闇翼の黒き狼 第四節「反逆」


スコールがフェンリルの配下になってから2年が過ぎていた。

その日も、スコールたちはアスガート国の街を襲っていた。

「たしかに、戦おうとする者を倒せば戦いはなくなるかもしれませんし、彼らの恨みもわかります…。

 ですが、本当にそれで良いのでしょうか…。」

スコールはそのことを悩んでいた。

 

その日も魔族は街を襲っていた。

街は炎で赤く染まり、人々は逃げ惑っていた。

スコールは単独で防衛用ホーリーバトラスを倒していた。

もう何体倒しただろうか、どれもこれも無人機だった。

「人間は、避難したようだな。」

スコールは呟いて、苦笑した。

(街を襲っているのは自分達であるのに、そこに住む人間の心配をするとはな。)

スコールは自分の考えを降りきるように街を疾走する。新たな敵を探すために。

道を曲がった所に一体のポーンが立っていた。

そのポーンに向けてスコールは闇の矢をとき放った。

ポーンは闇の矢が当たる前に崩れ落ちる、すでに機能が停止していたのだろうか。

そして、その影には逃げ遅れたのであろう一人の子供の姿があった。

闇の矢は子供に向かって飛ぶ。

スコールが子供の姿に気がついた時、一人の少女が子供の前に飛び出していた。

少女の身体に闇の矢は当たり、少女はその場に倒れた……。

「なぜ……。」

スコールは呟く。

(なぜ、この少女は子供をかばったんだ。自分の命さえ危ういのに……。)

子供は倒れた少女に駆け寄る、そしてスコールを睨んだ。

「お前さえ、お前達さえいなければ!父さんも、母さんも…緑樹姉ちゃんも死ななかった!」

(死…私が殺した…。私が無抵抗な人間を……。)

子供はスコールに向けて石を投げた。

それはスコールの身体に当たった、しかしスコールは動こうとしなかった。

(私が、戦いを広げていた…。何人もの命を奪っていた……。)

「返せ!皆を、僕の友達を、父さんを、母さんを、緑樹姉ちゃんを!」

子供は泣きながらもスコールを睨んでいた。

(私がやってきたことは間違っていたということか……。結局多くの悲しみを作ってきただけだったのか。)

スコールは自分を睨んでいる子供と、倒れた少女に近づいた。

子供はその場から逃げなかった。その瞳には強い意思の力を感じられる。

「おい!スコール。」

スコールが声のした方を見ると、一緒に来ていた魔族がいた。

「なにしてんだ?おっ、人間じゃねえか。」

その魔族は子供の方を見ると剣のようになっている右手を振るった。

「子供は、結構殺しがいがあるからなあ。恐怖でその顔が歪むのを見るのがまた……。」

魔族が子供に向かって剣を振り下ろそうとした瞬間、その剣が闇にとけ消滅した。

「何しやがる!スコール!!」

魔族がスコールの方を見、怒鳴る。

次の瞬間、数条の闇の槍が魔族を貫き、魔族の体はその場で霧散した。

スコールは、少女のそばに来るとその姿を見た。

緑の髪のまだ幼さが残っている少女であった。

(自分の力の象徴である翼、その内に秘められた力を彼女に与えれば、あるいは……。)

スコールは躊躇することなく、自分の翼を噛みきり、少女に乗せる。

(私の力………それで彼女が救えるなら……。)

スコールの祈りが通じたかのように、翼から淡い光が浮かぶと少女に吸い込まれていく、

そして内に秘められた力を全て失った翼は灰のようになり崩れ去った。

少女の体がピクっと動いた。心臓も動き出したが、その動きは弱い。

「少年、名前は?」

スコールは少女のそばから離れず彼を見ていた子供に尋ねた。

「青霧(セイム)…。」

子供はまだスコールを警戒していた。

だが、彼が自分を襲った魔族を倒したこと、そして緑樹を救った事を見て少しだけ態度が変わっていた。

「セイム、彼女を背中に乗せてくれ。」

「姉ちゃんをどうするつもりだ!」

青霧の言葉にスコールはなだめるように告げた

「この街には私と一緒に来た魔族がまだいますから……早く脱出したほうが良いでしょう。」

スコールの言葉に子供は頷くと、緑樹の体をスコールの背中に乗せた。

「さあ、はやくあなたも乗ってください。」

「うん。」

青霧はスコールの背中に乗った。

「痛そう……。」

スコールの翼を噛みきった痕を見た青霧の言葉にスコールは言う。

「私が今までやってきた事に比べれば……。」

そのまま、スコールはなにも言わずに走り出した。

(そう、一人二人の命を救ったとしても、わたしがやってきたことの償いにはならない…。)

闇をロープにし緑樹と青霧を固定し、さらにスピードを出す。

目の前に魔族の姿があったがスコールは無視してその脇を通りすぎる。

目の前に巨大な壁が見える。

(この壁さえ越えれば。)

スコールは内にある全ての闇の力を集中する。

「グォォォォォ!」

咆哮とともに巨大な闇が壁に向かって放たれ次の瞬間、壁は消滅していた。

そのまま、スコールは街の外まで走っていった。

 

街から離れたところ、無事にスコールは脱出できた。

周囲に魔族もいない。

(これからどうしましょうか。)

