闇翼の黒き狼 第五節「対抗」
ディウォルフがフェンリルを倒してから数ヶ月が経っていた。
その間、彼は以前のようにホーリーバトラスや魔族を倒していた。
だが、彼は以前のように無差別に攻撃しているわけではなかった。
彼が戦っているのは街や村を襲う者達だけであった。
始めは彼の存在を警戒していた人間たちも次第に彼を慕う者も出てきた。
彼の存在は長きにわたる戦争によって虐げられてきた人々にとって救いとなった。
そして、彼ら戦争によって虐げられてきた人々は自らの意思で立ちあがった。
長きにわたる戦争を終了させたいという思いのもと、彼らは国を越えて協力するようになった。
彼らはこう呼ばれるようになった、「対抗する者達・レジスタンス」と。
ディウォルフや彼と同じく存在理由に悩んでいた『人工魔獣』。
さらには争いを嫌っている『力失いし神族』や『巨人族』といった、多種多様な種族が集まった。
レジスタンスの力はアスガート、ヨツンヘム両国にとってほっておけない物になっていた。
国の中枢に近い者らさえ、戦争を続けるべきか考えるようになった。
だが、国の中枢の者らと、戦争によって利益を得ている者らは、いまだに戦争を続けようとしていた。
ヨツンヘム、中央の会議室。
「どう責任をとるつもりだ。」
円卓についている男達が一人の白衣の男に詰問している。
彼らが話しているのは自己判断力を持たせた人工魔獣がほとんどレジスタンス側についた事である。
「やはり、自己判断力など必要なかったのだ。ただの兵器であればよかったのだ!」
円卓に座る男の一人が叫ぶ。
「それより、新型の人工魔獣はどうなっている。」
眼鏡の男が白衣の男に尋ねる。
「ええ、安定期に入っております。あと2日もあれば。」
その答えにひげを生やした男が言う。
「1日で仕上げろ。それとニーズヘグは1週間でだ。」
「せめて、2週間。」
「口答えは許さぬ。」
円卓についた男達は、白衣の男に反論を許さなかった。
ようやく開放された白衣の男は自分の研究所に戻った。
「戻りました。じいさん。」
白衣の男は、ポット内の魔獣を眺める老人に話しかける。
老人は顔の半分以上に火傷の痕があり、ポットを眺める目は鋭い。
「若僧どもはなんと言っておった。」
憎々しげに老人は白衣の男に尋ねる。
白衣の男は、円卓の男達に言われた事を伝えた。
「ふん、自分達ではなにもできないくせに、都合の良いことを。」
はき捨てるように老人は言うと、視線をポットに戻した。
「VS0Xよ、我が芸術品よ。我が全てをこめた者よ。」
老人はポット内に眠る純白の鳥に語りかける。
「我が全てを奪った漆黒の狼DW21を、今ものうのうと生き続けているあの忌まわしき獣を殺しておくれ。」
この老人はDW21を生み出した研究所に勤めていた。
そしてあの事件の後も生き残ったが彼の地位はなくなってしまった。
その後、彼を慕う研究員に拾われて研究所の奥で密かに人工魔獣の研究を続けていた。
いや、彼は新たなコンセプトのもと、対人工魔獣用の人工神獣を作り出していた。
人工魔獣を作られるための費用などは全てこの人工神獣につぎ込まれていた。
その事は、この老人と彼を慕う白衣の男だけが知る事であった。
「そう、やっとここまで完成したんだ……。美しき我が芸術品。」
老人は自分の全てを、DW21をこえ、一体だけでDW21を倒す存在の創生に費やしていた。
アスガート国。
「作業効率は20%以下に低下しております。作業員の大半がレジスタンス側に寝返ったのが原因かと。」
ガクンラードは銃で報告をした男を撃ち殺すと、懐から本を取り出しそれを開いた。
「急がねばならぬな、予言の成就のためにも戦争が終ってはならんのだ。」
ここ最近アスガート国中枢の者の中にも戦争を続ける事に疑問を持つ者が現れ出していた。
その上、ホーリーバトラスの生産が止まれば戦う手段もなくなってしまう。
「まあいい、あれが完成すればこの国も用済みだ。」
そう言うと彼は笑った。
レジスタンスの集まっている街は平和そのものだった。
商店に人々が集まり活気ついている。
ディウォルフは子供達がはしゃぎ走っているのを優しげに見ていた。
「不思議なものですね、ほんの少し前までは忌み嫌われてきた私がこうして彼らと共にいるなんて。」
「ですが、戦争は終っていません。」
オレンジ色の髪をした青年が話しかけてきた。
