ピーター・ファレリー






いつも人前では"ある朝、目が覚めた時に小説家になろうって決意した"って言ってるけど、今日はゆっくり話す機会
を持てたから、本当のことを教えてあげるよ。

コメディ映画『ジム・キャリーはMr.ダマー』『メリーに首ったけ』を作った人間というイメージ通り、はじめピータ・ファレリ
ーはエネルギッシュにギャグを連発していたが、小説家を目指すようになった経緯の話になると突然シリアスな口調
になった。

「高校生の時に夢中になったガールフレンドがいた。つきあってる間にいろいろあったけどそれを話すと長くなるから
はしょらせてもらうよ。僕らが大学3年生の時に彼女が走っている車から転げ落ちて、首の骨を折って即死した。すご
いショックだったよ。それから3年間ずっと彼女のことを思って落ち込んでた。でも彼女について何か書くことで救いに
なるんじゃないかって考えてみたんだ。それが小説家になるきっかけだった」

そんな悲劇的な出来事が、子供じみた愛嬌たっぷりのスラップスティック・コメディを作る原動力になったのは不思議
だが、それはピーター・ファレリーの知られざる部分だった。コメディ映画の脚本家であり監督でもある42歳になるピー
ターはボサボサ頭にヤギのような口髭をたくわえて、10代のスケートボーダーが着るようなバギーパンツ姿で、裸足
の足を組んで、ロンドンのホテルの一室で会話の中に辛口のブラックジョークをまじえて話している。まるで彼自身が
おしっこを飲んだり、犬を感電させる映画の中のユニークな登場人物のようだが、一方ではガールフレンドの死や10
代の頃UFOを見た経験を伏目がちに話す一面も持ちあわせている。

そんなピーターが『コメディ・ライター』という新しい小説を書いた。心にまっすぐ突き刺さる感動的な物語はスラップス
ティック・コメディの脚本家と同人物のペンによるものとは信じがたい。「映画は単なる娯楽だけど、本を書く作業は真
実を探す作業でリアルさが求められる。映画の場合だったらよっぽどひどい作品じゃないかぎり2時間座って見てられ
るけど、小説の読者は読み始めて50ページほどでこれはくだらない物語だって少しでも疑いを持ったらもう読むのを
止めてしまう。そのまま読んでくれたとしても、疑いもったままじゃ物語の中に入っていけないしね」

ピーターはリアリズムを追求するうちに、自分自身の様々な面を反映したハリウッドに住む若者であるこの小説の主
人公、ヘンリー・ハローヤンを生み出した。ボストンでの営業の仕事に行き詰まったヘンリーは仕事をやめて、脚本家
になるという大きな夢を持ってカリフォルニアへ向かう。その途中、ビルの屋上から飛び降りようとする女性を見つけ
て、やめるように説得したが、その甲斐もなく彼女は自殺した。その時の体験を元に書いた記事がLAタイムズに掲載
された後、自殺した女性の妹を名乗るちょっと変な女がヘンリーの前に現われ、まとわりつくようになり、映画業界に
なんとかもぐりこもうとするヘンリーの不器用な試みをなにかと邪魔するようになる。

ピーターは自分自身のハリウッドでの奮闘ぶりを面白可笑しく溌剌と描いてはいるが、脚本家志望の人間にとっては
いくぶん気をそがれるような訓告的な内容になっている。「当時の僕はこの小説の主人公よりずっと無為な日々を過
ごしていた」ガールフレンドが死んだ後、ピーターはどういう風に生きていけばいいのかを模索していた。「24歳までは
ずっと彼女に対する思いで沈んでいたことをおぼえてる。セールスマンとして働いていたこともあったけど、何にもでき
なくてそりゃひどいものだった。だから毎晩こんな風に祈るようになった。"神様、僕が好きになって打ち込めるものは
何なのかどうか教えて下さい"ってね。それからしばらくして、彼女と過ごした高校、大学生活のことについて書いて
みるのはどうだろうって考えが頭に浮かんだんだ。それこそが自分がやってみたいことなんじゃないかって思った」

ピーターはすぐに書く作業に没頭するようになり、向こう見ずにもこれこそが自分のやる仕事だと決意するようになっ
た。「生まれ育った場所では小説家になる奴なんていなかった」ピーターは笑う。「小説家になるのは知事になるより
は簡単だろうとは思う。でも恥ずかしいからはじめは誰にも小説家になるなんて言えなかった。だってそんなこと言っ
たら、きっと馴染みのバーに行ったら知り合いに”おいっ、ピーター!こっちへ来てチャーリーに今何やってるか教えて
やれよ!お前の書いたヘミングウェー気取りの本がここにあるんだぜ!”なんて言われるに決まってる。小説家とし
てうまくやっていける見込みなんてなかったからそんなの耐えられないよね」