まさか、自分がこのまま彼らを連れて街に行くことはできない。

かといって、ここに彼らを残すと魔族に見つかる可能性がある。

彼が考えていると、遠くに人影があるのに気がついた。

避難した人間であろうか、だが魔族の可能性もある。

スコールはその人影に近づいた。

そこにいたのは、白い髪の老人だった。

スコールはその姿に見覚えがあった。

たった二人で街を守り、フェンリルに撤退を命じさせた人間の片方だった。

その老人、橙破はスコールとそのそばにいる子供に気がついた。

橙破は戦斧を構え、スコールを睨む。

「その子らを、離してもらおうか。」

「ええ、いいですよ。」

スコールの意外な反応に橙破は拍子抜けした顔をした。

「この子と彼女を頼みます。」

橙破に緑樹と青霧を預けるとその場から立ち去ろうとした。

「狼のおじちゃん。」

青霧の声が聞こえ、スコールはそちらを向いた。

青霧が手をふっていた。

(なんでしょうか、この心地よい気持ちは……。)

スコールはしばらく青霧たちを見ていたが、彼らに背を向けその場から立ち去った。

 

数日後、彼は魔族に囲まれていた。

魔族の一人が、スコールが人間を救った所を見ていたらしい。

人間に恨みを持つ彼らにとって見れば、人間を救った彼の行動は許せなかったのだろう。

魔族達の攻撃が始まろうとした時、それを静止する声が響いた。

そこには白銀の狼、フェンリルがいた。

「スコール、やはり貴方は我々とは違う道を行くのですね……。」

フェンリルは少し残念そうに言ったが次の瞬間すさましい殺気を発した。

「われらの障害になる前に、私自ら息の根を止めてあげましょう……。」

フェンリルの発する殺気に魔族は恐れ、その場から逃げ出す。

だが、スコールはその場に残った。

殺気で体が動かないのではない、自らの意思でその場に残ったのだ。

「私は、死ぬわけにはいかない。」

「生きる者のあがき、見せてもらいますよ。」

そして、二匹の狼の戦いが始まった。

 

フェンリルの放つ冷気が地面を凍らせ、鋭い氷の槍を立てる。

スコールはそれらをすばやくかわすと闇の矢を放つ。

だが、闇の矢はフェンリルに当たる前に氷に阻まれかき消された。

すでに、スコールの体にはいくつもの傷と凍傷ができていた。

だが、フェンリルの体には傷一つない。

元々力の差があったが、スコールは力の一部を、緑樹を救う際に失っていた。

そのため、スコールに勝ち目はなかった。

だが、スコールは諦めなかった。

 

戦いが始まって半日が過ぎ、日が傾いてきた。

フェンリルの放つ冷気の波動をうけ、スコールは頭部を残して氷に閉じ込められていた。

「終わりですよ……スコール。」

フェンリルはトドメをさすためにゆっくりとスコールに近づいていった。

「私は……私は負けない!」

スコールの咆哮と共に空より闇の槍が降り注ぐ。

「ふっ。」

フェンリルはその攻撃を軽くかわした。

闇の槍はスコールの周囲に降り注ぎスコールを束縛していた氷を撃ち砕いた。

「ほう、自らを攻撃して脱出するとはな。スコール。」

「私は……。」

スコールはフェンリルを睨み叫んだ。

「私は、スコールの名を捨てる!お前たちと決別するためにも!」

漆黒の狼に闇が集まっていた。

それを見て取ったフェンリルも自分の力を集中する。

双方とも互いの動きを見つつ、自分の最大の力を用意していた。

そして、ほぼ同時に攻撃を放った。

フェンリルの放つ巨大な冷気の波動と、漆黒の狼が放つ闇の波動がぶつかり合う。

冷気の波動が闇の波動を押し退けて漆黒の狼に向かう。

漆黒の狼は冷気の波動をかわすがそこにフェンリルが突っ込んでくる。

フェンリルは勝利を確信していたのだろうか。

漆黒の狼が叫ぶ。

「闇の鎖よ!」

突然四方八方からのびた闇がフェンリルの四肢に絡まると結晶となった。

そして、漆黒の狼はフェンリルの喉もとを噛みきった。

「見事…です…。」

フェンリルの体に傷はなかった。

だが、フェンリルの体から急速に力がなくなっているのは誰の目にも明らかであった。

「あな…た…は、なにを…やりたいのです?」

フェンリルの問いに漆黒の狼は答える。

「戦いを終らせる。争う以外の方法で……。」

その答えを聞いたフェンリルは苦しそうに笑った。

「そんな…事…できると……思って…いるのですか?」

「できないかもしれない、ですがやらなければ絶対にかなえられない事です。」

「ふっ、やらなければか……。たしかにどんな事でも…やろうとしなければ叶えられませんね……。」

フェンリルの体が薄れていく。

「最期に聞かせてください。貴方の名は?」

フェンリルの問いに漆黒の狼は呟く。

「私の名は、闇の狼…。ディウォルフ。」

「ディウォルフ……良い名だ……。」

その言葉を最後にフェンリルの姿は完全に消えてなくなった。

ディウォルフは何かが自分の体に入ったような気がした。

そして、彼はそのまま意識を失った。

この日を境に統率者をなくした人間に魔族と呼ばれし集団はまとまりを失い散り散りとなった。


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