「ですが、ここにいる人達は戦争を望んでいませんよ。」
「そうですね。」
ディウォルフの言葉に青年は微笑むと雑踏の中に消えていった。
街の地下にある、レジスタンスの隠れ家。
そこにディウォルフをはじめとするレジスタンスの主要メンバーが集まっていた。
「それは、本当ですか?」
ディウォルフの問いにアスガート国から逃れてきた人が頷く。
「間違いありません。アスガート国のほとんどの人物が戦争をやめたがっています。
ですが、一人の男とその直属の兵士達が強制的に人々を働かせ、巨大な何かを造らせているのです。」
「我々は、なんとか逃亡できたのですが…。他の人々は秘密工場に連行されて……。」
彼らの話しを静かに聞いていた一同であったが、アスガート国の戦争推進派の名を聞いた時、
その場にいた神族が急に立ちあがった。
「その名は本当ですか!?」
神族の一人がアスガート国から逃れてきた人に尋ねる。
「ええ、その人物の名はガグンラードですが。どうかしましたか?」
男の答えに、神族はざわめいた。
「ガグンラード………いやそんなはずは……。」
「どうしたのです?」
ディウォルフの問いに神族の一人が震えつつも答える。
「ガグンラード、まさか……そんな……あの方はあの時…。」
「それよりも!」
目つきの鋭い男が周囲の動揺を消し去るためにか、力強く言う。
「今は無理やり働かされている人々をどうにかするのかが先のはずだ!」
男に視線が集まる。
「たしかにそうですね。」
ディウォルフの言葉に場にいた者たちは頷いた。
だが神族の男は何かを考えている様であった。
その日の夜、ディウォルフはいつものように外を見ていた。
街明かりが広がっている。
「平和か……戦争が終ったら、私や人工魔獣はどうなるのでしょうか……。」
彼はしばらく考えていたが、迷いを降りきるように首を横にふった。
「今は、この戦争を終わらせる事を考えなければ。その後のことはその時になってから考えよう。」
次の日、レジスタンスの面々はアスガート国の秘密工場に向かって出発した。
目的はそこに捕われ強制的に働かされている人々の救出である。
彼らは、目的地まであと1日の場所まで来ていた。
「なるべく、人々を傷つけないようにしないといけませんよ。」
ディウォルフの声に全員が頷く。
これは、レジスタンスの基本方針であるが、毎回彼はその事を確認する。
いや、もしかしたら自分自身に言い聞かせているのかもしれない。
先行して偵察していた男が戻ってきた。
「急いでください!秘密工場から脱出した人々が追われています。」
その報告にディウォルフをはじめとする、機動性の高い一団が走り出した。
そして、彼らは逃げ惑う一団と、それを追う一団を見つけた。
「追っているのは、無人タイプのポーン部隊ですか。」
だが、ディウォルフ達が突撃しようとした時に追っている一団の一部が崩れた。
「なにが、おこったのだ。」
レジスタンスの一人が叫ぶ。
「落ちつけ、今のうちに皆を助けますよ!」
ディウォルフは言うが早いかポーン達に向かっていた。
ポーン達はあっけなく倒され、逃げ出していた人々もレジスタンスに保護された。
秘密工場から逃げ出した人々はほとんどがやせこげた女子供であった。
おそらく、まともに物を食べさせてもらってなかったのであろう。
「ひでえな…」
若いレジスタンスが彼らの姿を見て言う。
「しかし、よく脱出できたな。」
ある神族が言った。
たしかに、彼らのような弱りきったものが秘密工場から脱出できるのはおかしい。
保存食を与えられ喜ぶ子供達がディウォルフの方を指差す。
「えっ?」
ディウォルフの後に一人の男が立っていた。
ディウォルフはその顔に見覚えがあった。
それはかつてディウォルフが魔族と共に行動した時に、ある街をもう一人の男とともに守りきった男。
そして、緑の髪の少女と青霧という名の子供を託した白髪の老戦士、橙破であった。
「そうか、あなたが彼らを救出したのですね。」
ディウォルフの言葉に橙破は答えた。
「ワシは戦いは嫌いじゃが、それ以上に強き者が弱き者を力で押さえつけ、強制させる事が嫌いなんじゃよ。」
「そうでしたか。ありがとうございます。」
「いや、こちらの方が礼を言わなければならんな。助かったぞ。」
橙破は笑って見せた。
ディウォルフ達は互いの情報を交換した。