しかしピーターは小説の主人公よりもずっと順調に映画産業に入っていった。ハリウッドでの最初の9年間は、実際に
映画にはならなかったけど脚本を売って金を稼ぎ出した。「脚本を売るのは簡単だけど映画化されるのは難しいよ」ピ
ーターはそう言う。そして小説の主人公とこの時代のピーターにはある決定的な類似性がある。「自殺は実際にあっ
たんだ。でも小説にする時に事実とはだいぶん違うようにした。だって僕の身に起こった事は誰にも信じてもらえない
ような出来事だったから」

「ロサンジェルスで働いていた時、近所の道を歩いてたらビルの屋上に女性がいるのが見えた。まわりには自分ひと
りしかいなかった。だからビルの警備員に上に上がって彼女にやめさせるように頼んだ。それから彼女と少しだけ話
をして、お茶でもどうかって聞いてみたけど、断って車でどこかに行ってしまった。車のナンバープレートを控えていた
から、警察に行って、このナンバープレートの車に乗った女性が自殺しようとしてるから彼女の家族か知り合いに連
絡を取ってほしいって言ったら、それは彼女の市民権に抵触する違法行為だからできないって言われた。それから2
日後、同じ道を歩いてたら、同じビルの屋上に彼女が立っていた。今度もまわりには自分しかいなかった。彼女は僕
と目があった瞬間、飛び降りた。あまりにも奇妙な出来事だった。だからそのまま小説には書いてない」

ピーターはそんな奇妙な偶然をまだ忘れていない。「他にもめったにないような奇妙な体験をしたよ。そう、あの物体
を見たことがあるんだ」

小説『コメディ・ライター』の中で、ヘンリー・ホローヤンは子供の頃UFOを見たという設定になっている。これも自伝的
側面のようだ。「UFOを見た。このことは今までインタビューでも話したことはない。はじめに言っとくけど、空飛ぶ円盤
を見たってことは自分でも信じられないんだ。でも確かに見た。それはどうしても否定できない事実なんだ」

1975年のある夜更け、生まれ育ったロードアイランド州でピーターは友人と一緒に車を運転していた。その時、大き
な方形の平面をもった物体が車に近づいてきた。「真上にきたんだ。300メートルくらいあったんじゃないかな。巨大で
底にはたくさんの光が光ってて、僕らの車の上を通り過ぎて、ハイウェイに着陸しようとしてた。次の日、車で学校に
行く途中、ラジオの放送で"UFOを見た人がいたら今から言う番号に電話して下さい"ってアナウンスが流れたから、
電話して"昨夜見たけど、あれは一体何?"って聞いてみたんだ。そしたら"ただの世論調査で統計をとってるだけだ
"って言われた。友人達にこのことを話したら、そいつらが誰なのかを調べた方がいいって言われて、1週間後もう一
度電話してみたけどもうその番号は不通になってた。それから何年もの間、あれはたぶん国家機密の兵器だと考え
てた。25年前のことだけど、僕が見たその日の出来事は未だに公的な記録として残っていない。だから僕としてはあ
れはUFOだったと思うことにしている」

このUFOとの遭遇はピーターのそれからの生き方にも影響を及ぼすようになった。「僕らはまだ有史以前の段階にい
る。まだまだ発見されていないことがたくさんあるんだよ」仕事に対しても偏見のないオープンな心で取り組むように
なった。「運命なんて信じない。でも自分が何をしたいのかわからない状態もそれほど悪くないと思う」

現在のピーターは望むものはすべて手にしている。結婚して一人の子供がいて、二人目ももうすぐ生まれる。また弟
のボビーと一緒にずっと荒唐無稽なコメディ映画を何本も作ってきた。最新作でジム・キャリー主演の『ふたりの男と
ひとりの女』は今年公開予定だ。脚本家になる希望を何度も打ち砕かれる小説の主人公ヘンリー・ホローヤンと違っ
て、ピーターは絶対にやり遂げるという不屈の意志で大きな成功を収めてきた。にもかかわらず当時どうしても納得
がいかないことがあったことを今でもしつこく憶えている。「1990年に弟のボビーと僕は『となりのサインフェルド』の脚
本スタッフになろうとやっきになってた。でも雇ってもらえなかった。本当にくやしかったよ。やれば絶対にいい仕事を
したはずなのに。でも神様に感謝してる。もし雇われてたら今頃何やってたと思う?毎週放送されるTVドラマのため
に毎日ギャグを考えなきゃならなかたったんだから。今の僕は1年のうち2ヶ月しか脚本を書いてない。それも自分で
監督するという仕事があってのことだ。どう考えても、こっちの方が僕には向いてるからね」




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