脚注 24
ここまでで述べている,反応の自由エネルギー変化は,純物質についての自由エネルギーを扱っている.化学反応の起きている,反応容器内の自由エネルギー変化では,混合物についての自由エネルギーをあつかわなければならない.もともと,自由エネルギーは,エントロピーに依存している量であるが,物質を混合すると,エントロピーも変化し,自由エネルギーも純物質の値とはことなる.このように,溶液や混合気体などのように,物質の濃度が変化した場合についてとりあつかうのが,化学ポテンシャルである.平衡定数は,混合物中の物質についての化学ポテンシャルの合計を最小にする物質量から求める.
化学ポテンシャル μ は,混合物中における,物質のモルあたりの自由エネルギーを扱う量である.(正しくは,自由エネルギーを物質量で微分した量として定義される.)
図24.1 純粋Aの状態から,混合物 A Bになった場合の変化
図24.1では,純粋A場合を考える.純粋A1モルの自由エネルギーをΔGm,A とする.フラスコにあるAの量にかかわらず,仮にAを1モルだけ集めたとき,Aの化学ポテンシャルは,ΔGm,Aであり,この値をμ0Aとおく.そこに,物質 B を加えたとき,Aのモル分率を,xAとすると,Aの化学ポテンシャルは,r24.1式で表される.
μA = μ0A + RT ln xA 式 r24.1 ( 0 < xA < 1 )
ここで,RT ln x は混合によるエントロピー補正項であり,純粋のときの,物質Aのモルあたりの自由エネルギーが,混合によって,物質Aについて1モルあたり,どれだけ低下するかを示している.RT ln x は,負の値であり, x = 1 の時は,すなわち,純粋Aの時は,0 である.化学ポテンシャル μ は,物質のモルあたりの自由エネルギーであるので, 混合物中のAの自由エネルギーは,Aの量をnAモルとすると,
ΔGA = nA μA = nA ( μ0A + RT ln xA ) 式 r24.2
同様に,混合物中のBの自由エネルギーは,
ΔGB = nB μB = nB ( μ0B + RT ln xB ) 式 r24.3
ここで,溶液全体の自由エネルギーは,
ΔGSolution = ΔGA + ΔGB
平衡状態では,自由エネルギーが極小になる.自由エネルギーを反応の進行(nA)で微分したとき,極小値で0である.また,微分したとき,同時に化学ポテンシャルそのものであるが,nAとnBは増加と減少の関係なので,
d(nA μA)/dnA = μA , d(nB μB)/dnA = −μB
0 = μA − μB
となる.式 r24.2と式 r24.3を代入し,変形すると,
μ0B - μ0A = RT ln xA - RT ln xB
μ0B - μ0A = RT {ln (xA / xB) }
左辺は反応の自由エネルギー差である.右辺では,モル分率の比は,濃度の比と等しくなるので,対数項の符号を変えて,
ΔG = - RT ln ([B] / [A])
従って,純物質についての自由エネルギー差と平衡定数の関係は,
ΔG = - RT ln K
これが,平衡定数の熱力学的裏付けである.
記入者 談
説明がちょっとごまかし気味ですが,とりあえず,ちゃんと裏付けがあることを知ってください.要は,混合する事によって,エントロピーの効果により,より見いだしやすい状態に推移するわけです.これから溶液などのように,濃度が変化する事象を扱う場合,登場する式には,濃度変化によるエントロピー項が現れ,自由エネルギーを低下させる効果が出てきます.
実は,途中にあらわれた,次の式,
0 = μA − μB すなわち μA = μB
2つの状態の化学ポテンシャルが等しくなるというのは,平衡の定義になります.
純粋液体に,物質を加えたときに起こる,沸点上昇や凝固点降下も,混合による自由エネルギーの低下効果によって説明されます.
純物質ではなく,濃度 1mol/Lの化学ポテンシャル μ*A を基準にすると,濃度CAのときの化学ポテンシャルは,
μA = μ*A + RT ln CA 式 r24.? μ*A not = μ0A
と再定義できる.電極電位では,この定義に基づいた取り扱いがされる.(ネルンストの式)
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