長淵の河童   北松浦郡吉井町(よしいちょう)
 御橋炭鉱の水泳場近くを流れている佐々川に、春明に通じる橋(※ 清流橋)が架けられている。

 この橋の真下が長淵である。長淵で河童が大きな石を転がすような音をさせるという、珍しいことについて春明の古老七種三六は次のように説かれた。

佐々川の長淵 1998/8 撮影
佐々川の長淵(清流橋の上流部分)

 「河童が音をさせるところは、水泳場付近で淵の上部である。音がする場所はここにきまっている。河童の音をさせるのは、昔より今日までも続けられている。先祖たちより石の音をさせるのは河童だと伝えられている」

 今年7月30日に音をさせたのを氏の長男茂が聞いたと話された。石の音は五、六人持ちをするような大石がうち合って、転がすような音を発するのである。音は主として日照りの続くとき、その前に当って発するという。

佐々川の長淵(清流橋の下流部分)
佐々川の長淵 1998/8 撮影

 この説に従えば、7月30日に音をさせたことは、大かんばつを知らしめたことと思われる。大雨や雨の続くというときも、その以前に当って音をさせるという。

 音のする淵の近いところでは、よく聞こえないが、遠いところから聞けば大音がするということは、どうも不思議なことである。音をさせる時期は、四月頃から十月 頃の間で、冬は音をさせないといわれる。

<吉井町郷土誌二版 郷土誌編纂委員会 吉井町教育委員会
二版昭和57年11月発行より>



 吉井町佐々川には、「ポットホール」が在ります。

 「ポットホール」とは、河川床の岩盤にできる円盤状の穴のことで、日本語で「甌穴・おうけつ」と訳されています。(長野県・木曾川上流の「寝覚の床」のものは特に有名です。)

佐々川のポットホール 1998/5 撮影
佐々川のポットホール(甌穴)

 流れの早い河川の川床岩盤の割れ目やくぼんだ所に渦流が生じ、そのエネルギーで浅い小さな穴ができ、そこに小岩が入って削られ、それを長い年月くり返すうちに、やがて円筒状の穴となるもので、悠久の自然の営みによる珍しい造形です。

 このポットホールは、吉井町の佐々川や福井川に点在しますが、とくに「長淵」のすこし下流にある、「ポットホール公園」一帯には、大小合わせてその数およそ600コ、しかも様々なタイプがあり、たいへん貴重な場所となっています。最大のものは直径、深さとも2メートルを超えるものがあります。

佐々川のポットホール 1998/5 撮影
佐々川のポットホール(甌穴)

 私見ですが、「長淵で河童が大きな石を転がすような音をさせる」というのは、「ポットホールの岩」の音ではないかと、思われます。

 ⇒吉井町 河童伝説その1 松瀬一族と河童祭



長崎県の河童伝説  長崎坂づくし   対州馬   index