「スクリューボール」
−映画における最もロマンティックな瞬間とは?− *7*
本棚の上のコンスタンス・ベネットin 「Topper」(1937)
スクリューボールコメディは30年代後半のその潮流を作り出しました。この時代はハリウッドにおいて、アール・デコとポスト・デコのデザインがピークを極めた時期でもありました。西部劇や歴史ドラマは例外として、デコ調のデザインはハリウッド全体に浸透していて、映画になめらかで洗練されたエレガンスを持ち込み、シックで豊かなファッションとして使われていたのです。ブスビー・バークレーはクールで華々しいミュージカル映画のセットにうってつけだということを発見しています。スクリューボール・コメディにおいては、デコ調の丸みのあるきれいな線は、当時はやっていた飾り気のない簡素なデザインに対する風刺を込めた反発でもありました。デコ調のセットのなめらかな曲線は登場人物達の馬鹿げた行動とも結びつきがあり、これまでのコメディと異なる奇妙なドタバタコメディのプロットにマッチするヴィジュアルイメージを作り出しました。例えば。「Topper」(1937)ではコンスタン・ベネットはてっぺんが白い漆の高級な本棚の上に寝そべっていて、上品ないでたちで満足そうにしていますが、そこには彼女に身に起こるであろう茶番めいた出来事との不調和が見られます。
アール・デコはこの時代を象徴するセット・デザインであり、優雅なライフスタイル、裕福な家庭像の一面を最も顕著にあらわすものとして使われていました。お金はスクリューボール・コメディを定義する上で大きな役割を担っています。批評家達はよく「コメディはお金持ちの登場人物を揶揄するものである」言っていますが、それはおそらく反論がある意見です。例えば「新婚道中記」における、ハチャメチャで子供じみたイレーヌ・デュンヌとケーリー・グラントの結婚は、二人のスターの並外れた性的魅力は言うまでもありませんが、二人の置かれている裕福な家庭環境によってすぐによりを戻すことになります。スクリューボールコメディにおける馬鹿げた騒動は登場人物の裕福さと密接な関係があるのです。この映画でのデュンヌとグラントの面白さは、彼らのような美男美女が、途方もなく広く豪華な部屋で、ささいな口喧嘩をしているいるからだとも言えます。何が何を揶揄しているのかは、その登場人物の置かれている状況によるところが大きいので、正確に指摘するのは難しいです。
2階が吹き抜けになったお伽噺のように華やかなリビングルームに立っているデュンヌは、ひどくイライラしながらシークインで飾ったイブニング・ガウンを羽織って、離婚の手続きの際のエチケットについて口論をしています。彼女が証言台に立っていたときにかぶっていた黒い円錐系の革張りの帽子はウサギの耳の形をしていました。それにナイトクラブ用に合わせたスリー・ピースもかなり奇妙な服です。彼女が家の中で着ている幾何学模様のパジャマも床をひきずって歩くにはあまりにも高価なものではないでしょうか?彼女はまるで沼地を歩くときのようにちょっとひざを持ち上げていなければなりません。このようにパジャマを着てまっすぐに歩けないデュンヌもまた、他のスクリューボールコメディの女性同様、贅沢によって不便さを負わされているのです。
証言台に立つイレーヌ・デュンヌ in 「新婚道中記」(1937)
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