JAS法改定に伴う「産地表示」の義務化


水産関係の生鮮食品の表示は、次の4点が中心です。
  1. 品名・・・・正しい品名(魚名)
  2. 産地・・・・・・国内ものは、海域名・地域名(水揚げ漁港)・府県名    輸入ものは、国名
  3. 養殖か天然か・・・・養殖物は「養殖」と表示
  4. 冷凍か解凍か・・・・解凍物は「解凍」と表示
「品名」については、数年前に「品名表示ガイドライン」というのが出されており、これに基づく表示が各スーパーや小売店で行われてきたのですが、必ずしもすべてが実践できているという状況ではありませんでした。これは、店側の姿勢の問題だけでなく、産地を含めた水産業界全体に問題が有ったことの反映だと思われます。

今回のJAS法改定で決められたのは、「産地」「養殖」「解凍」の表示です。
実施は、2000年7月1日からになっており、期限まで残すところ2週間しかありません。
なお、これには「罰則規定」もあり、「品名表示ガイドライン」とは異なり、強制力を持っています。

これらの表示に当たり、小売店側としては(当然の事ですが)、下記のような立場をとることが必要だと思います。
  • 正しい表示をする。間違った表示、あいまいな表示はしない。
  • 消費者の立場に立った、わかりやすい表示をする。 つまり、消費者が、「商品を選んで、買うという行動に役立つ表示をする。」ということです。
  • これらの実践が、消費者の信頼感を高めることになり、ひいては、水産物消費を増加させることにもつながっていくという認識で取り組む。(当然、お店の信頼も高まる。)
小売店側が、これらの表示を正しく行うためには、川上から川下へ正しい情報が流されること、これが絶対的な条件となります。つまり、小売店側の意識や対応だけでなく、産地・生産者・中間業者の姿勢と実践の変革が必要となります。したがって、これは、業界全体の体質改善につながるものとして、また、つながらなければならないものとして、私自身は理解しています。

下記に、京都市における具体的な点を列記します。
京都市以外の所では、各地方の独自性に合わせて、必要なところは読み替えて下さい。

これを読まれた皆様方からのご批判やご助言を期待しております。     メール        2000年6月18日記

品名表示の件
品名表示の基本は「標準和名」です。
ただし、
魚種により、地方名のほうが認知されている場合があります。その場合は、地方名を使います。
輸入魚の場合、日本名がつけられており、それが一般に認知されている場合は、その名前で表示します。
しかしながら、なかには消費者に「誤解」や「混乱」をもたらすような名前もあり、その場合は本来の魚名での表示とします。
魚名 市場流通上での問題点等 表示のモデル
マダイ
チダイ(チコダイ)
マダイもチダイも「小鯛」で流通しているが、厳密に分ける事が必要になる。小鯛・大鯛という表示は不可。 マダイ(必要であれば、サイズを表示)
チダイ
キハダマグロ
幼魚が「びんちょ」という名前で流通している。京都の地方名であるが、これは誤解のもとになる。 キハダマグロ(の幼魚)
カサゴ(ガシラ) 種類が多く、地方名も多い。地方名での情報では、現場の担当者は発注できない。又、消費者も買えない。 カサゴ
メバル 黒・赤・ソイ関係など、きっちりと分類する。「養殖」も明確に。 メバル・黒メバル・ソイ等
カワハギ
ウマヅラハギ
ウスバハギ
この3種が混同して呼ばれている。
はっきりと区別する事が必要。
ムキハゲという呼称は認められない。
カワハギ
ウマヅラハギ
ウスバハギ
イカ関係 小イカ、ワカイカなどと呼ばれているが、イカの名前が必要。 イカの名前が不明確では取り扱いができない。 正しい「イカ」の名前を表示する。
アジ関係 小アジ・豆アジという表示は不可。「マアジ(小)」とかいう表示となる。又、「関アジ」も「佐賀関産マアジ」となる。 マアジ・マルアジ・ムロアジ等
マイワシ 平子、中羽、大羽という表示は不可。 マイワシ(大羽イワシ)等
アユ関係 消費者を混乱させるので、「天然仕様」という表示は不可。
琵琶湖のコアユは認知されている。
アユ(養殖)とし、養殖場名を入れるのが好ましい。  コアユ
カレイ関係 カレイは種類が多く、地方名も多いので注意が必要。
基本は、標準和名だが、右記の3種は地方名を使う。
ミズガレイ(ムシガレイ)
ササガレイ(ヤナギムシガレイ)
エテガレイ(ソウハチ)
トロカレイ
トロアジ
オキヒラメ
こういう呼称は不可。 原料魚を明確にする必要がある。 魚の名前が明確でないと表示ができない。
アカウオ いろいろの種類があるようだが、一般に「アカウオ」で認知されている。 アカウオ
メロ 「銀むつ」「白むつ」等と呼ばれているが、「銀むつ」が一般に認知されていると考えられる。メロにするとかえって混乱する。 銀ムツ
ナイルパーチ 「白すずき」「すずき」などと呼ばれて流通しているが、これは消費者を惑わす呼称であり、問題がある。 ナイルパーチ
クロカンパチ
トロカンパチ
標準和名は「スギ」、メーカーが独自に名前をつけているが、一魚種が2つの名前で流通するのは混乱のもと。 スギ
エビ関係 BTは、ブラックタイガーエビで認知されている。天然エビ関係は、業界名での表示は非現実的。「天然」という表示は、そのことが偽りでない限り、規制はされてない。 ブラックタイガーエビ
天然エビ
アカガイ
アカガイの身
アカガイとサルボガイとが、明確に区別されていない。
「アカガイの身」は、サルボガイが大半だと思われるが、サルボガイの表示では消費者に理解されにくい。
アカガイ
名前の似た魚 ダルマ・・・メバチの幼魚
ダルマ・・・山陰方面でのメダイの呼称。
メバチマグロ(の幼魚)
メダイ
名前の似た魚 アカイカ・・・ケンサキイカ(ヤリイカ)
アカイカ・・・ムラサキイカ(ロールイカ)
アカイカ・・・タルイカ(ソデイカ)
ヤリイカ
ムラサキイカ
タルイカ
魚には地方名がたくさんある。同じ魚でも、地方によって呼び方が違う場合も多いし、逆に同じ呼び方でありながら、違う魚の事もある。
荷受けさんが、地方の魚を引かれる場合、京都での名前は何なのか、常に意識していただきたいと思う。

