闇翼の黒き狼 第二節「接触」
DW21が研究所を後にしてから数日が過ぎた。
彼はヨツンヘムとアスガードの国境のあたりにいた。
とはいえ明確な国境があるわけでない。ただ荒地が続くのみである。
ここは最も戦いが激しい場所であった。打ち捨てられた魔導兵器の残骸や魔獣の死体が所々に散らばっている。
DW21は迷っていた。
「ヨツンヘムには戻れない、だがアスガードに行く事もできませんね。」
行くあてもなく彼は荒地を歩いていた。
遠くに土煙が見つけたDW21は見つからない様に近づく。
そこにあったのは、十数体の全長3mほどの青色の鉄巨人だった。
それは魔導兵器「ホーリーバトラス」の一つ。無人戦闘歩兵「ポーン」だった。
移動するその一隊の中にひときわ大きな機体があった。
有人戦闘騎士「ナイト」である。その名の通り騎士の白い鎧を形どった機体、右手にランスをもっていた。
DW21は見つからない様に隠れていた、しかし魔導兵器のセンサーに彼の力がひっかかった。
ポーンの内数体がDW21のほうに向かってきた。
「見つかってしまいましたね。」
DW21はアスガードの魔導兵器が攻撃しなければ見逃すつもりでいた。
だが、DW21が動く前にポーンは手に持っている槍から雷撃を放ってきた。
DW21が隠れていた岩が砕け散る。
「警告もなしに攻撃しますか。ならば容赦しませんよ。」
DW21の周囲に生まれた闇が槍となって数体のポーンをたやすく貫いた。
ナイトの操縦者は不意の襲撃者に驚いていた。
「データにない魔獣か。たった一匹で何ができるというのだ。全機かかれ。」
残りのポーンが全てDW21に襲いかかってきた。
その日、彼はその魔獣DW21の力の目撃者になった。
数分もたたない内に全てのポーンが機能停止におちいったのだ。
あるものは闇の槍に貫かれ、またあるものは鋭いツメで両脚のケーブルを切られ動けなくなっていた。
「ば・・ばかな、なんて奴だ・・たった一匹でポーンを全滅させるなんて。」
ナイトの操縦者は自分に向かって来る黒い狼に恐怖を感じた。
「くあああああ!!」
恐怖を吹き飛ばすかのように雄たけびを上げ、ナイトを走らせる。右手のランスで黒い狼を貫くために。
だが、その判断は間違っていた。
DW21の力によって宙に浮かんだいくつもの闇の塊が鋭い結晶となった。
かわす事もできずその闇によってナイトの装甲はズタズタになった。
「ひっ、ひいい。」
ナイトの操縦者は機体から脱出するとDW21に背を向けて逃げ出した。
DW21は追おうとしなかった。
戦う意思を失ったものを襲うつもりはなかった。
それは、あいつらと同じになるから・・。
数ヶ月がたった。
その間DW21はこの地で戦おうとするモノを叩き潰してきた。
『戦うこと』それが自分の存在理由。
自由になるに戦いを終らせたい、だがそのために戦わなければならない二律背反に悩みつつも彼は戦っていた。
ある時はアスガートの魔導兵器の部隊を、またある時はヨツンヘムの人工魔獣達を
時には魔族をも相手に戦った。
だが、彼は逃げるものには決して手を出さなかった。
国境に現れる黒い災いは両国に恐怖となって広がった。
だが、それでも争いは続いた。
DW21一匹では全ての部隊を相手する事もできず各地で双方のぶつかり合いはおきていた。
本当にこれで良いのだろうか、人間を滅ぼすべきじゃないのか?
