かがくののおと 9 混成軌道法

有機化合物の形

  • sp 混成軌道

    混成軌道は,"足して2で割る" 的な考え方である. s 軌道1つとp 軌道1つから,sp 混成軌道 2 つを作る.忘れてはいけないのは,2つの軌道をもとにしているので,できるの軌道の数も2つであることである.1つの混成軌道は独立した1つの軌道として扱い,電子を配置するときも,1つの混成軌道にパウリの排他原理が適用されることである.

      
     
      図 9.1  s 軌道とp 軌道1つから,2つのsp軌道ができる.2つのsp 軌道は,互いに反対方向に向いている.
      
     
      図 9.2 (a) 2つのsp 軌道は,炭素原子の1つの軸上に,互いに180°反対側に向いている.(b) 混成軌道に関与していない,残りの2つのp 軌道を重ねた様子.4つの軌道は,異なる色で区別してある.

     2つのsp 混成軌道は,1つの原子の軸上の両方に,それぞれ広がっている.炭素原子でsp 混成軌道にした場合,残りの2 つのp 軌道と合わせて,4つの結合が可能である.例として,アセチレン( HCCH )を見てみよう.

      
     
      図 9.3 sp 混成軌道の例 アセチレン ( HCCH )

     2つの炭素原子のそれぞれに,sp 混成軌道を適用する.炭素原子のsp 混成軌道のうち,向かい合う2つが,σ結合を作り,炭素と炭素の1つ目の結合になる.混成軌道に参加していない,それぞれ2 つの p 軌道は,炭素と炭素の間に,2組のπ結合を形成し,2つ目と3つ目の結合になる.炭素と炭素の間に3重結合が形成されている.残りの,2つのsp 混成軌道は,それぞれ水素とσ結合を作る.アセチレンは,全体して,sp 混成軌道を軸とした,直線状の分子である.

     
  • sp2 混成軌道

    こんどは,"3つを足して3で割る" 的な考え方である. s 軌道1つとp 軌道2つから,sp2混成軌道 3 つを作る.この場合でも,忘れてはいけないのは,3つの軌道をもとにしているので,できるの軌道の数も3つであることである.1つの混成軌道にパウリの排他原理が適用されることは,言うまでもない.

      
     
      図 9.4  s 軌道とp 軌道2つから,3つのsp2 軌道ができる.3つのsp 軌道は,同一平面上に広がっている.角度は,基本的には,120°である.
      
     
      図 9.5 3つの sp2 混成軌道と残りのp 軌道1つを重ねた様子.青,緑,紫の各色で示した,3つの sp2 混成軌道は,同一平面上に広がっている.

     3つのsp2 混成軌道は,同一平面上に,それぞれ120°の角度で広がっている.炭素原子でsp2 混成軌道にした場合,残りの1 つのp 軌道と合わせて,4つの結合が可能である.例として,エチレン( CH2CH2 )を見てみよう.

     
      図 9.6 sp2 混成軌道の例 エチレン ( CH2CH2 )

     2つの炭素原子のそれぞれに,sp2 混成軌道を適用する.炭素原子のsp2 混成軌道のうち,向かい合う2つが,σ結合を作り,炭素と炭素の1つ目の結合になる.混成軌道に参加していない,sp2混成軌道の面に垂直な,それぞれ1 つの p 軌道は,炭素と炭素の間に,1組のπ結合を形成し,2つ目の結合になる.炭素と炭素の間に2重結合が形成されている.残りの,それぞれ2つのsp2 混成軌道は,4つの水素とおのおのσ結合を作る.エチレンは,2つの炭素と4つの水素が,全体して,同一平面上に位置する分子である.

     

    ブタジエンの軌道

      

  • sp3 混成軌道 (エス ピー スリーと読む)

    こんどは,"4つを足して4で割る" 的な考え方である. s 軌道1つとp 軌道3つから,sp3 混成軌道 4 つを作る.この場合でも,忘れてはいけないのは,4つの軌道をもとにしているので,できるの軌道の数も4つであることである.もちろん,1つの混成軌道にパウリの排他原理が適用される.

      
     
      図 9.7 s 軌道とp 軌道3つから,4つのsp3 軌道ができる.4つのsp3 軌道は,空間的に互いに遠ざかる方向に広がっている.角度は,基本的には,約109.5°である.
      
     
      図 9.8 4つのsp3 軌道は,1つの原子の核の周りに,互いに遠ざかる方向に広がっている.

     最初に取り上げた,メタン ( CH4 ) は,sp3 混成軌道の例である.sp3 混成軌道は,それぞれ約109.5°の角度で,空間的に広がっている.炭素原子でsp3 混成軌道にした場合,メタンの例のように,4つの結合が可能である.別の例として,エタン( CH3CH3 )を見てみよう.

      
     
      図 9.9 sp3 混成軌道の例 エタン ( CH 3CH 3 )

     2つの炭素原子のそれぞれに,sp3 混成軌道を適用する.炭素原子のsp3 混成軌道のうち,向かい合う2つが,σ結合を作り,炭素と炭素の1つ目の結合になる.残りの,それぞれ3つのsp3 混成軌道は,6つの水素とおのおのσ結合を作る.エタンは,2つのメチル基( CH3 )が,炭素と炭素のσ結合で結び付いている構造である.σ結合は,軸対称であるので,回転できる.エタンは,2つのメチル基が回転により,位置関係を変えることができる.安定な位置は,水素同士がもっとも離れる,図 9.9 の位置である.


  • 参考書
    化学質問箱 目次ページ Copyright 2001-2004, Y.Naka.
    Last updated, June 23, 2004.