闇翼の黒き狼 第七節「真実」
アスガート国の総攻撃まで、あと1日。
ヨツンヘム国の研究所から一匹の白い鳥が飛び立った。
その事に気づくものはいなかった。
それはある一点を目指して真っ直ぐ飛んでいった。
レジスタンスの街、
ディウォルフ達は地下会議室にてこれからおこる戦いについて話していた。
「できれば、この争いも止めたかったのだが。我らが手を出せばさらに被害が大きくなる。」
「悔しいが、この戦いはもう止めようがないか。」
彼らが話していると、一人の男が息を切らして駆け込んできた。
「たっ、たいへんです!人工魔獣が、人工魔獣が街を襲っています!」
知らせを聞いたディウォルフは部屋より出ると、地上に向かった。
地上に出ると、騒ぎがおこっている方に駆け出した。
そこには傷つき倒れた人や魔獣がいた。もちろん彼らはレジスタンスの一員である。
そして、空に一匹の純白の鳥が浮かんでいた。
「DW21……お前を殺す。」
純白の鳥が呟くとディウォルフに向かって数発の光の矢を放ってきた。
ディウォルフはそれをかわすと、白い鳥を睨む。
「あなたは、何者です?」
「私は、お前を倒すためだけに造られた者、VS0X。ヴァイスアロー。」
ディウォルフの問いに白い鳥は答えた。
「私を、殺すためだけ?」
「消えよ!」
ディウォルフに向かってヴァイスアローは羽ばたくと光の矢を放った。
それはディウォルフだけでなく周囲に倒れている人や魔獣にも振りかかる。
「いけない、闇よ舞え。」
ディウォルフによって生みだされた闇の壁が光の矢を防ぐ。
(ここで戦えば、街への被害が大きい。こいつが狙っているのは私だけなら……やる事は一つ。)
ディウォルフはヴァイスアローに闇の矢を放つと走り出した。
「逃がさぬよ。」
ヴァイスアローはディウォルフの走り去った方向に先回りした。
「見つけた……。」
宙よりディウォルフの姿を確認したヴァイスアローは光の矢を雨のように降り注がせた。
「くっ、もう追いつきましたか。」
空より降り注ぐ光の矢をかわしつつ、ディウォルフは街の外に向かって走っていった。
「そらそらそらそら!」
ヴァイスアローの攻撃は途切れることなくディウォルフを襲う、だが彼はその全てをかわし続けていた。
ディウォルフは街の外に出たところでヴァイスアローに顔を向けた。
「できれば戦いたくはありませんが、私はまだ死ぬわけにはいかないのです。」
ヴァイスアローはディウォルフが戦う気になったのを見て取ると、嬉しそうに宙にいくつもの光球を浮かべた。
「ふふふ、さあ行くよ!」
ヴァイスアローの声が響くと、光球から光線が四方八方に放たれた。
だが、それらも全て目標を捕らえる事はなかった。
「闇よ撃ちぬけ!」
ディウォルフは眼前に集束した闇を放った。
「我守れ、光よ!」
ヴァイスアローの声に応じて光球が集まり闇を防ぐ。
そのまま集まった光球がディウォルフに放たれる。
ディウォルフはその攻撃をかわす。彼がいた場所の地面は大きくえぐられていた。
「そおらそらそらそら!」
ヴァイスアローはディウォルフが届かない空中から光の矢を放っていた。
ディウォルフの放つ闇の攻撃は全て光の盾に防がれていた。
「くっ。」
荒れ狂う光をかわしきれなくなったディウォルフは思いっきり地面を蹴ると大きくかわした。
だが、そこにも光の矢が降り注いだ。
「うわぁぁぁぁ!」
ディウォルフの叫びが響き渡った。
その声は街のなかにも聞こえていた。
「ほっとけないぜ!ディウォルフさんだけに戦わせるなんてできねえ!」
一人の男が街の外に向かう。
それを追うように他の男や魔獣、女子供までもが街の外に、ディウォルフの元に走った。
「ふふふ、終わりだ。」
ヴァイスアローは地面に倒れ付すディウォルフを見下ろし、狙いをつけると光の矢を放とうとした。
空を引き裂く音が辺りに響いた。
「うわっ!」
横手から飛んできた矢をかわそうとして宙で姿勢を崩したヴァイスアローは、矢の飛んで来た方向を見た。
そこには、レジスタンスの街にいる人々がいた。
「ディウォルフを助けるんだ!」
男の声と共に彼らはヴァイスアローに向けて矢を放つ。
「ディウォルフさん!」
ヴァイスアローが矢を放つ男達に気を取られているうちに若い男と女性がディウォルフのもとに駆け寄る。
「みんな…どうして……。」
「あなたを助けるのに、理由が必要ですか?」
女性の言葉にディウォルフは何も言えなかった。
「ええい!うっとおしいわ!」