DW21の内にそんな考えが芽生え始めていた。
その日も彼は自分の中にある疑問に答えを見つけられないまま、ヨツンヘムの人工魔獣と戦っていた。
彼にとっては魔獣も魔道兵器もたやすく倒せる相手であった。
それだけに、彼はこの戦いを終らせる為に全ての戦うモノを倒そうと思ったのだが。
「・・これでは、キリがありませんね・・。」
魔獣の一部隊を倒し、戦意を失い逃げていく魔獣を見ながら彼は呟いた。
「アレは、使えそうだな。」
DW21の戦いを見ていた人物がいた。彼はDW21にも、他のどんな者にも見つからなかった。
彼は、戦いが終わるのを見てDW21の前に姿を現した。
「誰ですか。」
DW21は自分の目の前に突如現れた存在を警戒した。
それは、見た目はすごく小柄な人間の様に見えた。
だが、そこから感じるプレッシャーは比較にならないほどであった。
「はじめまして。狼殿。私の名はフィアラル。」
フィアラルは丁寧な言葉でDW21に話しかけた。
「私の名は、DW21です。」
とりあえず悪意がないように思えたため、DW21は自分の名を名のった。
だが、あのプレッシャーは残っていたため、警戒はしていた。
「で、なんの用ですか?」
「いえ、アナタのお手伝いをしたくてね。」
「手伝い?」
「ええ、この戦争を終らせたいのでしょう?」
フィアラルの言葉にDW21は驚いた。
「なぜ、それを。」
「アナタの事はだいぶ前から見ていました。私達ならアナタの力になれると思いますよ。」
「力に・・なっ!」
突然衝撃を後ろから受けてDW21の意識は失われた。
DW21の後ろには銀髪の男が立っていた。
「これは、フェンリル様。こんなところまでおいでになるなんて。」
「狼か・・私と同じ・・。」
フェンリルはフィアラルの言葉が聞こえていなかった。
ただ、横たわる漆黒の狼を見つめていた。
DW21は目覚めた。
そこは見た事がない場所だった。
床も壁も紫水晶でできていた。そして、目の前には白い彫像が・・。
「目が覚めましたか?」
急にその彫像が話しかけてきた。よく見るとそれは白い装甲で全身を包んだ小人だった。
「こちらへどうぞ。」
DW21は状況がわからなかった為、その言葉にしたがった。
彼が案内された部屋は今までいた部屋と違い霧が漂い床から天井まで全てが白色であった。
よく見ると白色に見えた物は紫水晶の床、壁にびっしりついた霜であった。
そこには、フィアラルの他に数人の何かがいた。異形のモノが。
「そうか、まんまとだまされましたよ・・。あなた達は魔族ですね。」
「半分はな。」
魔族の一人が答えた。
「半分?どういうことです。」
DW21の問いに答えるものはいなかった。いや、全員が何かを待っている様だった。
彼もそれに気がついた。霧の中から巨大な力がこちらにゆっくりと近づいていた。
霧の中から姿を現したそれは白銀の毛皮を持つ狼だった。
「体は、大丈夫ですか?」
白銀の狼はDW21に優しく語りかけた。
「ああ、ところであなたは誰なのです。」
「この御方は、ロキ様が長男。氷狼王フェンリル様であられる。」
DW21の問いに答えたのは白銀の狼ではなくそばにいた大柄な男であった。
だが、DW21にはいまいちわからなかった。
「そうか、古き時代のことは知らないようですね。」
DW21の表情を見ていたフェンリルはゆっくりと語り始めた
今の文明がおこるはるか以前、一人の神が神界に災いを巻き起こした。
それは様々な世界に影響を与えた。
その神の名はロキ。
ロキは邪なる女性との間に三人の子をもうけた。
フェンリル、ヨルムンガント、ヘラ。
彼らは神の子であり、魔の子でもある。
ロキは一人の神を殺した。それがきっかけとなり、神と魔の戦争が始まった。
神も魔も力を使い果たし深き眠りにつく・・。
「つまり、あなたはそのロキの子と言いたいのですね。」
DW21の言葉にフェンリルは頷いた。
「で、私をこんな所に連れてきてどうするつもりです。」
「フィアラルが言ったはずですよ。あなたの力になろうというのです。」
DW21はフェンリルのほうに一歩歩む。
フェンリルの近くにいた魔族がDW21の前に立ちふさがろうとした。
「やめんか。」
フェンリルの声に魔族は元の場所に戻った、がDW21への警戒はしたままであった。
「正直言って、このまま戦争が続くと私達も困るのですよ。」
フェンリルは話しを続ける
「人間らは弱い、だが彼らは戦うことで新たな力を生み出す。我らに対抗する力『魔法』は失われたが、
それに変わる力を手にしている。それに神の力を持つホーリーバトラス。あれは危険だ……。」
「危険?」
DW21の問いにフェンリルは答える。
「ええ、あれは私達だけでなく世界をも滅ぼしかねない技術です。」
「ところで、さっき半分はといいましたが。どういう意味です?」
ディウォルフの問いに大男が答えた。
「俺は、巨人族だ。神の手で悪の烙印を押された…な。」
「僕は小人族だよ。神によって悪役にされた一族の生き残りさ。」
白い装甲に身をまとった小人が言う。
フェンリルはDW21に言った。
「ここにいる者の半分以上は、神の策略によって悪役にされた者達です。」
フェンリルは悲しげに彼らを見た。
「おれ達は憎いんだ、神の残した伝承を信じ、我らを悪と決めつけ排除しようとし、
我が物顔で地上で生き、森や水を汚し、その上争いを繰り返す人間が!」
小人が叫ぶ。
それに同調するように周囲にいた者たちが叫び始める。
「奴らのせいで我が同胞は死んでいった!」
「人間など必要ない!」
フェンリルが止めるまで、彼らは口々に人間と神に対する恨みと怒りを語っていた。
「それでどうしますか?」
フェンリルの問いにDW21は考えると、顔をあげた
「私は、不用意に人間らを襲わない。それで良いなら手を組もう。」
DW21の答えにフェンリルは微笑んだ。
「それにしても、DW21は呼びにくいですね…。そうだ、これからはスコールと名乗りなさい。」
「スコール?」
DW21の問いにフェンリルは答える
「ええ、古き時代の言葉で『太陽を追いかける狼』と言う意味です。」
こうしてDW21、いやスコールは魔族と手を組み人間の造りしモノらと戦うことになった。
それが正しいかどうかの確信を持てないままに……。