闇翼の黒き狼 第六節「狂心」


半日が経ち、フィアラルはようやく気がついた。

もちろん、治療されベッドに寝かされている。

「なにがあったのです?」

心配そうにディウォルフはフィアラルを覗きこむ。

「スコール、お前さんがフェンリル様を倒した後、俺らは散り散りになったんだ。」

フィアラルはディウォルフの方を見た、その目には涙があふれていた。

「だけどな、俺らは人間への恨みを捨てきれなかった。のうのうと生きている人間を許せなかった!

 だから、俺らはヨツンヘムへ進攻したんだ……だけど…。」

 

フィアラル達は、ヨツンヘムにある街を襲っていた。

人工魔獣も防衛兵も現れず、逃げ惑う人々を殺していた。

「つまらんなあ。」

巨人族の一人が笑っている。

そんな中フィアラルは家に入りこみきれいな宝石などを捜していた。

彼は金になるからとかで宝石を捜しているのではない。

小人族にとって宝石はきらきら光る大切な宝物であった。

「ないなあ、というかまったくなにもないな。」

フィアラルは周囲を見まわしたが宝石どころかなにもない。

「俺らのいた場所の方がきれいだったぞ。こんなところで人間は住んでいるのか?」

彼の疑問に答えるものはなかった。

一通り破壊が終ったので彼らはその街から撤収しようとした。

そこに人工魔獣の軍勢が現れるとフィアラルらを襲い出した。

魔族と人工魔獣は激しく戦ったが魔族側が敗れ去った。

だが、不思議な事に人工魔獣はフィアラルらにトドメはささず、

そのまま魔族の面々は見たこともない施設に連れて行かれた。

そこで、彼らは信じられないものを見た。

「あれは!人間……じゃない!?」

フィアラルの叫び声がそれを如実に現していた。

ポットの中に異形の姿に改造された人間の姿があった。

その後、フィアラルの目の前で彼の仲間が次々と切り刻まれ、薬を打たれ、改造されていった。

それは、魔族にとっても悪夢としか言いようのない光景であった。

フィアラルの番になり、彼の拘束が解かれた。

その時を逃さず、彼は自分の持っているとっておきの「失われた道具」を使い、脱出した。

「失われた道具」それは魔法と呼ばれし力を宿した道具の総称である。

彼の持っていたのは一回限りの瞬間移動効果を持つ腕輪だった。

フィアラルは以前DW21を見つけた功績から、フェンリルからそれを譲りうけていた。

そして、瞬間移動した先がディウォルフ達のもとだったのである。

 

フィアラルの話を聞き、退室したディウォルフは偵察員にヨツンヘムの秘密工場の偵察を頼んだ後、

自分の部屋に戻った。

怒りとも悲しみともとれる感情を秘めて。

「戦争を終らせるには、互いが互いの事を理解し、共に暮らせれる場を作らないといけない。

 人だけでなく、様々な種族が協調できる場を……。」

ディウォルフは考えていた。

たしかに、このレジスタンスの街はそこに住む人や種族が協調しているので争いが起きない。

誰もが心の底から争いを願っているわけではないはず。

「なぜ、ここまで戦争が長引いたのだでしょう。そして、この戦争の原因は……。」

ディウォルフ達は戦争の原因についても調べていた。

原因がわかれば戦争を集結させるきっかけが掴めるかもしれないからだ。

だが、記録には戦争の始まりについては記されておらず、戦争がなぜ始まったのか知る者もいなかった。

そういった意味ではかなり不可解なのだが。

「それにしても、ここ数日は戦闘がおきていませんね……。」

ここ数日の内になにかが起こる。そんな予感がしていた。

それが良いものなのか、悪いものなのかまではわからなかったが。

 

2日が経った。

その間も、ディウォルフ達は寝る間も惜しんで情報収集や避難民の保護などをおこなっていた。

アスガート国やヨツンヘム国の情勢、開発されたホーリーバトラスや人工魔獣のデータ。

それらのデータから、ディウォルフ達はフィアラルの言っていた事が事実であると確認した。

「この場に生きるものさえも兵器にして、なぜ争おうとするんだ!」

男が行き場のない怒りを壁にぶつけている。

「人や魔族を改造して兵器に変えることと、強制的に兵器を作らせること。どちらの罪が重いのでしょうか。」

「どちらにしろ、多くの命が失われている事に代わりはない!」

救出された巨人の呟きに剣士風の男が叫ぶ。

「ここで議論しててもしょうがないぜ!その工場や研究所を潰さないと。」

彼らの話し合いの結果、ヨツンヘムの研究所から人々を救出する事になった。

すぐさま、彼らはヨツンヘムの研究所に向けて出発した。

だが、ディウォルフは同行できなかった。

ここ数日の過労で倒れていたからである。

「ここ数日、寝る間も無かったですからね。」

「すいません。」

布団をかけられ、休んでいるディウォルフに女性がやさしく話しかける。

「なんでも、全て背負おうなんて、誰にもできませんよ。もう少し私達も信頼してくれませんか?」

「信頼はしていますよ。ただ、じっとしていられないだけです。」

少しだけ楽になったディウォルフは立ちあがろうとした。

だが、女性に止められる。

「私達を信頼してくださっているなら。今はゆっくり休んでください。

 それに、あなたはもう少し自分を大事にしてください。あなたがいなくなれば悲しむ人がいますから。」

そう言うと、女性は部屋から出ていった。

(悲しむ人ですか、本当にいるのでしょうかね。)