橙破はアスガート国から反逆者として追われていたが
町や村を渡り歩きそこを守ってきたらしい。
そして、アスガート国の大部隊が人々を連行して秘密工場に連れていった事を知った彼は
防衛線のわずかな隙を突いて彼らを救出したらしい。
橙破はレジスタンス達に語る、
「もう、あそこに残っているのは兵士と監視役だけだ。といってもほとんど人はいないが。」
どうやら、その秘密工場の防衛力はかなり低いようだ。
「まあ、秘密工場なんだからな。」
レジスタンスの一人がそう言う。
「それだけではないじゃろう。」
橙破は一同を眺めてから続けた。
「おそらく、アスガート国には防衛に裂くだけの戦力が残っていないのじゃろう。
現に、さっき追いかけてきたのも無人機のポーンじゃ、しかもかなりの旧型だった。」
橙破はあごに手をやるとさらに続けた。
「それとも、戦力を一ヶ所に集めておるのかもしれんな。」
「つまり、「決戦のために戦力を温存しているのではないか。」と言いたいのですか?」
ディウォルフの問いに橙破は頷く。
「もう一つ気になるのは、あの工場で造られていた物じゃ。ワシは見ておらんからわからんが…。」
橙破は、保存食を食べている子供達を見る。
「とにかく、彼らを安全な場所に連れていこう。」
橙破の提案にレジスタンス達は本拠地の街に戻ることにした。
「橙破さん、あなたも来ていただけませんか?」
ディウォルフの呼びかけに、橙破は首を横にふった。
「お前さんらがいれば、彼らは大丈夫じゃろう。わしは、アスガート国の首都に行く。」
「なぜです?」
ディウォルフの問いに、彼は背をむけつつ答えた。
「手を血で染めるの者は少ない方が良いじゃろう。」
そう言うと橙破はその場から立ち去ろうとしたが立ち止まるとディウォルフの方を向いた。
「言い忘れていたが、あの子供らは無事じゃぞ。」
そうとだけ言うと彼はその場から立ち去った。
(そうか、無事でしたか…。ありがとうございます。)
心の中で橙破に礼を言い。ディウォルフは撤収の命令を出した。
アスガート国、中枢部。
ガグンラードは報告に来た男を銃で撃ち殺した。
「まあいい、もう用済みです。だが、あれの情報が漏れたのは不愉快ですね。」
だが、急に笑いはじめた
「まあわかった所でどうしようもないでしょうがね。ふふふ…ふぁはははは!」
彼の笑い声が部屋に響き渡った。
レジスタンスの隠れ家、救出された人から話しを聞く事になった。
「じゃあ、なにかの部品を造らされていたってことか?」
「ええ、かなり巨大な部品をいくつもです。」
さらに、それらの部品のほとんどはアスガート国の中枢部に運搬されていたそうだ。
「おそらく、中枢部で最終的な組み立てをおこなっているのだろう。」
「ってことは、それだけ重要なものって事か?」
「そうだろうな。」
救出された人を退室させたあとも、話し合いは続いていた。
「橙破というあの男が言った事が本当なら、おそらくこの数日中に大規模な進攻があるのかもしれない。」
目つきの鋭い男が机を叩く。
「だが、逆にいえばその進攻が失敗すればアスガート国の戦う意欲を失わらせれるかもしれん。」
「けど、アスガート国が戦う意欲を失ってもヨツンヘム国は…。」
そこにヨツンヘム国を偵察してきた男が入ってきた。
「どうも、ヨツンヘムは新型の人工魔獣を開発したらしい。どんなものかまではわからないが。」
報告を聞き終えたディウォルフはしばらく考えた後言った。
「状況を整理しよう、まずアスガート国はガクンラードと言う男の独裁状態だが、
彼以外の中枢にいるものは戦争に反対しているらしい。
アスガートに住む者も戦争は反対しているが戦争推進派に強制的に働かされている。
なにかを中枢部の工場で造っているらしい。
そして、戦力を集結させてここ数日中に大規模な進攻をはじめる可能性が高い。」
ディウォルフは一息つくと、続けた。
「次にヨツンヘムは、中枢部の評議会が戦争推進派だが街に住むものらは戦争に嫌気がさしている。
新型の人工魔獣を開発した……。」
その時、急に空中が歪み一人の小柄な男が落ちてきた。
ディウォルフはその顔に見覚えがあった。
「あなたは、フィアラル!?」
彼はディウォルフを魔族の仲間にするためスカウトに来た魔族、いや小人だった。
だが、以前あった時より老いたように見え、体中傷だらけであった。
「スコール…。」
そのまま彼は気を失った。