産地名の件
国内物 1. 漁獲海域

2. 水揚港(地域)

3. 水揚された府県名
1、2、3の順に優先される。 1、2、3のデータを複数で記載する事も可能。
ニケ所表示が可能。たとえば、紀州のマルアジの産地を「和歌山県・三重県」とする等。
マグロなどの広域回遊魚の場合は、「太平洋」と表示することも可能。
転送物などの場合、確実にもとの産地を明確にすることが必要であるが、現実には困難なことが多いと思われる。。
輸入物 1.国名表示
   (海域表示ではない。)

2. もとの形態からの変更があった場合、 加工国が産地となる。
アメリカ産、ロシア産等となる。 ベーリング海産等とはならない。

モンコ下足・・・中国産等(原体の産地は、アフリカのどこか)
キハダマグロ短冊・・ 韓国産等(原体の産地は、スペインとか)
   (↑ これらの表示については、私自身は疑問を持っている。)
国内物・輸入物とも、産地が明確でないものは取り扱いができない。
貝類などで、輸入物を国内で一時的に保管したものが出荷されるが、これは輸入物の扱いとなる。
現状では、これらについて、川上側から正しい産地情報が出されているのかどうか、私自身は疑問を持っている。
「転送もの」は、正しい産地表示ができるのだろうか?
  • 「転送もの」とは何か
    1. グレが、氷見の定置網で大量にあがったとします。氷見だけでは消化しきれないという状況になり、出荷業者の方が各地方に出荷されます。この場合、パーチ(と呼ばれる魚の乾きを防ぐために魚の上にかぶせるセロファン紙)をかぶせて出荷するのですが、このパーチには、産地名と出荷業者名が印刷してあります。したがって、このパーチで、どこから出荷されたかが分かるのです。(ふつうは、それが産地ですね。)
    2. 氷見から博多の市場に送られたグレが、博多の出荷業者に買われ、それがどこかに送られます。(こういうことは、日常的にあることです。)
    3. この場合、博多の出荷業者は、もとの出荷業者である氷見の業者名入りのパーチをはずし、自分とこのパーチをかぶせることが多いです。こうなると、もう、本来の産地が氷見で有るかどうかと言う点は、ほとんどの人には分かりません。
    4. これで、このグレの産地は「福岡」になります。
    5. うーーん、これでいいのだろうか・・・・ 水産庁の偉い方々は、こうした現実をどのようにしようとしているのでしょうか。
    6. ここで、「氷見」「博多」の2カ所を出しましたが、これはあくまでたとえであります。誤解の無いように・・・・・・・。     実際は、ほとんどの産地で、同様の事が行われていますね。
  • 私自身で言えば、この問題が一番不安ですね。
  • といっても、この問題は「小売店サイド」の問題ではありません。なぜなら、小売店側は、仕入先の情報からその商品の産地を知り、その産地の表示をするわけです。仕入先からの産地情報を、一つ一つの魚について詳細に確認する義務はありませんし、実際に、毎日の仕事の中で、そんなことができるわけではありません。
  • 転送ものかどうかということすら、なかなか、一般の小売店では分からないと思います。
  • したがって、仕入先からの情報が間違っていれば、ラベルに表示される産地は間違ったものになります。
  • しかし、これは、消費者にとっては、問題があります。ですが、私自身、こうして解決したらよいと言うような案は思いつきません。

「養殖」「解凍」の件
養殖 普通、養殖物は分かるが、わからないものもある。右記の魚などは、きちんとした情報が必要。イサキ、メバル、ウスバハギ等。
最近では、サバ、サワラなども養殖物があるらしいので、荷受会社からのきちんとした情報提供が必要になる。
既製品で、「単品のお造り盛り」は表示が必要なので、ハマチ・カンパチ・フグ等の場合「養殖」かどうかを明確にする必要がある。
従来、使用されてきた「蓄養」という概念は、「表示」上では無くなった。
解凍 フィレ等の半加工品の場合、その原料がどのようなものであるのか明確にする事が必要。この場合、「魚名」「産地」「原料は解凍物かどうか」など、川上側からの詳細な情報提供は必須となる。
サンマは、「生鮮物」から「解凍物」に切り替わる時期を明確にする。ダブって出荷される時期もあると思うが、その場合は、個々に「生鮮物」か「解凍物」かを明確にする。
既製品で、「単品のお造り盛り」は表示が必要なので、イカやマグロの場合「解凍」かどうかを明確にする必要がある。
トリガイ、アカガイなども同じ。
「養殖」であるかどうかが明確でないものは、取り扱いをしない場合もある。
イカ類やフィレ加工品などで、「解凍品」と思われるものであった場合、その点が明確にならない場合は取り扱いをしない事もある。

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