セラス変異抄
 4翠月vsリバース
作:MUTUMI

「炎、翠月を包め!」
ダークはそう叫ぶと、地中から半身を出している翠月に向かって力を飛ばした。ダークの力は炎となって翠月を円状に包み込む。
深緑色をした翠月と呼ばれる物体は、人と同じ姿をしていた。ただし、性別や体毛はなく、その大きさも遥かに巨大で、全長500メートルはある。
だが翠月に知性はない。ただ破壊衝動のみがインプットされていた。
翠月とは、かつて星間大戦中に作られた神に率いられた勢力の、巨大な人型の兵器なのだ。
翠月により破壊された都市は、今も草木一つまともには生えないと言われている。
そんな翠月が、…かつてこの地に封印されて、埋められたものが、今まさに目を覚ましたのだった。
ダークは独り翠月に戦いを挑む。

”ムクロ、翠月の動きを止めれるか?”
”既にやっている!”
”しかし、止まってないぞ!”
”翠月に押されているのだよ!ダークありったけの力で攻撃しろ!”
「わかった」
ダークはそう言うと、両手を翠月に向けてのばす。
「行け!炎!」
ダークの命令下、翠月を包んでいた炎が銃弾のように翠月にくい込む。
翠月は微かに身をよじり、嫌がる素振りを見せる。そしてオレンジの瞳をダークに向け敵を認識すると、その口を開いた。 翠月の口から射出されたレーザー光線が、大地を白く染める。
「うげっ」
ダークは呻き、とっさに体の周りをシールドで包みガードする。とたんにドーンという大きな音がし、ダークのシールドとレーザー光線がぶつかった。

”ダーク!”
「平気」
ダークはそう応え、翠月を睨み付ける。
「たかが兵器が、大きな顔をする!邪魔なんだよ、お前!」
ダークは翠月の体内、内部に力を送り込む。ダークの力は翠月の中で盛大に弾けた。
翠月が苦痛に歪み、片手をつく。
”効いたようだな”
「効いてなかったら怒るぞ」
ぼそりと言い、ダークは次々と連続攻撃を加えた。ダークの攻撃には容赦がなかった。これでもかという程凄まじい力が、翠月に加えられる。翠月は身をくねらせ、大地に体を横たえた。
「あと、少し!」
ダークは誰に言うともなく呟く。これだけ派手で、大きな力を行使し続けているのだ、その疲労はダークが予想していたものよりも遥かに大きい。
体力の消耗が激しい。早くケリをつけないとやばい!
そんなことを考えていた時だった、ムクロが叫んだのは。
”ダーク、避けろ!”
ダークははっとして、翠月を見る。翠月の倒れた上半身の背中にいくつもの穴が開き、そこが白く輝いていた。次の瞬間、白の光は爆発する。
白の光、超高温のレーザービームが翠月の全身から溢れ四方八方に延びる。大地が、木々が焼かれ蒸発した。

「っ!」
まじいー!!
ダークは青くなりながら、周囲の惨状を確認する。かろうじてというべきか、人に対する被害は出ていないようだった。リスム村近くにも攻撃がかすったらしく、村を避ける様にこげ茶の筋が大地に刻まれている。
護身壁を村にはっといてよかった。すげー危ねー。
ドキドキと脈打つ心臓を落ち着かせ、ダークはそんな感想を漏らす。
”呑気に黄昏れている場合か!?また来るぞ!”
ムクロはそうダークに注意を促し、ダークははっとして翠月を見る。再び翠月の上半身が白く発光していた。
「させるか!」
ダークは叫び、翠月の体の周囲に渦巻く様に炎を展開する。翠月をすっぽり包んだ炎は、白のレーザーと接触し誘曝した。
グアアアーン。
巨大な爆発音が響き、辺りは水蒸気に包まれる。一泊後、大地を這うように衝撃波が突き抜けていった。
”ダーク。今だ、残る力で攻撃を!”
「わかった!」
ダークは自分の中にある力を呼び覚まし、心の中で巨大な曝炎のイメージを形成し、それを翠月にぶつけた。
「消えろ!」
曝炎は翠月を包み込む。ダークは容赦なく継続して力を注ぎ込み続けた。翠月は激しく抵抗し、深緑色の体を守るように白いシールドを張る。けれどダークの炎の力は強く、ぐすぐすと翠月の体は炎の中にわずかずつ飲み込まれていった。
やがて、5分もたっただろうかと思われる頃、翠月は炎の中、跡形もなく溶解し消えた。巨大な炎の力の前に、消滅してしまったのだった。
後には焼けこげた巨大な穴と、えぐれた大地のみが残った。

