川ぼうずの婿入り   西彼杵郡外海町
 じいがある時、自分の田に行ってみると、暑さのために、田の畦(あぜ)が切れて水は干あがってしまい、青い稲も、いまにも白く立ち括れそうになっています。

このたんぼをながめながら、おもわず溜息(ためいき)ついて、
 「あァあァ、この田に水を入れてくれるもンがあったら、わたしの三人いる娘のうちの、一人はくれてもよいがなァ」
とひとりごとをつぶやくと、川ばうず(カッパ)がそれを開いて、ヒョッコリあらわれて、
 「じい、おれにでも、くれるや?」
じいは、ビックリしたが、つばを呑みこんで、
 「くるるとも、水さえ溜めてくれたら、のう‥‥」
と言いました。

 翌朝、じいが早く起きて、きのうの田んぼに行ってみると、おどろきました。畦(あぜ)も越しそうに、ひたひたと水が一ばいたまっていました。よろこんで帰ろうとすると、田の畦に、川ぼうずの足あとがついていました。

河童・濱脇晴美 作陶
黒崎を望む

 そこで、昼から姉娘をたんぼにつれて行って、水の溜った稲田を見せながら、このあいだからのことを話すと、姉娘は首を横に振って、
 「そげえなこと、わたしはできん」 と、ことわりました。しかたなく次の娘をつれてきて頼むと、
 「川ぼうずのところへ行くくらいなら、死んだほうがまし」
と言いました。おしまいに、末の娘をつれて行って頼むと、
 「あろう、ことわったら、じいが、うそついたことになろう。親孝行のため、わたしがゆきまッしょう……」
と言いましたが、
 「かわりに、セソナリビョウタソが欲しか」
とたのみました。

 川ぼうずは、翌朝早くから、頭にほうかむりしてむかえにきました。
 娘は、きれいか着物きて、ヒョウタソさげてじいさんに別れ、川ばうずにつれられて家を出ました。ふたりでたんばの畦道を歩いて行くと、川端に出ました。川ぼうずは、すぐに水に飛びこんでもぐり、向う岸にわたりました。

河童・濱脇晴美 作陶
夢みる河童・濱脇晴美 作陶
(ころこ庵・外海町神浦678)

 娘は川の中の石づたいに一つずつ飛んで渡っていましたが、まん中に釆たころで、持っていたヒョウタソを、川上めがけて投げこみました。
 流れが急なため、ポカリ、ポカリ、浮んで、こちらへ流れて来ます。川ぼうずは拾ってやろうと、すぐ飛びこんで、そのヒョウタソにしがみつきました。でも、すぐに水の底に沈んでしまいました。
またポッカリ浮び上ったので、いどみかかると、またすぐに沈みます。
 いくどやっても同じことです。さすがの川ばうずも、しまいには気味わるがって、娘のことはあきらめて、逃げて行ってしまいました。

はなし 西彼杵郡外海町黒崎 出口ソメ

<長崎の民話 日本の民話48 吉松祐一編 未来社 昭和47年7月発行より>
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⇒長崎県では、五島に同じ様な「ガータローとチョッパゲ

⇒島原半島に、「瓢箪と河童」の話があります。



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