行るもの、ガングロ、つけづめ、つけまつげ、  厚底ブーツにラメメイク、気分はみんなナオミ・キャンベル ○手放したくないものは、親の愛情、女の友情、この世のお金、自  分の心、浮気発覚、あなたの心 ○青春時代にみるものは、流れる汗、叶う希望、理想の自分そのギ  ャップ、飲み過ぎた後の夜明け空 ○見るに切なくなるものは、母の手のしわ、父の髪、女の物乞い、  泣く子供、あなたの首のキスマーク ○このごろしみじみ思うこと、就職活動がけっぷち、こんな時代に  誰がした! なんとかしてくれ、森総理! ************************************************************ 「物は尽くし」の型と七五調のリズムで、皆さんも「今様」を作っ てみませんか? ******************************************************** ▼ ひ と こ と ▼[前号配信数/191] 今様とは「ヒット曲」という意味だったのか、なるほど。今度「水 戸黄門」のテーマ曲を気を付けて聞いてみよう。それにしても、学 生作の今様は秀逸ですね。みなさんも、一つ作ってみてはいかがで すか。(編) ******************************************************** ▼ ご 注 意 ▼ このメールマガジンは、歌謡研究会のメンバーが交替で執筆してい ます。よって、できる限り学問的な厳密さを前提として記している つもりですが、メールマガジンという媒体の性質上、かなり端折っ て記さざるを得ません。ここでの記述に興味をお持ちになり、さら に深く追求なさりたい場合は、その方面の学術書などに直接当たっ ていただくようお願いいたします。 各号の執筆は、各担当者の責任においてなされます。よって、筆者 のオリジナルな考えが記されていることもありますので、ここから 引用される場合はその旨お記しください。 また、内容についてのお問い合わせは、最後に記される執筆担当の アドレスにお願いいたします。アドレスが記されていない場合は、 このマガジンに返信すれば編集係にまず届き、次に執筆担当者に伝 えられます。それへの返答は逆の経路をたどりますので、ご返事す るまでに若干時間がかかります。 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ □電子メールマガジン:「歌謡(うた)つれづれ」 □まぐまぐID:0000054703 □発行人:歌謡研究会 □E-Mail:suesato@mbox.kyoto-inet.or.jp(末次 智、編集係) □Home Page: ■ http://web.kyoto-inet.or.jp/people/ ■ suesato/kayouken_hp/kayoukenhp.htm ■ ※購読の中止、配信先の変更は上記Webから可能です ■ ※また、歌謡研究会の例会案内・消息、会誌『歌謡 ― 研究と ■ 資料 ― 』バックナンバーの目次も、ここで見ることができ ■ ます。 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■



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