「やっと、…終わった…」
ほっとしてダークは体の力を抜く。疲労で全身の筋肉ががたがたと音をたてていた。
「はは、とうとう…やったぜ…ムク…ロ…」
途切れ途切れにそう言うとダークは、余りの疲労から自らの意識を手放した。
”??、おい、こら、ダーク!こんな所で気絶するなー!”
独りムクロは慌てて叫び、空中から落下するダークを叩き起こそうとする。しかしダークはピクリとも動かず、目を覚ます気配はなかった。
”ダーク!空中にいるのを忘れて気絶するやつがいるか!!”
ムクロの叫びと共に支える力を失ったダークは、重力の影響を受け地表めがけて一目散に落下した。


□□□□

地上で戦いの行方を見守っていた臣は、どうやらダークが勝利したらしいことを見て取り、ほっと安堵の息をつく。
よかった。勝ったんだ!
「おばば様、翠月が消滅しました!」
「うむ。どうやら何とかしてくれたようだな。さすがはフィフティーンチャイルド!」
満足気におばば様は頷く。臣も嬉しくなって一緒に笑おうとした時、何気なくダークの方を見、悲鳴をあげた。
「うわっ。おばば様、大変です!ダークさんが落下してます!」
「何?」
おばば様は臣の剣幕に驚き空を見上げる。遠く、空中に浮かんでいたはずのダークが、地面に向かって落下していく様が目に入った。
「いかん、地面にぶつかる!」
見上げた誰もが思ったその時、ふっとダークの体は空中から消え去った。
「!?」
いぶかしるおばば様の眼前に、ダークは突然姿を現す。気絶したまま、けれど誰かに抱きかかえられているかのような姿で。
そしてゆっくりと落下し、そっと道路の敷石の上に寝かされる。
「!」
驚く村人の前で、ダークの体からスルリと鮮やかな炎の鳥が飛び出した。
「わ。鳥さん?」
臣は目を丸くして炎の鳥を見つめる。
「綺麗…」
それは見事な鳥だった。清鈴は思わず誉めたたえ、じっと鳥を見入る。
炎の鳥はプルルと首をひと振りすると、ちょこんと首をかしげ金の瞳を村人に向け思念を伝えた。

”済まぬが、どこかで休ませてやってもらえぬか?随分無茶をしたので気を失ってしまったのだ”
「ええ?話せるの?」
驚いて目を丸くする清鈴をよそに、おばば様が口を挟む。
「私の家へどうぞ。何もありませんが、休むぐらいはできますので」
”それは、感謝する”
ムクロは苦笑しながら、パタパタと羽根を動かし感謝の念を伝えた。ダークはこんな大騒ぎをしている間も一向に目覚めなかった。
結局ダークが目覚めたのは実に五時間後だった。


□□□□

「ん…。ほえ?ムクロ?」
体の中から外に出ているのか?
”のんきな奴め。気絶したのを覚えているか?”
ムクロは金の瞳にため息をのせ、呆れたような思念を伝えてくる。
「そういえば、そうだっけ。悪い、つい気を抜いちまった。迷惑かけたかな?…ところでここどこ?」
”おばば様の家だよ”
とたんにダークは頭を抱え、蹲る。
「うわー、はずいかも」
民間人の家に担ぎ込まれるとは、一矢兄(かずやにい=一矢兄貴)が知ったら絶対爆笑される〜。恥だ〜!
ひとしきり赤面した頃、そっと扉が開かれた。入って来たのは臣だった。

「あ、気付かれましたか?」
「あはは…、まあな」
ダークは苦笑いを浮かべ、自分の失態を懸命に隠す。最も臣はダークを尊敬の眼差しで見ていたので、そんな態度には全く気付かなかったが。
「よかった。ああ、そうだ。ダークさんが捕まえてくれた男は、村の人達が今見張っています」
「そっか、サンキュー。手間かけさせたな。CSPO(星間中央警察)に引き渡すよ」
そう言い、ダークは、よっと、といいながら起き上がる。
「大丈夫なんですか?」
「うん。平気だよ」
軽口を叩きながら体の異常をチェックする。
大丈夫、正常だ。
”うむ、異常はこれといって見当たらないな”
ムクロはバサリと羽根を広げ、ダークの肩に飛び上がるとそのまま、左肩に乗った。そっとダークはムクロの体を撫でてやる。ムクロは気持ちよさそうに金の瞳を細める。
”心配させたかな?”
”多少な”
ムクロはやれやれというような思念をダークに返す。ダークは苦笑を浮かべ、心配性の相棒、炎の聖獣ムクロに詫びた。

そんなダークの様子を凝視していた臣は、もじもじしながら小声でダークに話しかけた。
「あ、あの。ダークさんは星間特使なんですよね?」
「俺?そうだけど?それがどうかしたのか」
臣の質問に肯定し、ダークはきょとんとして聞き返す。
「いいえ、別に。あはは、何でもないです」
臣はプルプルと首を振りながら、気にしないで欲しいと言う。
「…?変な奴」
そんな臣の様子にダークは首を捻りながらも、ムクロを肩に乗せさっそうと歩き出した。
それは、星間特使としての初の任務が完了した瞬間だった。   END



次回ちょっと番外編があります。おまけですね。本当に短くて意味のない話なんですがね。