朝日新聞 長崎版 1997年(平成9年)3月25日(全文)
対馬にすむ日本固有の在来馬、対州馬を飼育している対馬・美津島町に島外の保育園などから「馬を譲って欲しい」との申し込みが相次いでいる。
飼育費が町財政を圧迫していたことから、町も応じ始めた。
地元で飼育されている馬は約五十頭から二十頭前後に減らす方針だ。
だが、このままでは全島で五十頭を下回り、史上最低になる。
「国が在来馬保存のあり方を考える時期に来ている」として、支援を求める声が強まっている。
保存を進めてきた地元の対州馬振興会(佐々木富雄会長)などによると、対州馬は体高百二十五センチ前後と小型だが、性格が素直で、粗食に耐える上、力が強いことから島内では、農耕や木材の運び出しに利用されてきた。
1965年に約千二百頭いたが、農業の機械化や林道整備に伴って減少。
88年には過去最低の五十九頭まで落ちた。
町は88年から保存などの目的で飼育事業に乗り出し、九頭から飼育を始めて四十七頭まで増やした。
しかし、一頭当たり年間二十万円近くの費用がかかり、財政面での負担増が逆に悩みの種になり、手放さざるを得ない状態になっていた。
町には二月の諫早市の私立保育園からの申し込みに始まり、県内外から五十件以上の希望する声が寄せられた。
「対馬大使として島をPRしてほしい」と、この保育園や福岡県内の牧場などに計十二頭を譲った。
今後も可能な範囲で販売に応じ、残った対州馬は数を維持しながら観光などに利用するという。
72年以来、増殖の技術指導など、保存活動をしてきた対州馬振興会は馬の減少を危ぐしている。
同町所有が全島の六割を占めていた中で、町以外に島内で飼育する十一人のうち九人が六十歳以上と後継者難が深刻化しているからだ。
佐々木会長は「島全体でみると対州馬は減るばかりだ。町や島だけでは支えきれず、国に何らかの対策をとってほしい」と言う。
国は89年以降、農林水産省が「ジーンバンク(種の保存)事業」で、七頭を北海道の同省十勝牧場で飼育し、精液を凍結保存しているが、島内保存では対策を講じていない。
農水省家畜生産課は「地元で馬活用の道が開けていない状況は認識しているが、馬を活用した地域振興の範囲で支援していくとしか言えない」という。
対州馬は鹿児島県のトカラ馬、宮崎県都井岬の御崎馬などと並ぶ日本在来馬八種の一つ。明治以降、国内産馬は産業や軍事上の必要から西欧種によって改良が進められ、貴重な存在になった。
約九十頭いる御崎馬は国の天然記念物に指定されている。
以上が 朝日新聞 長崎版 1997年(平成9年)3月25日の全文です。
美津島町島山島の対州馬
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