今年に入って、CDを残らずリッピングしました。
PCトランスポートでは、Windowsとの格闘をまだ続けています。
納得できるレベルではありませんが、少なくとも背筋の伸びた音で鳴るようになっています。
そこで、いろいろなアルバムを聴いてみたくなったのですね。
CDの劣化については、もちろん知っていました。
CDが寿命を迎えるまでに、音楽データをハードディスクにバックアップしなければと考えていました。
でも、全てのCDをリッピングするのは大仕事だし、何となく他人事と感じていたこともあって、先送りしてきたのですね。
ところが、着手すると決めたら欲が出て、できる限り正確に読み出したくて、データ補間なしのビットパーフェクトモードでリッピングすることにしました。
使ったのは、PureRead 4+が付属するPioneerのディスクドライブと、AccurateRipが利用できるdBpowerampのCD Ripperです。
結論から言うと、約1%のCDに読めないトラックがみつかりました。
ずっと放置してきた罰としては、重いような軽いような微妙な発生率でしたが、納得できなくもない数値ではありました。
Mobil Fidelityはアルミより光学的に優れるとされる金メッキ盤で、オリジナルマスターテープからマスタリングしたプレミアム性を象徴する仕様なのですが、その中の2枚が読み出し不能になっていました。それぞれ製造から32年目と35年目でしたが、運が悪かったと諦めました。
しかし、製造から16年しか経っていないメジャーレーベルの国内盤は、メーカーの品質管理に問題があったとしか思えず、がっかリでした。
CDの反射層の状態が悪いと、読み取り精度を維持するためにディスクドライブは回転速度を落とします。
1枚当たりのリッピング時間は、当然延びます。
例外はありますが、古いCDほど処理時間が長い傾向が顕著だったので、私がぐずぐずしている間も、経年劣化は着々と進行していたわけです。
私が選択したビットパーフェクトモードは、エラーがなくなるまで対象トラックの読み取りを繰り返すので、更に多くの時間を消費します。
傷み方がひどいと永遠に終わらないので、dBpowerampでは上限回数が設定できるようになっています。
その上限までリトライしても駄目だったCDが、1%少々あったわけです。
発生分布には生産国やレーベルとの相関がなく、つまりランダムなので、偶発的な事故みたいなものです。
CDというメディアの寿命はつかみ所がなく、不運は突然訪れるのですね。
リッピングできなかったトラックは、同世代のデジタルマスターで製造された中古盤を調達して補填を試みています。
しかし、劣化の原因は樹脂やメッキといった素材の他に、スタンパーの製造工程が絡んでいる場合もあるようです。
同じCDを3回取り寄せたのに、ほぼ同じ場所で同じ症状が起きる国内盤が1枚あったのです。
海外盤があればそちらを手配していたところですが、残念ながら国内編集盤で、再発売されてもいないので、仕方なく救済は諦めました。
考えてみれば老老介護みたいなもので、弱ったもの同士で助け合うのだから、限界があるのは道理でしょう。
3箇月を費やしたリッピング作業が終わると、肩の荷が降りてほっとしました。
情けない話ですが、経年劣化を心配しなくてよくなった安心感より、リッピングから逃げるたびに滲み出てきたやましさを、二度と味わわなくてよくなった解放感の方が大きい、そんな安堵でした。
しばらくして後ろめたさが和らぐと、現金なもので、音楽鑑賞の中心にあって不動の存在だったCDの有難味が薄れてきました。
CDプレーヤーで聴く音楽は、表情から倫理観まで整っていて心が安らぎます。
PCトランスポートは、音の即物的な現れ方が良し悪しですが、分析的な分、演奏と録音のテクニカルな側面が楽しめます。
それは変わらないのですが、棚に並んだCDケースを眺めると湧いてくる筈の、所有している充足感が希薄になってきたのですね。
かと言って、音楽ファイルをバックアップしているハードディスクに、それに代わる重みを感じるわけでもありません。
音楽ファイルに存在感が宿るのは、音楽管理ソフトのTuneBrowserを操作して、ジャケットアートをスクロールしながら、目的のアルバムを探し出すまでの一連の過程においてです。
ディスプレイに表示されるジャケットアートは、CDのブックレットより見やすく、自分で修正したメタデータは、アルバムの出自を思いださせてくれます。
形ある製品という点において、CDはレコードの延長線上にあります。
物理的に場所をとるがゆえに、棚では単純な分類整理しかできず、収めた位置の記憶が怪しくなる限界が、音楽を聴く楽しみを足切りしていたかもしれません。
幸いなことに、CDはデジタルデータを抽出できます。
リッピングした音楽ファイルが少なからずあるなら、音楽管理ソフトを使うことで、ライブラリがデータベースになります。
個々のアルバムからは伝わってこない演奏の系譜や変遷に気付けば、その分音楽との付き合いが豊かになるでしょう。
きっと、音楽が実体のないデジタルデータになることで獲得した、使い方の自由度が魅力的に感じられて、CDが放つ存在感がしぼんだのです。
|