ヴァイスアローの叫びと共に放たれた光の矢は弓を構えている男達に襲いかかった。
「ふん!」
巨人が腕を振るい光の矢を防ぐ。が、防ぎきれず倒れた。
「ジャマだ、消え去れ!」
ヴァイスアローは自分に光を集約させていく。その姿が巨大な光の球体に変わった。
「待て!お前の相手は私だ!!」
「そうだったな…。」
ディウォルフの叫びにヴァイスアローは方向を変えると彼に向かって蓄えた光を一気に解き放った。
周囲がすべて白く変わった。
「終わったな。」
ヴァイスアローが土煙を見ている。
あれだけの攻撃をぶつけたのだ。生きているわけがない。
「ついでだ、邪魔をしてくれた奴らにも…。なにぃ!」
土煙がはれると、そこに漆黒の球体があった。
「ディウォルフさん!」
誰かが喜びの声を上げる。
「ならば壊れるまで攻撃してやる!光よ!!」
再び光を集め始めるヴァイスアローにむかってディウォルフが跳躍した。
「とどくものか!壊れろォォォ!!」
集束した光を再び放つがそれも闇の障壁に防がれる。
「闇よ晶と化せ。」
ディウォルフは闇を結晶化し、それを足場にしてさらにヴァイスアローに迫る。
「なぜだ、なぜだ、なぜだ!私は、わたしは、ディウォルフを倒すために造られたのになぜ勝てないんだ!」
ヴァイスアローは自分に向かってくる闇の球体を見て叫んでいた。
「渦巻け!闇達よ!!」
ディウォルフの叫びに応じるかの如く、彼を包む闇が漆黒のリボンとなりてヴァイスアローの周囲に渦巻く。
「ワタシハ…私はなぜ戦う……。」
「すまない……闇よ全てを食らいつくせ。」
全方向からのうまれた幾つもの闇の刃で斬り裂き、貫かれたヴァイスアローは欠片も残さず消滅した。
歓声があがる中、ディウォルフはヴァイスアローに心の中で謝っていた。
(……ですが、私はまだ死ぬわけにはいかないのです。)
ディウォルフ達がヴァイスアローの攻撃を受けているころ
ヴィグリードでは着々と総攻撃の準備が進んでいた。
ガグンラードは一人部屋で本を読んでいた。
「ふむ、そろそろですね。」
ガグンラードはそう言うと部屋から出ていった。
橙破と兵士はクィーンに乗ってヴィグリードへ急いでいた。
その間ホーリーバトラスにも人工魔獣にも遭遇しなかった。
すでに日は地平線にあった。
「もうすぐやな。で、どないするんや。」
「ガグンラードを討つ。あいつさえ倒せばアスガートの軍は総崩れとなる。」
兵士の言葉に橙破ははっきりと答えた。
「けど、そうしたらヨツンヘムの奴らにやられますよ。」
「どちらが勝つかなんて問題ではない。わしはアスガード軍を潰す。
それがわしにできる罪滅ぼしじゃからな。」
「罪滅ぼしでっか?」
「ああ……この戦争でわしは多くの命を奪ってきた。それだけではない、
止めなければならぬ国の暴走を止められながったんじゃよ。」
橙破は思い出していた。十数年に渡る戦いと、それによって死んでいった人々のことを。
「橙破さん、戦争だからしょうがない。とは言えませんがね。なにもかも背負わない方がいいっすよ。」
「なにもかも背負い込むな…か。わしがあいつに言った言葉じゃな。」
橙破は漆黒の狼の姿を思い浮かべた。
(お前は、これから必要な存在。生き残った者らをまとめれる存在なんだ。だから死ぬなよ。ディウォルフよ。)
急にレーダーに光点が一つ現れた。その光点はホーリーバトラスを表していた。
「なんや、このスピードは!」
兵士が叫ぶ、たしかにこんなスピードで移動できる機体は存在しない。
「来る!」
橙破は眼前に現れた機影を捕らえた。
それは真紅の騎士であった。
「予言どおり来たな、橙破。」
「その声、ガグンラードか!」
「そうだ、私がガグンラード。」
橙破はクィーンのコマンドシステムをオンにする。
「私を倒すか……面白い。見せてもらうぞ、お前ら人間のあがきをな!」
「ふざけるな、お主のしていることは許すわけにはいかん。」
クィーンのブースターが唸りをあげ戦斧を振り上げる。
戦斧と槍がぶつかる音がした。
「多くの人の命を奪って得られる勝利など、平和など意味が無いんじゃ!」
「ふっ、命を奪ってきた者の言う言葉ではないですね。」
「たしかにそうじゃ、わしは多くの命を奪ってきた。
だからこそ、これ以上黙って命が奪われるのを見ているわけにはいかない。」
2体の機影が離れる。
「それにお前のしようとしていることは戦う意思のない命をも利用しようとしている。」
「ヴァルハラの戦士になれぬ者であっても、我が力になれるのだ。これ以上の幸福があるか。」