ディウォルフはふとそんな事を考えた。

 

ヨツンヘムまで後1日の場所にある森。

レジスタンスの救出隊メンバーはキャンプを張っていた。

「なるべく、はやくヨツンヘムに潜入したいが。」

レジスタンスがいくら人数がいるとはいえ、その大多数が戦闘経験の無い人である

そのため、いまだに多数の人工魔獣を有するヨツンヘムに表から侵入するのは難しい。

それだけでなく、はでに騒ぎをおこしてレジスタンスの街まで追跡されると、街にいる人々に危害がかかる。

それらのことから、ヨツンヘムに気づかれる事なく侵入し、中にいる人々を救出する必要がある。

「地下水路か、確実にマークされているだろうしな。」

彼らがそんな事を話している時、それは現れた。

まがまがしく、ねじれた人型のそれが。

それらはレジスタンスに襲いかかった。

彼らは必死になって抵抗したが、人型のそれは無数に現れ彼らを襲っていった。

「こいつらは………退却しろ!命がけで逃げるんだ!!」

レジスタンスの一人の叫び声も、押寄せる異形の者達の唸り声にかき消された。

 

ディウォルフのもとに救出隊が全滅したという知らせが届いたのはそれから2日が経ってからだった。

唯一生き残っていた男も重傷で、彼らに報告をしたあと力尽きた。

「そんな…私が一緒に行っておけば……。」

報告を聞いたディウォルフの第一声がそれであった。

「貴方の責任ではないですわ。あまり気にせずに・…。」

「気にせずにいられるものか!」

慰めようとした女性の言葉は、逆にディウォルフを傷つけた。

「私が、私が彼らを殺したようなものだ・…私が……。」

「そうやって、全てを背負うつもりか。この若僧が!」

部屋に響いた男の声。その主は戸口に立っていた。

「あなたは、橙破さん!?」

女性の声に彼は頷くとディウォルフに歩み寄った。

「よいか、若僧!お前がいたから彼らが助かったとは限らん、今は死んだ者よりも今を生きる者の事を考えよ。

 後悔している間に、さらなる命が失われていく。今はそんな時代だ……。」

「橙破…さん……。」

ディウォルフの声はかすれていた。泣いているかの様に…。

「三日後、アスガート国はヨツンヘムに総攻撃をかける。」

橙破の言葉に場の空気が変わった。

「わしはガグンラードを討つ、お前達は非戦闘員を保護しといてくれ。」

「待ってください、なぜあなたが。」

部屋を出ていこうとした彼をディオムが制止する。

「以前も言ったはずだ。手を血で染めるの者は少ない方が良いじゃろう……。

 それに、この戦争の原因はわしにもあるのじゃからな」

「それはどういう……。」

ディウォルフの問いを聞く間もなく彼は部屋から出ていった。

ディウォルフはしばらく考え込んでいたが部屋から出ていった。これからの方針を話し合うために。

 

アスガート国の総攻撃まであと3日。

ヨツンヘムもすでにその情報を得ていた。

この闘いの勝者がこの戦争を制する事は明らかであった。

そのため、研究所では兵力の作成が急がれていた。

人や魔物を元にした『それ』は思考能力も持たない、あるのは破壊本能のみ。

そして、これらを作っている人間はすでに狂っていた。

この国で正気を保っているのは上層部と一部の研究者、そして隠れ住む人々のみである。

いや、人工魔獣を作り出した時点で、戦争が長引いた時点で彼らは狂っていたのかもしれない。

 

研究所の一室、巨大なプールの前に絶世の美少年とも見える若者が立っている。

彼は無邪気な笑顔を見せると歌うように言った。

「栄えし者は必ず衰え、生きるものは必ず死ぬ。ならば生きている間は面白おかしく生きればいい。

 さあ、僕のおもちゃ『ニーズヘグ』本当の黄昏は二日後だ。その時は思いっきり遊ぼうね。」

その時、その部屋に別の男が入って来た。

「誰だ!ここは関係者以外立ち入り禁止だ!これを見られたとなれば、改造してやる!!」

「うるさいなあ。人間ごときが!」

若者が手のひらをその男に向けると男は内側から破裂した。

「つまんないなあ、僕のゲームはそろそろ終わりかな。あいつの本当の予言書もそろそろ最終ページだしね。

 じゃあ行くね『ニーズヘグ』二日後は思いっきり遊ぼうね……。きゃははは。」

すでに誰もいないその部屋に若者の笑い声だけが響き渡っていた。

 

