雲仙岳のことを、帯山(おびやま)と言っていたころがあると。帯山の中腹あたりに「火戸が渕」という小さな湖があって、そこに三匹の河太郎が棲んでいたと。 (河太郎を島原地方ではガワンタロといい、河童のことである。)三匹の河太郎はたいへんおしゃべりが好きで、火戸が渕のエビを食うたりカニを捕えているときだけ、はなし声が聞こえなかったたい。
名を妙見太郎、風見(ふうげん)太郎、国見太郎といって、里人たちは「山の三太郎」と呼んでたとー。
国見町側から見た、普賢岳(左)と国見岳(中央) ある日、河童の三太郎は高来津久良(たくのつくら)という神様に、「どうかおらたちを人間にしてください」と願い出たそうな。神様は「おしゃべりをやめて、私のいうことを聞いたなら人間にしてあげよう」といって、三太郎にそれぞれ仕事を命じたそうたい。
妙見太郎には、雨や雲、雷の番、星と日の変化も見とどける天見役を。
風見太郎には、風が東からくるか西からくるか、南風か北風か、風の速さ遅さを見張る、風見役を。
国見太郎には大地に耳をあてて地震の番をする、地見役を申し付けて、おしゃべりをかたく禁じてしまったとー。神様のいいつけを、しばらくは熱心に守っていた三太郎は、だんだん退屈になり、しだいに仕事をさぼり、藪がげで昼寝をしたり、火戸ヶ渕の湖底で踊ったり、ときには雲が走り出そうが夕焼けの空に異変があろうが、湖のそばの石の上でしゃべりまくったそうな。
突然風が吹き出し急に止った。阿蘇が真赤に燃えている。火戸ヶ渕の湖面が黒ずんでさぎ波が消えた。ごろごろと遠雷のような地ひびきとともに湖面が浮きあがったとー。
普賢岳噴火(NTT諫早支店 井上壽保氏 平成3年撮影) そして一夜のうちに帯山は大音響とともに爆発し、炎は空をこがし、火柱は宙天に狂い、黒煙白煙が島原半島を包んでしもうた。 夜が明けると帯山はすっかり変わり果て、三太郎の姿はなく、火戸ヶ渕もあとかたもなく熔岩で埋没していたとー。
それから帯山のあったあたりに、仲良く並んだ低い山が三つできたと。三匹の河童の変身だというので里人たちは、それぞれに名前をつけてやったげな。
妙見岳、普賢岳(ふげんだけ)そして国見岳と。<小浜町史談 小浜町史談編纂委員会編 小浜町 昭和53年3月発行を元に、普賢太郎となっていましたが風見太郎としている話もありますので、加筆編集しました。>
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