「なにを……まさかお前は!」
橙破の頭に伝説の一節が蘇った。
神の王のもとに死んだ勇敢な戦士は集められ、偉大なる王の加護を受けし不死の戦士となる。
彼らは黄金の家に住み戦い続ける。彼らはヴァルハラの戦士またはエインヘルヤルと呼ばれる。
「そんな、あほな……なんで、なんで…。」
兵士も気がついたようだ。自分達の目の前にいる存在の正体に。
「そう、我が真の名はオーディン。神々の父、神々の王である!」
ガグンラードのはっきりした声に橙破はなんとかその場に踏みとどまり問うた。
「なぜ、戦いを続けようとするのだ!神の王よ!!人々の苦しむ声が聞こえないのか!!」
橙破の声にオーディンは冷たく答えた。
「私が、蘇るため。そして再び全ての世界を我が物とするため。そのためには人間どもの争いが必要なのだ。」
「なっ、なんやと!」
さっきまでオーディンの声にうたれ動けなかった兵士が叫ぶ。
「そうやったらこの戦争は!」
「勘違いしては困る。この二つの国はいつ戦争がおこってもおかしくなかった。
わしは双方に少しずつ力を与えただけだ。予想以上にヨツンヘムが力をつけたのは誤算だったが。
まだ修正可能なことだ。」
「俺らは、お前の道具やない!」
兵士の声に橙破は黙って頷いた。
「ああ、人間は道具ではない。我が予言を完成させるための文字だ。」
オーディンがそう言った瞬間、クィーンの左拳が真紅の機体の腹部に叩きこまれた。
「神であろうと、わしはお前を倒す!」
「ふふ、お前なら最強のエインヘルヤルになれると思ってたのに、残念だよ。」
「神の操り人形になるものか!」
橙破の叫びと共に振り下ろされた戦斧が真紅の騎士を両断した。
「やったのか…。」
「レーダーに機影。しもた!いつのまにか囲まれとる。」
「そういうことか…やられたな。」
橙破は自分が罠にはめられたことに気がついた。
「さあ、見せてやろう。これが新たなエインヘルヤルだ!」
数十機のホーリーバトラスが一斉にクィーンに襲いかかった。
「よすんや。あいつの言ってたこと聞いとったんやろ!」
兵士が全周波数で呼びかけるが反応はない。
「やるしかないな。」
橙破はそう言うと戦斧を構えた。
「さて、はじめるか。偉大なる我が復活の儀式をな。」
巨大なホーリーバトラスの前にオーディンは立っていた。
周囲には人々が倒れている。兵士だけではない、女子供関係なくおびただしい数の人々がそこにあった。
それらから体温は失われていた。
「人の魂を神の力に変換し、そして我は本来の姿に戻る……いいや、本来以上の力を持って生まれ変わる。」
様々な色の光が機械仕掛けの神に吸い込まれていく。
全ての光が吸い込まれた後、オーディンは倒れる。
そして機械仕掛けの神、ラストフェンサーが起動した。
「感じるぞ、戦いの息吹を。」
オーディンは戦いの際に起こる感情を吸収していた。
「やはりお前を選んで正解だったよ橙破。これだけ激しい戦いを繰り広げてくれるのだからね。」
だが、しばらくするとその反応は消えてなくなった。
「もう終わりか、まあいい。明日の決戦で我が力は満ちるだろう、そうなればもうこんな国は必要ない。
また以前のように全ての世界で自由に戦乱を起こせるのだからな。」
オーディンは一人笑っていた。
「そううまくいかないよ。ふふふ。」
一人虚空で全てを見ていた若者が微笑む。
「全ては明日終わるんだ。お前の予言ははずれるのさ、オーディン。」
ヨツンヘルでは多種多様な最終決戦用人工魔獣が次々と覚醒させられていった。
獣や鳥、魔族や人間をも一つにした異形の存在たち。
自我を持たぬ戦闘兵器達はただ明日の決戦を待っていた。
「人形ね、まるで。」
白い鳥がその様子を見ていた。
彼女の名はヴァイスォード、ヴァイスアローと同じくDW21を消すために造られた人工神獣。
だが、彼女はDW21を消しにいこうとしなかった。
それよりこの戦いの行く末を見てみたいと思っていた。
「行きよったか、橙破さん。」
ヴィグリードから少し離れたところ、残骸のそばに橙破と一緒にいた兵士が立っていた。
だが、橙破の姿は無い。
「あまり無茶せんといてや。罪滅ぼしで死ぬなんてアホなことするなよ。」
はるか彼方に見える銀色の機体を見て彼はぼやいた。
様々な思いを呑みこんで夜はふけ、そして決戦の日がきた。
「とうとう決戦の日ですか。」
ディウォルフは呟くと一人街を後にした。決戦の結末を知るために。