アスガート国の総攻撃まであと2日。

アスガート国は不気味な沈黙に包まれていた。

「まるで死の街だな。2日前はまだ人もいたはずだが。」

建物の影に隠れた橙破が呟く。

「その上、兵士の姿もないとは……もうすでに奴らはこの街にはいないという事か。」

彼は、街を走り抜ける。目指すは街の中央、そこはアスガート国の文字通りの中央。

だが、本来厳重に守られていなければいけないその場所も誰もいない。

「まあいい、資料かなにかがあれば。」

その時、橙破は自分の背後の気配を感じ、振り向いた。

そこにいたのは鎧をまとった兵士だった。

反射的に橙破は戦斧を振るう。

「ちょっ、ちょいまて!俺は戦う気はねえ。」

慌てて戦斧をかわした兵士は橙破に話しかけた。

「ほら、武器も持ってない。戦う理由もない。だから武器をおさめてくれや。」

兵士がたしかに武器を持っておらず、戦う意思もない事を確認した橙破は戦斧をおろすと兵士に問いかけた。

「一体、アスガートはどうなっているんだ?街にいる人々は。」

その問いに兵士は悩んだように答えた。

「それが……昨日急に街の人々が全員歩き出して。街から出ていったんだ。まるで操られているようやった。

 制止しようとしたが……止められなかったんや。」

「それで、どこに行ったんだ?」

「おそらく……あの方角にある場所はヴィグリードや。」

「ヴィグリードか……伝説で神と間の戦争がおこったとされる平原。だがなぜあそこに……。」

橙破は考えていたが中央に向かって歩き出した。

「どうしたんや?」

「中央の建物になにかが残っているかもしれない。」

兵士の問いに橙破は振りかえらずに答えた。

「あっ、俺も行くわ。」

 

中央の建物。その一室に橙破と兵士はいた。

その部屋は沢山の書類が散らばっていた。

「しっかし、これだけ重要な書類をおいて行くなんて…。」

兵士のぼやき、それもそのはず彼が見ている書類は極秘になっているはずの国の予算表であった。

それ以外にも各種行政書類やホーリーバトラスの設計図まである。

そのような書類の中から橙破は見た事のない図面を見つけていた。

「外道が!」

橙破の叫び声に兵士は飛びあがった。

「どっ、どうしたんや?」

「これを見てみろ!」

橙破は持っていた設計図を兵士にわたした。

「これは……巨大なホーリーバトラスの設計図?」

「その胴体部を見てみろ。」

「ええと……えっ!?これは……。」

橙破は壁を殴った。

「そうだ、こいつの動力源は人間の精神エネルギーだ。そして、いなくなった人々………つまり…。」

「いなくなった人々は、この機体の動力源に…。」

兵士の声が震えている。

「なんとしても止めぬと!」

橙破は部屋から飛び出そうとした。

「待ちな。今から行っても間にあわへんで。」

「だが、このままほっておけん!」

兵士の制止の声に振りかえり橙破は答えた。

「この事を知っていて、止めれる可能性をもっておるのはわしとお主のみじゃ!」

「そう…やな。わかった、俺もお供しますわ。こっちへ。」

兵士は街のはずれにある倉庫に橙破をつれてきた。

その倉庫の中には銀色の女性型ホーリーバトラスがあった。それは今まで見たどの機体とも違っていた。

「これは…。」

「たった一機のみ開発されたホーリーバトラス『クィーン』や。

 まあ、動力源はバトラス以前の機体のものに交換していますけどな。」

兵士が橙破に答える。

「これを使えば、1日もあればヴィグリードにつくやろ。」

「すまない。」

そして橙破と兵士はクィーンに乗ってヴィグリードに向かった。

 

その間、ディウォルフ達がなにもしていなかったわけではない。

レジスタンスメンバーはアスガート、ヨツンヘム両国の軍勢の動きを見て

その進路上にある街や村に住む人々を避難させていた。

今回の戦闘はもはや止める事はできない。ならば少しでも無関係な人々を救出する。それが会議の結果だった。

実際、大幅な戦闘を止めるだけの力が彼らにはなかった。

ディウォルフは避難している人々より離れたところに立っていた。

ふと見ると、どこかで見た子供がこちらを見ている。

「やっぱり、あの時の狼のおじちゃんだ。」

その子供は以前ディウォルフがスコールと名乗っていた時、魔族と決別するきっかけとなった少年だった。

その名は、青霧。

彼は、ディウォルフのもとに駆け寄った。

「おじちゃん、こんなところでなにしてんの?」

「いや、彼らが安全に避難できるか見てるんですよ。ところで、青霧?」

「なに?おじちゃん。」

青霧は屈託のない笑顔でディウォルフを見ている。

「私が怖くないのですか?」

「なんで?おじちゃんは僕や緑樹お姉ちゃんを助けてくれたもん。

 そりゃあ、最初はお姉ちゃんの命を奪った悪い奴かと思ったけど。

 そうだ、あの時石を投げつけたりしてごめんなさい。あれ?どうしたの。」

ディウォルフは照れくさそうにあさっての方向を向いて言った。

「いや…別にいいんです。石を投げられるような事をしましたから。」

彼らはしばらくその場にいた。

「そろそろ行った方いいですよ。」

青霧はディウォルフの言葉に頷くと、走っていった。

「あのような子供達のためにも………。本当の平和を見つけないと。」

ディウォルフは呟いた。


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