闇翼の黒き狼 第三節「防人」
アスガート国、ホーリーバトラス工場。
ここでは、ホーリーバトラスが量産されていた。
ホーリーバトラスはアスガート国に現れた片目の男ガグンラードによって作成法が伝えられた
失われし神の力を動力源として宿した人型機動兵器である。
ガグンラードはアスガート国の上層部に取り入ったがその後姿を消したとされる。
だが、彼はアスガート国の上層部にいた。
現れた時から十数年は過ぎているにもかかわらず、その姿は現れた時と変わりはなかった。
彼の目的は誰も知らない。
「生産効率が落ちているな。」
ガグンラードは資料を見ながら自分より年上に見える男に言う。
「しかし、ガグンラード様。人手も材料も足りなくて……。」
「ならば、街に住む者を使えば良い。材料なら町を一つ二つ潰せば良いだろう。」
「そんなことできません!」
ガグンラードは銃を男に向けた。
「私は意見を聞きたいのではありません。それに役立たずに用はありませんね。」
男がなにかを言おうとする前に男は額を撃ち抜かれた。
「人間なんて、代わりはいくらでもいますからね。」
ガグンラードは窓から外を見た。
眼下に広がる街を眺めながらガグンラードは笑った。
「私は全てを利用する。本来の私のために。」
スコールが魔族と手を組んで数ヶ月が過ぎていた。
彼らはホーリーバトラス部隊や人工魔獣部隊を倒した。
時には生産工場や街さえも襲っていた。
スコールも人工魔獣やホーリーバトラスとは戦ったが、街への攻撃には参加しなかった。
「よおっ、やっているな。スコール。」
いつものようにホーリーバトラスの一部隊を倒した後、小鬼のような魔族がスコールに話しかけてきた。
スコールは答えずに逃げていく者らとそれを追い襲っている魔族達を見ていた。
「おい?追いかけねえのか??」
小鬼の言葉にスコールは頭を降って答える。
「私は、逃げていくものを襲ったりはしない。」
「ふうん、変な奴。」
そう言うと、小鬼は逃げ惑う人間に向かっていった。
スコールはそれをただ見ていた。
フェンリルの宮殿、そこに魔族は戻ってきていた。
もちろんスコールの姿もそこにあった。
スコールは皆とは離れたところで考えていた。
(自分がやっていることが、正しいのか。そもそも何を持って正しいとするのだ。私は………。)
その答えが出ないまま再び出撃の時を迎えた。
「今回は、アスガート国の街か………。」
「いやなのか?スコール。」
スコールの呟きを聞いた巨人が聞いてくる。
「ああ、なるべく不必要な戦いをしないようにしないといけませんね。」
「あんたは、不必要に周囲を気にしすぎているぜ。」
巨人は豪快に笑った。
アスガート国、ユーダルシティー。
山間の緑美しい街である。
アスガート国中央から遠く離れたこの街はさほど重要視されていなかった。
「ふう、中央からこちらに左遷されてどれだけ経ったかのう。」
申し訳程度に黒が残った白髪の初老の男がぼやく。
「15年です。橙破様。」
中年のがっしりした男が答える。
その男は手紙を橙破に渡した。
封を切り中身を見た橙破はその手紙をテーブルに置いた。
手紙には何も書かれていなかった。
「また、無視か…。いいかげん戦争をやめたら良いんじゃがな。」
「ええ、ですが橙破様の意見を無視しつづけるとは!上層部は何を考えておるのでしょう!」
橙破は上層部に戦争を終わらせる嘆願書を送り続けていた。
だが、いつも返事の手紙は白紙だった。
「だいたい、アスガート国を守りつづけた英雄であられる橙破様をこんな所に!」
男は完全に自分の世界に突入していた。
「英雄か…。」
