古典籍の
 保存方法

 古典籍は先人達が遺した貴重な文化遺産です。しかし、地震や台風などの自然災害や、戦争や火災など様々な理由によって、多くの古典籍が失われてきました。それ故、幾星霜を経て現代まで伝わってきた古典籍は、これからも大切に後世に伝えてゆきたい物です。幸い、和紙で作られた「和本」は、その歴史からもわかる様に、大切に扱えば何百年もの寿命があります。ただし、次の事柄に注意して下さい。

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1.火:

 紙であるが故に、当然火に燃えます。火災に留意するのは勿論のことですが、本は高温や直射日光にも影響されます。高温の場所や直射日光の当たるところに長く置いても紙の色やけ、色彩の劣化、糊の剥離、表紙の反りなどの問題が生じます。


2.水:

 水に直接濡れますと、各ページが接着して離れなくなります。また、色が流れ出たりしてシミを作ります。さらにそのまま放置しますとすぐカビが生じ、本を変質させてしまいます。

 湿気の多い場所に長く置いても同じ様な状態になります。地下倉庫、結露しやすい壁の側、寒暖の差の激しい場所、換気の悪い部屋などの保管はくれぐれもご注意下さい。 


3.虫:

 草や木から作られた和紙は虫害に遭います。その侵攻は緩やかですが、何よりも他の和本への伝染が問題です。いつの間にか大切な蔵書が虫の餌食にされてしまいます。和本につく虫で最も警戒が必要な虫は「死番虫」といい、成虫は直径1ミリ程の黒い小さなテントウムシの様な姿です。この成虫が梅雨頃から秋にかけて別の蔵書に飛んで移ってそこで卵を産み付けます。春になると(冬でも部屋の中程度の温度で)卵は羽化し、ミニサイズの甲虫の白い幼虫の姿になります。幼虫は和本の中で和紙を食べながら、0.5ミリから2ミリ程度まで脱皮を繰り返して成長します。和本の中を食べ進んだ後は千枚通しで開けた様なトンネル状の穴が開きます。餌場である和本の中で縦横無尽に食べるため、ついにはその本は簾の様になってしまいます。

 駆除方法は、図書館などでは密閉して殺虫ガスを使っていますが、家庭ではその利用は困難といえます。家庭用の薫蒸剤は和本の中まで浸透しません。樟脳やナフタリンなどは虫よけには効果がありますが、殺虫効果は疑問です。故に家庭に於いては手っ取り早い防止法はないと言えます。まず、第1に虫の検出から始めます。虫の侵入は理屈から言えば外観からわかります。どこかの面から虫が侵入した穴があるからです。しかし虫害がまだ進んでないときはその1箇所を見落としがちです。面倒でもページを開いてみて確認する方が確実です。

 虫の跡がある本が見つかったときはその虫が現在も生きているのかどうか確認します。虫が生きているかどうか。卵や蛹などが見つからないかどうか。見た目には綺麗でも、和本の間からざらざらした砂の様なものが出てくる時は危険信号です。それらの痕跡が見あたらず、ずっと過去に虫が入ったものであれば安心です。生きている虫の入った本は、屋外など伝染飛散の恐れのない処で、1ページ毎に虫を払い落として下さい。それからビニール袋などに入れて密封し、樟脳などを入れた後、隔離します。さらに他の蔵書に伝染していないかを綿密に調べなければなりません。虫に食われた本はその状態にもよりますが、裏打ちなどで一応は補完出来ます。


 手間のかかる作業ですが、これが蔵書全体を守る確実な手段です。何よりも有効なのは、和本をたまに手に取って見てやる事です。掛け軸などが年に1度くらい床に吊る事がいいように、和本もページを開いてみる事が、本に風を通し、また本の環境もチェックできるよい機会になります。また、お手持ちの本の価値を調べてみる事も大切でしょう。和本専門店や古書の催し、図書館などを覗いてみると何らかの情報が得られます。どうぞお気軽にお尋ね下さい。

 和本は手入れさえきっちりと行えば、何代も生き続けて、学者、研究者や愛書家の研究に役立ってゆきます。どうぞ今一度、お手持ちの本を見直して下さい。