『歌謡(うた)つれづれ』005
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■ ■     歌謡(うた)つれづれ−005 2001/02/08 ■ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■    ★ まぐまぐで読者登録された方へ送信しています。★ ************************************************************ □□■ 庄内節のこと(1) ■□□ 宮崎 隆<fwic7430@mb.onfoweb.ne.jp> 民謡愛好家や研究者はわりと多いようですが、その愛唱の基準や研 究の方法論はほとんど共有されていないのではないでしょうか。な んとかしなければ、と思いつつ、自分なりのフィールドワークを重 ねるばかりなのですが、この度また、貴重な唄が終焉を迎えるのに 立ち会ったようなことがあり、複雑な思いが募るわけです。そのこ とから話し始めたいと思います。 一昨年の秋【98.10.10】、新潟県刈羽群小国町に伝承された「天神 林」という祝い唄を調査して歩いていますうちに、下村の永見恒太 という唄好きの老人に巡り会いました。有名な「三階節」の古態と もいうべき盆踊りの唄「おいな」が、上小国の妻有街道上の集落三 桶地に伝承されているいるのを保存継承した人です。永見老はその 時、88歳とかで、若い時からの唄三昧の思い出話を聞くうちに、そ うそうこんな唄があると、うたってくれたのが「庄内節」でした。 ************************************************************    ♪ハァ〜想って通いば千里も一里 逢わずに帰いればただの一里も又千里    ♪眉毛(マユゲ)おとして鉄漿(オハグロ)染て           主と苦労がして見たい    ♪辛抱してくれ今しばらくは           長く白歯にしておかぬ    ♪恋に焦(コガレ)て鳴く蝉(セミ)よりも           泣かぬホタルが身を焦がす   逢いに行く時同じ歌詞でもテンポが早く/目的を達して帰る   ときテンポがよっくり/帰りのよくとした唄てやる/この唄   を田かきをやつておる馬がよろこんで馬の足の調子が唄の調   子と合てくる        【歌詞と説明は後日入手の永見老の書付のまま】 ************************************************************ 子供のとき、田掻きでマンガを押しながら大人がうたっているので 覚えたとかで、一名「夜遊び唄」とも言い、今まで誰にも教えなか ったのだと笑うのです。そう言えば、昭和61年の緊急民謡調査報告 書『新潟県の民謡』にも掲載されていません。(永見老は、「松前 」と「三階節」とを収録しているのですが・・)大人になってから 、もうその時はこの唄をうたう人はいなかったそうですが、村の長 老にうたって聞かせて、そのとうりだと「保証」されたということ です。 昭和初期ころまでうたわれていたのでしょうか、この唄が「庄内節 」というのだということに、わたしは驚きを禁じえなかったのです 。なぜなら、即興の文句を掛け合いながら踊ったという津軽の盆踊 り唄「ドダレバチ」は、「庄内節」の流れという説(竹田忠一郎著 『東北の民謡』昭和12年)を知っていたからです。しかるに、現在 では、その「庄内節」を特定することも容易でなく、まして曲節を 聞くことも不可能になっていますから。まるで長年求めていた恋人 に巡り会ったような気がしたのでした。 ところが、去年12月、その永見老が逝去されてしまったのです。遠 くには息子さんもおられるよしでしたが、連れ合いがなくなってか らは一人暮らしを続けておられたそうです。死因は直腸癌。享年満 89歳。同じ村に嫁にいっていた長女が後を看取ったそうです。も う少しお話をうかがいたいと思っていましたが、もう永見老の生涯 を詳しく知る人もいなくなってしまいました。だから、わたしは、 「庄内節」という恋の唄が新潟県の小国町に伝承されていたことを 知る”証人”になってしまったわけです。で、このこと(「庄内節 」を採集したということ)をとりあえずお知らせしておきたかった のです。次回からもう少し「庄内節」の伝播について考えてゆきた いと考えています。 なお、この唄の音源は、筆者の収録テープがあります。必要な人に は、ご一報くだされば実費でお分けします。 ************************************************************ 他の歌詞(わたしが直接聞いたもので、上記以外のものです。)      ♪きみは鳴いても暮れ六つばかり 唄うかわいや夜明けまで  ♪泣いたからとて許すな心 きみは泣き泣き気をうつす ************************************************************       <2001.1.30.記> ************************************************************ ▼ ひ と こ と ▼[前号配信数/182] 人々の生活と心を伝える貴重なウタがどんどん消えていってるので すね。今のポピュラーミュージックはどれだけ歌い継がれるのでし ょうか。 次回の研究会の内容は下記の通りです。興味がおありの方は、ぜひ ご参加下さい。会で輪読している『鄙廼一曲(ひなのひとふし)』は 、江戸時代後半の傑出した旅行家・菅江真澄(すがえ ますみ)が各地 で集めた民謡を記録した書物で、1809年(文化6)ころの成立だとされ ます。(編) ************************************************************ ■■□ 次回の歌謡研究会 □■■ ▽第88回 平成12年02月17日(土)午後2時より   ならまちセンター会議室(和室) tel0742-27-1151  1.輪読・菅江真澄『鄙廼一曲』   「淡海の国麦舂唄 臼曳歌にも諷ふ唄(48)(49)」 米山敬子  2.研究発表「中国の民歌とその分類について」   牛 承彪氏 ************************************************************ ▼ ご 注 意 ▼ このメールマガジンは、歌謡研究会のメンバーが交替で執筆してい ます。よって、できる限り学問的な厳密さを前提として記している つもりですが、メールマガジンという媒体の性質上、かなり端折っ て記さざるを得ません。ここでの記述に興味をお持ちになり、さら に深く追求なさりたい場合は、その方面の学術書などに直接当たっ ていただくようお願いいたします。 各号の執筆は、各担当者の責任においてなされます。よって、筆者 のオリジナルな考えが記されていることもありますので、ここから 引用される場合はその旨お記しください。 また、内容についてのお問い合わせは、最後に記される執筆担当の アドレスにお願いいたします。アドレスが記されていない場合は、 このマガジンに返信すれば編集係にまず届き、次に執筆担当者に伝 えられます。それへの返答は逆の経路をたどりますので、ご返事す るまでに若干時間がかかります。 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ □電子メールマガジン:「歌謡(うた)つれづれ」 □まぐまぐID:0000054703 □発行人:歌謡研究会 □E-Mail:suesato@mbox.kyoto-inet.or.jp(末次 智、編集係) □Home Page: ■ http://web.kyoto-inet.or.jp/people/ ■ suesato/kayouken_hp/kayoukenhp.htm ■ ※購読の中止、配信先の変更は上記Webから可能です ■ ※また、歌謡研究会の例会案内・消息、会誌『歌謡 ― 研究と ■ 資料 ― 』バックナンバーの目次も、ここで見ることができ ■ ます。 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■



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