橙破は叫び続けている男を見ながら呟いた。
魔族たちが街を襲っていた。
その中にはスコールの姿もあった。
だが、彼はホーリーバトラスのみを破壊していた。
「また、人が死んでいく。」
スコールの呟きは誰にも聞かれなかった。
(本当に……これで良いのでしょうか……。)
迷いながらも攻撃の手は緩めない。
数が多い軽量型機ポーンには広範囲攻撃で一気に壊滅させ。
高速機動型機ビショップには宙に浮かべた闇の網で動きを止めて牙や爪で引き裂く。
装甲の厚いルックには高速機動でかく乱しつつ一点集中版の闇の槍や刃でその装甲を貫き。
空中戦闘機ペガススには複数の闇の矢で撃ち落とす。
それぞれに最も適した攻撃でスコールはホーリーバトラスを修復不能になるまで破壊していった。
だが、脱出したパイロットには攻撃しない。それが自分を襲って来ない限りは。
魔族の動きはヨツンヘル、アスガート両国にとって新たな脅威となっていた。
だが両国同士の争いも終息することなく続いていた。
「今回も街ですか…。」
この所負けなしで盛りあがっている魔族たちに対しスコールは少し複雑な気持ちになっていた。
ここ数日はずっと街を襲いつづけていたからだ。
しかも今回の街はいつもよりも小さな街であった。
「こんな所を襲って何になるのだ……フェンリルは何を考えている。」
スコールの問いを聞くことなく、魔族たちはその街へ攻めいった。
その街の名はユーダルシティー。
「大変です!橙破殿!!」
橙破のいる家に見張り役の若者が駆け込んできた。
「なんだ?そうぞうしい。」
答えたのは中年の男であった。
「魔族が……魔族が……。」
「魔族が襲ってきたとでも言うのか!」
見張り役の若者は慌てていて声が出ず頷くしかなかった。
「戦力は、ワシと高瀬殿ぐらいじゃな。高瀬殿いくぞ!」
橙破は中年の男に声をかけると、倉庫に走っていった。
高瀬も橙破の後を追って走っていく。
倉庫の中には旧型のロボットが二機あった。
この街にある戦力はこれと戦斧と大剣であった。
「なにがあっても、この街は守りとおすぞ!高瀬殿。」
「橙破様!命に代えても!」
2人はそれぞれロボットに乗りこんだ。
スコール達の前に二機の人型のロボットが立ちふさがった。
一方は重装甲に戦斧で武装した機体、もう一方は大剣で武装した機体であった。
魔族はそれに襲いかかる。
だが、戦斧が唸り一撃で5匹ほどの魔族が吹き飛ばされる。
大剣が弧を描くと3匹4匹と切り裂かれていく。
今まで勝ちに勝っていた魔族たちもたった二機のロボット、しかもホーリーバトラスですらない
一昔前の機体に勝てないのだ。
「おかしいですね。」
戦いをはたから見ていたスコールは二機の戦い方に不審を抱いた。
二機は街から少し離れたところから動いていない。
それにこちらからの攻撃に対して反撃はしているが、向こうから攻撃していないのだ。
「なぜ…。」
スコールは彼らの行動が何を意味するかはわからなかった。
「翼を持つ黒い狼、あれが噂の黒い災いか。」
橙破はスコールの姿を確認した。
「だが、わしはこの街に住む人達を守らなければならんのだ。」
スコール達のもとに偵察の蝙蝠が慌ててやってきた。
「こちらにホーリーバトラスの大部隊がきているだと!」
叫んだ巨人の声は魔族にさらなる混乱をうんだ。
そして、誰かが退却を指示した時には彼らはホーリーバトラスに包囲されていた。
「ホーリーバトラス、しかも最新型機か…。」
スコールは自分たちを包囲したホーリーバトラスを見た。
鎧をまとった女性型のヴァルキュリーと呼ばれる機体。
そして獣の頭部に似た兜をかぶったベルセルクと呼ばれる機体である。
おそらくヴァルキュリーが司令官機でベルセルクが無人機であろう。
ベルセルクの内バズーカで武装した機体が魔族たちを狙う。
「やめるんじゃ!」
ホーリーバトラスの前に戦斧を持ったロボットが立ちふさがった。
「ここでそんなものを撃てば、街が!」
橙破が言い終る前にベルセルクはバズーカを発射した。
放たれた弾丸は魔族ではなく橙破の乗っているロボットに命中した。
「橙破どの、反逆罪で抹殺するように命令が出ています。死んでくださいね。」
ヴァルキュリーに乗っている兵士が冷たく言った。
ベルセルクの放つ砲撃は橙破の乗る機体を、彼をかばおうとした高瀬の乗る機体をも破壊していく。
そして、魔族や街をも巻き込んで砲撃はますます激しくなっていった。
「さて、反逆者と魔族を倒したんだ。どれだけの褒美がもらえるかな。」
ヴァルキュリーのパイロットが嬉しそうに呟いた瞬間、ベルセルクが数体爆発した。
「なんですか!?」
その原因を知って、兵士は驚いた。
人間がベルセルクを戦斧で叩き切ったのだ。
さらに闇が宙を舞いベルセルクを切り裂いていく。
死んだと思った橙破も魔族も健在であった。
「あなたのような外道相手なら、手加減はいりませんね!降り注げ闇の雨よ!」
スコールの力によって闇が鋭い槍となり空から降りそそぐ。
この一撃で地面に磔になったベルセルクを他の魔族が叩き潰す。
「戦いは嫌いじゃが、降りかかる火の粉は払わればな!斬鉄!!」
橙破の戦斧がうなるとベルセルクの脚や腕が叩き切られ、地面に落ちる。
「なんなんだよ…こいつらは!」
兵士が叫ぶ。
「なぜだ、我が大部隊はまだいたはず!」
兵士が周囲を見まわすと、ベルセルクの半数以上がいつのまにか氷づけになっていた。
「ばかな、そんなばかな!」
兵士が驚愕していると、その視界に一匹の狼が入った。
狼は一声吼えると兵士の乗っているヴァルキュリーに迫ってきた。
その狼の白銀の姿が視界に広がったのが兵士が見た最期の映像だった。
ヴァルキュリーは氷づけになると砕け散った。
「まさか、フェンリル様が来ておられるとは。」
白銀の狼フェンリルの出現によって魔族たちの士気は一気に上がった。
そしてほどなくして、ホーリーバトラス部隊は全滅した。
橙破は戦斧を構え、魔族たちの前に立っている。
「さて、奴らは倒したが。お前さんらはこの街を襲うつもりなんじゃろ?」
橙破に睨まれ魔族らは後ずさりする。
「退きますよ。」
フェンリルの声に数体の魔族が異論を唱えるがフェンリルがその場から立ち去るのを見て引き上げ始めた。
フェンリルの宮殿、スコールはフェンリルの部屋にいた。
「フェンリル、何を考えているのです。」
「さあ、私もわかりません。」
フェンリルは告げるとスコールに退室するよう促した。
スコールはしぶしぶ部屋から出ていった。
「わずかに残りし、血塗られた英雄に敬意を表して……。」
部屋に一人残ったフェンリルは誰に聞かせることなく呟いた。
スコールは今日あった事を思い出していた。
たった2人で街を守ろうとした人間、彼らは今まで戦った相手とはまったく違っていた。
「人間にもあんな奴がいるのですか……。」
戦う者を全て倒す事で争いを終らせる事が果たして正しいのか…。
その答えはまだでない。
「行かれるのですか?」
「うむ、ワシはもう反逆者じゃ。この街にとどまれば汝らにも危害がおよぶじゃろう。」
若者の問いに橙破は答えた。
橙破は自分の荷物を持つとユーダルシティーを去った。
「さて、どうしようかのう。」
そのまま橙破は行くあてもない旅路についた。